紫耀との切なすぎる別れから1年。
廉と一緒に歩くクリスマスの街並み。
私の本当の運命の人は…。
私の小説はキンプリの楽曲の歌詞をもとにストーリーを構成しています。
今回は冬の名曲「 Glad to see you 」です!
前回のお話はこちら
クリスマス(海人サイド)
海人「あれー?姉ちゃんは?」
優太「廉とデートだろ?」
海人「えぇ~!?俺を置いてぇ!?ひどいっ!!どこ行ったの!?俺も今から行くぅ~!!ヾ(。>﹏<。)ノ」
優太「何言ってんだよ、今日はクリスマスイブだぞ?二人きりにしてやれよ!てか、お前彼女は?なんでイブに家でうだうだしてんだよ」
海人「それ聞くぅ~!?別れたのっ!フラれたのっ!」
優太「どーせ、シスコン過ぎてやだとか言われたんだろ?」
海人「はっヾ(*ㅿ*๑)ツなんでわかるの…っ!?」
優太「お前、いつもその理由でフラれてんじゃん…」
海人「自分だってシスコン過ぎて、そもそも最初から彼女できないくせにー(⑉・̆н・̆⑉)」
優太「うっさいわ!」
ボカッ。
海人「わぁ~っ!痛ぁ~い!!(。>﹏<。)」
兄ちゃんは、俺に負けず劣らずシスコンだ。
今までだったら、姉ちゃんがイブに男とデートなんて絶対に許されなかっただろう。
「クリスマスは家族で過ごすイベントです!!」とか言って、絶対姉ちゃんを家に閉じ込めていたはずだ。
姉ちゃんが紫耀と付き合っていた時も、なんとか二人を引き離そうとしてた。
そんな兄ちゃんが、廉にだけは甘いのは、あの頃、廉が姉ちゃんを救ってくれたからなんだろう。
1年前、紫耀と別れた姉ちゃんは、見ていられないほどだった…。
忠犬ハチ公(花凛サイド)
(1年前、回想)
優太「花凜ー?今日はどう?学校行けそうか?」
布団の上から優しく声をかけられても、返事もできずに、かわりに涙が出てきてすすり泣いてしまう。
その声を聞いて、お兄ちゃんは慌てて「いいよ、いいよ!無理すんな!学校には連絡しとくから!」と早口で言って部屋を出ていく。
紫耀くんがこの町を出ていって1ヶ月。
毎朝、同じこの光景。
学校に行きたくない。
紫耀くんがいなくなってしまったことを受け入れたくない。
一度休むと、学校って行けなくなるものなんだなぁ。
私は推薦でもうすでに進路は決まっているし、三学期は元々自由登校でみんな学校に行かなくなるから、このまま、卒業式まで学校に行かないのかも。
なんて、漠然と考えていた。
私は「漠然と」だけど、お兄ちゃんは「切実に」心配していて、なんとか学校に行かせる方法はないかと四苦八苦していたのだと、後で聞いた。
だから、あんなこと言ったのかな?
優太「廉は、学校終わってから毎日うちに寄ってくれてんだぞ?お前が玄関開けてやらないから、いつも家の前で何時間も待ってる。かわいそうだろ?
たまには入れてやれよ?」
廉くんは学校が終わってからうちに直行するらしく、彼女とのデートがある海人よりも早い。
お兄ちゃんは仕事なのでもちろんその時間は家に居ない。
家に1人でいる私に、男の人を家に上げなさいなんて、普段のお兄ちゃんなら絶対言わないはずなのに。
いつもインターホンが鳴っても部屋から出ないから、廉くんが毎日家の前で待っているなんて知らなかった。
すぐ帰ってるのかと思ってた。
お兄ちゃんに言われて、今日はインターホンが鳴った後、2階の部屋の窓から外を見てみた。
すると、廉くんは玄関の前にどっかりと座り込み、カバンからノートを取り出し、宿題か何かを始めた。
毎日、校門前に迎えに来てくれていた廉くんが、忠犬ハチ公に見えてきた時期があったことを思い出す。
今度は玄関前で…しかも何時間も。
つくづく忠犬ハチ公じゃん…。
そういえば、廉くんからの告白の返事も宙ぶらりんのままずっと放置してた。
それなのに毎日こんな風に、私を待っててくれたの?
こんな寒い中…。
そんな姿を目の当たりにして放っておける訳もなく、久しぶりに部屋から出て、玄関のドアを開けた。
廉「やっと開けてくれた」
廉くんは眉毛をちょっと下げて嬉しそうな切なそうな表情で儚げに笑った。
「だって、毎日何時間も家の前で待ってたなんて知らなかったから…ごめん」
廉「え、何時間もは待ってへんで?」
「へ?」
廉「宿題やって、3,40分経ったらさすがに帰っとるわ。」
「え、そうなの?」
お兄ちゃんめ、大袈裟に言ったな…。
廉「何時間も待ってたら、海人も優太も帰ってくるやろ。普通に考えたらわかるやん」
そう言いながらズカズカと部屋に入ってくる。
なにやら廉くんはキョロキョロとリビングの中を見渡す。
廉「部屋!花凜の部屋行くぞ!」
「え、なんで。リビングでいいよ。最近ずっと自分の部屋にこもってたから散らかってるし」
廉「ええから!お前が家事苦手なんはとっくに知っとるし!」
「だからって何で私の部屋?もしかして何かいかがわしい事考えてるんじゃないでしょうね?」
廉「は!?だから、お前はなんで俺に対するイメージ、いっつもそんなんなん!?」
廉くんはぷりぷりと怒りながら勝手にズカズカと二階に上がっていってしまった。
戸惑いながらも慌てて追いかけると、すでに部屋の中に入ってちゃっかりとベッドの上に座っている。
廉「あ、茶ー持ってきて。俺、客人やで?」
あ、あれ…さっきの、ひたすら私を待ち続ける忠犬ハチ公っぷりと、ドアを開けた時の儚げな笑顔の印象は私の勘違いだったかな?
なんかすごい図々しいんですけど…。
「私がいない間に部屋漁ろうとしてるんじゃないよね?下着の引き出しとか開けないでよ?」
廉「だぁーから、なんでお前の俺に対するイメージはいつも”変態”やねん!!」
廉くんに押し出されるように部屋から出て、お茶の用意をする。
二階に戻って部屋のドアを開けると、廉くんがなにやら怪しげな動きをしていた。
「え?何やって…あー!やっぱり私の荷物、漁ってんじゃん!」
廉くんは私の通学バッグの前でうずくまってごそごそしている。
廉「うわっ!もう戻ってきたんか…!?早っ!」
「もう何を勝手に人のバック漁ってんの!?本当に変態じゃん!」
慌てふためく廉くんからバッグを取り返してみると、ファスナーは開いていなかった。じゃぁ何をしていたんだろう?
ふとバックについているくまのストラップがキラリと光ったのに気付いた。
紫耀くんに誕生日に買ってもらったクマ。
その腕に、指輪が斜めになってムギュっとねじこまれていた。
一瞬、紫耀くんに買ってもらった指輪かと思った。
でも、ブランドは同じだけど、デザインがちょっと違う。多分、ワンランク上のデザイン。
「これ…」
廉「こういうサプライズがいいとか言うてたやろ?クマの腕に指輪がはまっているって言う。
クマも買うたろうと思ったけど、なんやそのクマ、気に入ってるみたいでずっとバックにつけてるから、それにつけたげたら喜ぶかと思って」
廉くんは目をそらしながらぶっきらぼうに言う。
あー…誕生日を前に浮かれていた頃、雑誌に載っていた欲しい指輪を眺めて、誕生日にしてほしいサプライズの理想を話したことがあったっけ。(16話)
廉くん、あの時私が見てたブランド、覚えててくれたんだ。
サプライズの話なんてしていないのに、ドンピシャで私の欲しい指輪を当ててこっそり買ってくれて、理想のサプライズを演出してくれた紫耀くん。
紫耀くんはいつも完璧で、私の欲しい物をくれた。
雑誌見てたはずなのに、デザインを間違っちゃってる廉くん。
しかも紫耀くんより高いもの買ってくれてるのに間違っちゃってるところがちょっと不憫だったりする…。
そして、言われた通りのサプライズを一生懸命再現しようとしてくれているのに、もたもたして見つかっちゃってるし。
サプライズ下手すぎ…。
そして指輪のはめ方も雑すぎ…。
それに何より、廉くん、廉くんは知らないけど、このクマは紫耀くんに買ってもらったものなんだよ…。
こんなことされたら、余計に紫耀くんを忘れられなくなっちゃうじゃん…。
廉くんは見かけによらず、どこかちょっと不憫で残念で不器用で、だけどいつも一生懸命に私にぶつかってきてくれる人。
本当に真逆な兄弟だな。
私が大好きだった人と、こんな私を好きだと言ってくれる人…。
いろんな感情が溢れてきて、大声で泣いた。
多分廉くんは突然のことにびっくりしていたと思うけど、そんなことも構わず泣いた。
廉「な、なんでそんなに泣くん!?あ、そんなにサプライズ嬉しかった?
じゃあ紫耀にもらったのと交換や。今日からこれつけ!」
「…そんな優しくしないで。私、廉くんのこと、利用してたんだよ。
廉くんが毎日迎えに来てくれて、それで紫耀くんの気を引けると思ってた。廉くんの告白に返事もしないで、毎日廉くんと一緒に帰りながら、私はずっと紫耀くんのことを想ってたんだよ!」
そこまではっきり言わなくてもいいのに、あえて言った。
廉くんはふっとため息をついて一度うつむいて、顔を上げてさっきと同じように眉毛を下げて、儚げに微笑んだ。
廉「…ええよ、別に。最初から、望みがありそうやから好きになるとか、思うてへんから。別に花凛が誰を好きでも、俺は花凜が好きや。
だから、紫耀のこと忘れるために、俺のこと利用してくれてもええねんで?」
傷ついた心が、廉くんの言葉に包まれていく。
「紫耀くんのこと、忘れさせてくれるの…?」
あんまり記憶がないけど、たぶん私は虚ろな目をしてそんなようなことを言ったんだと思う…。
好きな女としかしないルール(花凛サイド)
ほどよくふっくらとした唇が遠慮気味に触れる。
そのままゆっくりと2人でベッドに倒れこむ。
廉くんの細い体に手を回して、紫耀くんとは全然違う感触に安堵する。
これなら”最中”に紫耀くんを思い出してしまう事はないな…なんて、ひどいことを考えていた。
「…廉くん?」
ふと、廉くんの動きが止まっていることに気づき、目を開く。
いつもの紫耀くんの感じだと、ここから優しく、だけど絶え間ない攻撃が始まるのだけれど。
廉「俺、俺のことを好きな女としかせえへんて言うたやん…?」
「私が廉くんのこと好きじゃないからってこと?廉くん、紫耀くんのこと忘れさせてくれるんでしょ?廉くんのこと、好きにさせてくれるんじゃないの?」
廉「そういうことやなくて…」
「どういうこと?」
廉「俺、好きな女としかせえへんとも言うたやん?」
「うん?」
廉「俺は、母親のことがあったから、今まで女って生き物を毛嫌いしてて、好きな女とかできたことなかったから」
「から?」
廉「つまり…」
「つまり…?」
ん?
海人の話によると、廉くんはやっぱりこれだけのイケメンなので、見た目でキャーキャー寄ってくる女子がたくさんいると言っていた。
だけど廉くんは女嫌いで、全然相手にしてこなかったとか。
紫耀くんにはバイトも禁止されていたほどの箱入りで、ほぼ学校と家の往復だけの毎日。
彼女どころか、女友達と遊ぶと言うこともなかったらしい。
遊びに来るのはうちだけ。
て事は…つまり…
「えぇーーっ⁉︎もしかして廉くんて、今まで1度もしたことないの!?」
廉「でっ、でかい声でゆーな‼︎(//□//)」
「うそでしょ!?その顔で!?詐欺じゃん!やってるやってる詐欺じゃん!!」
廉「なんやそれ!?」
「だって絶対遊んでいる顔じゃん!手慣れている顔じゃん!」
廉「そ、そんなん言うたって仕方ないやろ!?今まで好きになった女とかいなかったんやから!!」
「そ、それは、初めて好きになったのが私って言う…?逆に、そんな記念すべき相手が私なんかでいいのかなって不安になるんですけど…」
廉「だからお前がいい言うとるやろ?何回言わせればわかんねん!」
うっ…、もうなんかさー、このギャルフェイスでこのピュアさとかほんと、胸がキュゥッてなるんですけど。
なんだかすごく廉くんがいとおしく感じた。
「廉くん」
真っ赤になってうつむいている廉くんの顔をすくいあげるように今度は私からキスをする。
廉くんはハッとして、固まっている。
私の方が“経験者“なんだから、リードしなきゃ。
えーっと、この後、どうするんだっけ…?
うーん…ん?
しまった…!“女側からリードするパターン“に関しては、私も未経験者じゃん!
というか、いつも紫耀くんに全て身を委ねていたから、「経験あります」なんて言えるほどの技術は持ち合わせていない。
「ごめん…私も、ここからどうしていいのかわかんない…」
廉「ええから!俺がリードするから!男やから!紫耀に教えてもらったテクニックなんか出さんでええから!てか、そんなん全部忘れて!!」
「いや、別にそんなテクニックなんてないけど…」
今度は廉くんからのキス。
廉「じゃあ…次はちょっと、触ってみてもええ?」
廉くんの手が、私の胸の前に準備されている。
「えぇっ⁉︎////」
廉「えっ⁉︎ダ、ダメ⁉︎わーっごめんなさい、ごめんなさい!!(//□//)」
「や、だめっていうか、そういうのは聞かないでしてもらえたほうが助かります…」
廉「そ、そうなんや…じゃ、じゃあ無許可でいきます…!」
「あ、はい…」
こんな感じで、ムードもへったくれもなく始まった私たちの“初めて“。
紫耀くんとのときの事は「全部忘れて」と廉くんに言われたばっかりだけど、やっぱり思い出していた。
紫耀くんには、すべてを委ねられた。
全部紫耀くんが引っ張ってくれて、それに従っていれば絶対に間違いは起きなくて、安心で、気持ちよくして“くれた“し、幸せにして“くれた“。
紫耀くんの大きな手の中で、大事に大事に守られている感覚。
だけど、守られるお姫様の座を他の人にとって変わられても、きっと紫耀くんの完璧さは揺るがない。
廉くんは、確かに頼りにならないところも多々ある。
でも、「できない事は一緒に成長していく」と廉くんが以前言っていた通り、2人で正解を探し当てていくみたいな感覚。
お互いに相手の足りないところを補い合っていく関係は、半分は私でできていて、そこが私じゃなくなったら、廉くんもまた別の何かになってしまう。
だから、私たちはお互いにお互いを必要とする。
「俺が守るよ」と言ってくれた紫耀くんに対して、
「俺にはお前しかおらん」とすがってきた廉くん。
そんな二人の対照的な愛し方。
紫耀くんからのデロデロに甘やかされた愛され方が好きだったと思っていたけど、本当はこっちが正解だったのかもしれない。
完璧な人に守られる“何か“じゃなくて、絶対的に必要とされている“私“の方が幸せになれると思わない?
ねぇ、私、間違ってないよね?
廉「ぅあ…っ!」
初めてのそれは、多分ものの数分だった。
廉「わ!ごめん!ちょ、待って!ちゃう!ちゃうちゃうちゃうちゃう!こんな早いつもりなかったんやけど、ちょっと油断した隙に、不意打ちくらったっていうか…!?いや!もうちょいいけるはずやった!」
なんかすごい必死で言い訳してる…。
そんな姿が可愛くて、またいとおしく思えた。
「廉くん、なんだかすごく幸せな気持ちになれたよ」
廉「…ほんま…に?俺も…幸せすぎて死ぬかと思ったぁ〜〜〜‼︎つーか、何なんこれ!?気っ持ちよすぎやろ!?今までこんなん知らずに生きてた俺、人生損してたんちゃう!?」
「え、なんか、今までの反動でめちゃくちゃ遊び人になりそう…」
廉「んなわけないやろ!花凛以外の女なんかと、したいと思わんわ!俺は好きな女としかしないって何度も言うとるやろ!?」
「またそういう純潔乙女のような発言を…」
廉「本当は”俺を好きな女”としかしないってルールもあったけど、それはまぁなんや…”未来に好きになってくれる予定の女”に範囲広げたから!ちゃんと俺のことを好きにさせるから!」
「もうなった」
廉「ぅえっ!?ほんまにっ!?」
「たぶん。ちょっとだけ」
廉「い、いつ!?」
「今」
廉「…俺の体に惚れたの?」
ベシッ。
廉「はい、すんません…」
廉「いやっ…でも、ちょっとだけでも、マジで嬉しいんやけど…‼︎え〜っ⁉︎体じゃなかったら、どこやろぉ〜⁉︎それ以外に今なんかあった⁉︎ええ〜〜⁉︎(*´Д`*)」
そういうところだよッ。
顔に似合わずめちゃくちゃピュアなところ。
不器用だけど、一生懸命なところ。
体全部で私を好きだと表現してくれるところ。
多分、本当にちょっとだけ廉くんのことを好きになった。
そりゃ、紫耀くんのことを好きだった時ほど満タンでは無いけど、もう既に空っぽになっていた私の心、そしてこの先潤うことはないだろうと思ってた心が、ほんのちょっとだけでも好きの気持ちで潤ったことは、大きな大きな前進だった。
紫耀くんを忘れるために、廉くんを利用する。
そんな方法は本当は最低なんだろうけど、その中にほんの少しでも”本物の好き”が混ざっているなら、神様、私は許されますか…?
そして、紫耀くんのことを、忘れさせてくれますか…?
(回想おわり)
体の関係から始まる本当の恋(花凛サイド)
「えっ、えぇーっ!?花凛ちゃんじゃない⁉︎わーっ久しぶりー!!」
振り返ると、どことなく見覚えのある女友達の顔2つがブンブンと手を振りながら近づいてきた。
友達「えー!花凛ちゃん、こっち戻ってきてたの!?小学校以来じゃん!超懐かしい!」
小学校の時の同級生だった。
そして2人は、隣の廉くんの顔を見上げて、ぎょっとする。
友達「えっえっ?うっそ!めっちゃイケメンなんだけど…!!彼氏!?彼氏!?」
「あ、うん、そう」
友達「マジで!?花凛ちゃん、こんなイケメンの彼氏いるの!?どうも~♡」
目をハートにさせている友達に、廉くんが「どうも」と少し照れながら会釈する。
友達「もうなんで昔から、花凛ちゃんは超絶イケメンに好かれるんだろうねぇ!うらやましすぎ!」
友達「あぁ〜、確かに!小学校の時、絶対平野は花凛ちゃんのこと好きだったよね!!もう今や、遠すぎる存在だけどね〜…」
2人が近くにあるビルを見上げる。
そこには、でかでかと最近公開した映画の広告がつるされていた。きれいな顔の男女が顔を寄せている。
色気ダダ漏れで女優さんの頬に手を添えている男の人は、紫耀くんだった。
紫耀くんがこの街を出て行ってから1年たらずなのに、紫耀くんは、超有名人になっていた。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いの大人気アイドルグループのセンター。
ドラマや映画も主演でバンバン出演してヒットを飛ばしている。
紫耀くんがアイドルになると言って東京に行くと聞いた時、きっと成功するに違いないと思ってはいたけど、まさかこんなに早くここまで大物になってしまうとはさすがに思わなかった。
今は街を歩けば、紫耀くんの顔をいたるところで目撃する。目を背ける事は困難と言えた。
友達「本当、お似合いだよねー!あの2人!!」
つい最近、紫耀くんとあの女優さんとの熱愛が発覚した。
映画の共演で仲良くなって、交際に発展したらしい。
お人形のような顔をした可愛い女優さんと、1年前よりももっとあか抜けてさらに完成度が増した紫耀くん。
確かにお似合いとしか言いようがなかった。
普通だったらデビューしたばかりの大人気のアイドルに熱愛発覚なんて致命的だけど、お相手の女優さんが誰もがひれ伏すほどの超絶美少女で、それでいてさっぱりとした性格で同性からも好感度が高かったため、2人の恋はみんなに祝福されていた。
紫耀くん、彼女できたんだ…。
ワイドショーを見たとき、チクリと胸に痛みを覚えた。
でも、紫耀くんと別れたあの日から、私たちは別々の道を歩き始めていたんだ。
紫耀くんが、新たに恋をして誰かと付き合っていたって、それは当然のことなのだ。
友達「花凛ちゃん、小学校の時に平野のこと捕まえておけばって、後悔してるんじゃない!?」
「ハハ…」と愛想笑いを浮かべるので精一杯だった。
“高校で再会して、いちど付き合いました”とは言えない。
廉くんのほうは気まずすぎて振り向けない。
友達「それにしても彼氏さん、若いね?もしかして年下?」
そして友達の興味は、また廉くんに戻ってきた。
“紫耀くんの弟“として、廉くんも彼女たちと何年かは学校が被っているはずだけど、さすがに子供の頃から顔が変わっているのか、気づいていないようだった。
「うん、2個下」
友達「うっそ!じゃあまだ高校2年生じゃん!どうやって知り合ったの!?」
「あ、高校の頃から付き合い始めたから」
友達「へぇ〜そうなんだ!馴れ初めは!?」
何年かぶりに会っても、昔から知っている人間の距離感は一気にその頃に戻る感覚がある。
だからか、遠慮なくグイグイくるな…。
「あ、弟の友達で。それで知り合ったんだよね」
まさか「元彼の弟です。元彼にふられたので乗り換えました。そしてその元彼とは、さっきあなたたちが話していた小学校の頃からみんなのアイドルだった平野くんです」とは言えない。
さらに馴れ初めは「元彼の平野くんを忘れるために、付き合う前から体の関係を持ちました。それがそのまま続いて、今に至ります」とも言えない。
友達「あー!花凛ちゃんの弟って、あのおめめクリクリの!かわいかったよねー!今頃、イケメンに成長してるんだろうなぁ!やっぱイケメンの周りにはイケメンが集まるんだねぇ!」
やけに納得した友達は、満足したのか「今度イケメン紹介してね!」と大きく手を振って言ってしまった。
なんとなく隣にいる廉くんのことを振り返れずにいると、ふわっと廉くんに後ろから包み込まれた。
「え!何!どうしたの!?」
廉「…“彼氏“って紹介してくれて、うれしかった」
「だって、彼氏でしょ?」
廉「ちゃんと確認したことなかったから。本当はずっとちょっと不安やった」
「いやいや、彼氏以外の何者でもないでしょ…だって」
廉「やることやってるから?いや、まだセフレの可能性もあるかなって。俺の体だけが目当てなのかなって。俺の体のトリコなのかなって」
「よくもまぁ、そんな自信満々な発言ができますね… (呆)」
あの日から、廉くんは通い妻のように献身的に家を訪れ、そのたびに私を愛してくれた。
正直、私の方からそれを求めた。
最初はぎこちなかったけど、廉くんはどんどん私を悦ばせる方法を開拓していった。
紫耀くんの体とは全然違う感触に包まれれば、紫耀くんを忘れられるような気がしたし、実際廉くんとのそれに快楽を感じられていることに安心できた。
私、前に進めるんだ。
廉くんがいてくれれば…。
紫耀くんがレンタル彼氏でいろいろな女の人と体の関係があったことがきっかけで私たちは壊れたのに、今度は、過去の恋を忘れるためにまだ完全には好きになってない人と、体の関係から始まる恋をしようとしている。
そんなのおかしい、普通じゃないってわかってたけど、でも廉くんの体温を感じるたびに、廉くんのことを愛おしく感じるようになっていったのは事実。
体の関係を持っていても、心が私のところにあったのなら本当はそれでよかったのかもしれないし、体から始まった関係だったとしても、後からそこに”本当の好き”が生まれたなら、私たちは汚れた関係ではない。
体の関係なんてあってもなくても、それが後でも先でも、本当はそんなに大きなことではなかったのかもしれない。
今更そんなふうに考えても、もうどうにもならないけど。
それに、もしあんなことがなかったら、私と紫耀くんは別れてなかった。紫耀くんと別れてなかったら、廉くんと付き合うこともなかった。
今、廉くんと付き合って幸せなら、今まで起こった全ての事、今までしてきた自分の選択、どれも後悔は無い。
紫耀くんと別れたことも、運命。
廉くんと幸せになることが、運命だったんだ。
プロポーズ(花凛サイド)
廉「花凛…」
廉くんが、後ろから私の手を取る。
廉「指輪、左につけかえよっか?」
え、それって…
「プロポーズゥ〜ッ⁉︎」
前に、廉くんに語った夢。
“好きな人から、サプライズで指輪をプレゼントされたい。クマのぬいぐるみのプレゼントかと思ったら、クマの腕に指輪がはまってたっていうサプライズ。
そして、ちょっと長く付き合ったら、“指輪、左に付けかえるか?“ってプロポーズされるの!“
あの時、廉くんは「妄想ひどすぎ」なんて馬鹿にしていたけど、めちゃくちゃ覚えててくれてんじゃん…。
「ん?てか、廉くんまだ16歳じゃん!結婚できないじゃん!」
廉「うん。でも、ここまでやらんとお前の夢、完結してないやろ?もう早くやりたくてうずうずしちゃって。“ちょっと長く付き合ったら“って言ってたから、1年位は我慢しなきゃなーって。そしたらやっぱりクリスマスってのが1番タイミングいいかなぁって…」
下手すぎるサプライズで指輪をくれたあの時から、ずっとこのことを計画してうずうずしていた廉くんを思ったら、なんだか笑ってしまった。
廉「花凛、そのクマ、ずっと大事につけてるし、やっぱ俺が指輪あげた時のこと、大切に思ってくれてるんかなぁって。だったら、ちゃんと最後まで理想のサプライズを叶えてあげたいやん?」
「そっか、ありがとう」
通学バックに付けていたクマは、今は普段使っているバックに付け替えている。
紫耀くんがくれたものだからってわけじゃない。
廉くんがこのクマでサプライズしてくれたから、今は廉くんとの思い出の品になっているだけ。
だから捨てられないでいる。それだけ。
廉「なぁなぁ〜、指輪、左に付け替えてくれへんのぉ?」
また廉くんが後ろからぎゅっと抱きしめ、だだをこねる子どもみたいな言い方をする。
「だって廉くん、まだ16歳だしなぁ」
廉「じゃぁ予約でいいから!いつか婚約するって約束の、”婚約約”指輪ってことで、1回左につけてみーひん⁉︎」
「うん、じゃあ、いいよ…」
廉「やった!」
廉くんは、後ろから私の右手に付いていた指輪を外し、左手に付け替えた。
廉「花凛、大好きやで。もっと大人になったら、結婚しよな?」
「うん…」
廉くんは再び両腕に力を込める。
街中で抱き合っていても気にならないくらい、周りには恋人たちが溢れていて、みんなそれぞれにイチャついていた。
みんな幸せそうに笑ってる。
私も幸せな恋人たちに紛れているだろうか?
ちゃんと笑えているだろうか?
きっと大丈夫。
ズタボロになっていた私を引っ張り上げてくれたのはこの手だ。
紫耀くんと一緒にいた時のようなドキドキとはちょっと違う。
だけど、安心するの。この手に包まれていると安心する。
大事な手を二度と離してはいけない。
私はすっぽりと包まれながら、その腕をキュッと掴んだ。
街を行き交う恋人たち
よけるように歩いてたみち
“私なんてきっとダメね
あんなに素直に笑えないし“
リボンを解くような ドキドキだけじゃなくて
強く結んだ この手と手の優しさを
分け合おう
King & Prince「Glad to see you」
作詞:河田総一郎、作曲:河田総一郎・佐々木望
雪(廉サイド)
「廉くん!雪‼︎」
花凛が振り向いて目をパチパチさせている。
一瞬ホコリでも舞ってるんかな?と思ったが、まさかの雪だった。
このへんは暖かくて雪が降るのはすごく珍しい。
ってか、俺がこっちに引っ越してきてから、雪なんて初めて見た。
「キャー!すごーい!雪だよ、雪!本物〜っ‼︎」
案の定、花凛は大喜びして子供みたいにはしゃいでる。
「このへんって雪降ることないじゃん⁉︎びっくりだねぇ‼︎でもね、子供の頃にね、一回だけけっこう積もったことあるんだよ!こっちの人って雪に慣れてないから、学校も大騒ぎで休みになってさぁ!なのに逆にみんなで学校行って、校庭で雪合戦大会やって!楽しかったなぁ‼︎」
興奮気味に思い出話をする花凛を見て、少し胸がキュッとなる。
それはきっと俺がこの街に来る前の話や。
俺の知らない花凛がいる。
そして、そこには紫耀がいたんやろ?
懐かしそうに話す横顔
“僕の知らない君” 切なくなる
でもこの先 何年 何十年と
僕しか知らない いろんな君と出逢って
もっと君を好きになる
King & Prince「Glad to see you」
作詞:河田総一郎、作曲:河田総一郎・佐々木望
去年、花凛と出会って、俺は変われた。
女なんて大嫌いやった。
女は弱さを盾に男に甘え、利用するだけしたら、ポイっと捨てる生き物なんだと思ってた。
そして、そうやって女を恨むことで、自分をごまかそうとしている“弱虫な自分“が最高に嫌いやった。
でも花凛と出逢えて、人を好きになる気持ちを知った。
切なくて苦しくて、でもまたそばに行きたい。
振り向いて笑ってくれたら、それだけで全てが帳消しになるほど世界が輝く。
花凛を傷つけようとしているヤツがいれば、どんなに怖くても立ち向かえる。
もし花凛を悲しみの渦からすくい上げてあげられるのなら、利用されたってかまわないとさえ思えた。
そんなふうに、人を好きになる強さや温かさを知った。
そして何より、花凛といる時の自分が、俺は今、けっこう好きや。
でもね あの日僕ら出逢い
去年までと違うみたい
“嫌いだった自分の事
ほんの少し好きになれたよ”
King & Prince「Glad to see you」
作詞:河田総一郎、作曲:河田総一郎・佐々木望
パチン!
「雪とった!」
花凛が空中で手を合わせる。そっと手を開くが、当然、水に姿を変えてしまって雪の形は残っていない。
「あー、なくなっちゃった」
廉「そらそうやろ(笑)」
俺が呆れたようにふっと笑い、花凛もあははと笑う。
こっちを見て花凛が笑う。
「廉くん」と名前を呼ぶ。
俺の体に触れる。
俺にとっては、そのひとつひとつが、今、こんな温暖な街に突然降ってきた雪のように、まるで奇跡みたいな出来事で。
無理やり捕まえようとしたら、あっという間に消えてなくなってしまうのかもしれない。
だったら無理せず君の笑顔をそっと見守っていたなら、この奇跡はどれくらい続いてくれるんやろう?
だけど俺は焦ってしまう。
まだ結婚なんてできる年齢じゃないのに、約束が欲しい。
この先も、花凛が俺の隣にいてくれるって言う約束が。
一粒の雪が花凛のマフラーの上に落ちて、数秒白い姿を留めた。
俺は流れ星に願いをかけるかのように、ハッとして目を奪われる。
しかしすぐに、その雪はスッと透明になって消えた。
花凛はそのことには気づかず、まだ雪を取ろうと両手を上げて構えている。
その左手の薬指には、半ば強引に付け替えさせた指輪が光っている。
いくら指輪で縛っても、何度体で繋がっても、心までは縛れない。
そんなことはわかってる。
花凛が俺を好きになる。
ずっと夢見てきたこと。
本当にただ夢を見ているだけなのかもしれない。
それなら、できるだけ長く、覚めないでと願う。
この手のひらで きらめいて溶ける雪のように
心は透明で掴めないから もどかしいけど
いま君のマフラーの上
少しの間 溶けずにいた雪のように
儚い願いでも…
King & Prince「Glad to see you」
作詞:河田総一郎、作曲:河田総一郎・佐々木望
廉「行こ」
手を差し出すと、タタタッと駆け寄ってきて、花凛が俺の手を握る。
「廉くんと初めて過ごすクリスマスが、ホワイトクリスマスになるなんてすごいロマンチックだね!また来年も降らないかなぁ〜」
花凛の口ぶりが、「来年も一緒にいる」ことが前提になっていて、口元がにやける。
隣をご機嫌で歩く花凛は、思い出話から話題は移って、さっき見た映画の話、次のデートはここに行きたい、あれをやりたいなど、とりとめもなく喋り続けている。
俺はただ「うんうん」とすべてに頷く。
出会ったのは、確かに紫耀より遅かった。
俺が持っている花凛との思い出は、紫耀のそれより少ない。
でも、これから俺は、花凛との思い出を無限に作っていけるんや。
自信を持てば良い。
俺は花凛に選ばれた人間なんやから。
でもこの先 何年 何十年と
僕しか知らない いろんな君と出逢って
もっと君を好きになる
これから先はどんな思い出にも
君が記録(うつ)っていくんだね
人の心は見えない。
最終的には信じるしかない。
花凛が俺に向けてくれる笑顔を信じるから、これから先、絶対に花凛を傷つけないと誓うから、
神様、どうかこの幸せが続きますように。
街に流れている弾むような明るいラブソングも聞こえないほど、隣で話す花凛の話し声と笑い声が俺の心に降り積もっていった。
いま街中に流れてるどんなラブソングより
僕の心に降り積もっていく
君の笑顔
いま君が夢に見てる将来(みらい)の
その隣で僕が君を守る…
「誓うよ」
King & Prince「Glad to see you」
作詞:河田総一郎、作曲:河田総一郎・佐々木望
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年末の庭ラジで、2021年のれんれんの面白かった発言ランキングをやっていて、
焦って「ちゃうちゃうちゃう!ごめん!ちょっと待って!」とすごい慌てていたれんれんがノミネートされていたので、小説のセリフとして採用とさせていただきました!(笑)
ていうか、れんれんのとんでもない設定、すみません…。
永瀬廉Radio Garden「庭ラジ」12月30日 2021年の永瀬廉の発言振り返り!一番面白かったのは?
コメント
19話読ませていただきました!
毎回毎回「次の投稿はいつだろう?」そわそわしているのに読むのが少し遅くなってしまいます(笑)
今回の小説「Seasons of Love」ではキャラクター的には廉くんの方が好きだったりします笑笑
紫耀くんは花凜ちゃんのことを物凄く大事にしてくれて完璧。
廉くんは外見ちょっとチャラいのにピュア。
私は廉くんみたいなギャップ結構好きです(笑)
例えばセクゾの菊池風磨くんとかバラエティー番組とかラジオで変なことばっかり言ってるけど、陰でたくさん努力して慶応義塾大学に行ったりとか…
やっぱり女の子はギャップが好きなんです(笑)
19話、さらに追記しました!
最近は、少しでも頻繁に更新できるように、小出し方式にしています(笑)
私も、これの前の小説「koi-wazurai」でも、廉くんのキャラがすごく好きで、最後紫耀くんエンドにするのが、とても心苦しかったのです!
小説を書いていると、私、本当は隠れ廉くん推しなんじゃないかな?と思う時あります(笑)
菊池風磨くん、私も最近好きですよ!わたし的には、歌番組などで見る「かっこつけ」のクールなナルシストのキャラだったのに、バラエティー番組で体張ってたり、最近始まったドラマではめちゃくちゃチャラい(でも人情味ある)キャラクターだったりが、ギャップを感じていいなと思っていましたが、そこからさらに「実は努力家」と言うギャップもあったんですね!