キンプリ妄想歌詞小説「Doll」9話

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前回、紫耀くんピンチ…!?のところで終わってから、長らく時間が空いてしまいました…すみません。さてさて、紫耀くんは無事なのか…!?続きをどうぞ…!

 

こちらはキンプリの曲「Doll」の歌詞からインスパイアされた小説です。

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途絶えた連絡

授業参観の日、紫耀くんは来なかった。
結局、ドッチボール大会で咲人のクラスは負けて、その日の帰り道では「紫耀くんが来なかったからだ!紫耀くんのせいだ!紫耀くんなんて大嫌い!」と咲人は大泣きした。

咲人のクラスが負けたのは、普通に別のクラスにすごくドッチボールの強い子がいたからだった。咲人も紫耀くんにコツを教えてもらってかなり上手になったけど、私と廉の子だ。上手くなるったって限界がある。

それにしても、紫耀くんどうしたんだろう?急に仕事になっちゃったのかな?でも、それなら連絡してくれるはずだよね。こちらからメールをしてみたけど、返事はなかった。

「絶対来る」って約束してくれたのに。紫耀くんも楽しみにしてくれているように見えたのに。

返事がないのに、もう一度メールを送ってみたけど、やっぱり返事はなく、それどころか最初のメールにも既読がついていなかった。

あれ?なんか無視されてる?え?既読つかないとか、もしかしてブロックされた??

なんで急に?さすがに毎週のように公園に付き合ってもらって嫌になっちゃったのかな?

もしかしたら今までも、咲人に頼み込まれて、無理して付き合ってくれていたのかも。

それなのに、授業参観にまで誘われて、「ほんと勘弁してくれ」って感じだったのかも。
紫耀くんが優しいからって、ちょっと距離感間違えたか…!?(゚Д゚;)

自動車学校にも行ってみたけど、紫耀くんはお休みだった。そして気になることに大坪先生もお休みだった。

受付の人にどうしてお休みなのか聞いてみようと思ったけど、なぜそんなことを一教習生が聞くのか、おかしく思われないか?と躊躇していたら、全く躊躇なく「平野先生ってなんでお休みなんですかぁー?」と聞いている若い子達がいて、その返事を盗み聞きしたところ、「ちょっと体調不良で…」と受付の人が答えていた。

若い子達はもちろん紫耀くんのことしか聞かないので、大坪先生のことはわからないが、大坪先生も同じように体調不良ということだろうか?2人は同棲しているのだから、同じ時期に体調が悪くなっても何らおかしくはない。

でもいくら体調が悪いっていっても、連絡くらいは取れるはず。
やっぱり、ブロックされてる可能性高いじゃん…。

あわわわ…ヤバい、授業参観なんて誘っちゃって、やっちまったぁ~…。


「咲人行くぞ!」

廉がボールを持って振りかぶる。

週末、いつものように廉はこっちに来ていた。ドッチボール大会の結果にどうしても納得できない咲人が「パパにも僕がどれだけ上手いか見せてあげたい!」と言って、面倒臭がる廉を連れて公園に来ている。

ポロ…。

廉「あれ?」

振りかぶってボールを投げようとしたら、投げる前に廉の手からボールがポロリとこぼれ、廉の頭の後ろにふわりと落ちた。

ダサッ!!

思わずプッと吹き出してしまう。

咲人も「キャハハハ!パパ下手くそ~!」とお腹を抱えて笑っている。

「ちゃうちゃうちゃう!今のはちょっと失敗しただけ!」

廉が慌ててボールを拾い上げて、もう一度投げる。
今度はそれなりの球が飛んだが、最近ずっと紫耀くんの特訓を見てきたから、それに比べると、なんだか廉の動きが変に見える。
いや、比べちゃいけない。比べる対象が悪すぎる。

「ああ~、もう体中バッキバキやわ。明日絶対仕事でけへん」

帰り道、腕をぐるぐると回しながら、廉が顔をしかめる。
廉は何をやらしてもスマートにこなしそうな風貌をしているわりに、運動があまりできない。

でも、
この顔で、ちょっとダサいところがあるのが、どうしようもなく愛しくもある。

廉「?なに?じっと見て」

そんなことを考えていたら、ちょっと斜め後ろから廉のことをじーっと凝視していたみたいで、そんな私の視線に気づいた廉が、コテっと首を傾げながら振り向く。

花凛「えっ、…いやいや、何でもないよ」

廉「なんやねん、俺の横顔に見とれてたん~?」

廉がクイっと顎を上げて自慢の角度を作ってみせる。顎からくっきりと伸びたフェイスラインが本当に美しい。

この顔でちょっとボール投げる時のフォーム、ちょっと変なんだもんなぁ。

「ふふっ」

また、さっきの公園での姿を思い出して笑ってしまう。

廉「ん~?だから何さっきから笑ってんねん~?」

私がずっとニヤニヤしているので、私の機嫌がいいのだと思って廉もなんだか嬉しそうだ。

さっきも本当に私が廉の横顔に見惚れてたんだと思い込んで、勝手に喜んでニヤニヤしている。

そんな廉を見ていると、かわいいなぁとか愛しいなぁと思う反面、胸がキュっと痛くなる。

この痛みの原因はわかってる。目を背けて気づいていないふりをしてきたけど、本当はわかってる。

廉への罪悪感だ。

私はつくづくズルい女だと思う。
紫耀くんと会えている時間は楽しくて、今後もずっと仲良くしていきたいと思ってて。今も連絡が取れなくなって、すごく気になっている。
だけど、休日に廉と一緒に過ごせば、やっぱり幸せを感じる。

何をやらせても完璧な紫耀くんはやっぱりかっこいいと思うし、でも廉のちょっとダサい部分も愛おしい。

「どっちも好き」とか、そんなの許されるわけないのに、正直なところ…

本当にどっちも好きなのだ。

今まで、「私達は別になんでもないから」と言い訳しながら紫耀くんと会い続けてきたけど、会う時間が長くなればなるほど、自分の気持ちを認めざるを得なくなってきていた。

これは、紛れもない紫耀くんへの”未練”だ。

だからといって、咲人と廉との幸せな生活を手放す勇気なんてこれっぽっちもない。

紫耀くんと会っていることを廉が知ったら絶対嫌がる。廉が嫌がることならすぐにやめなきゃいけない。だから私はいつまでも紫耀くんと再会したことを、廉に打ち明けられずにいるのだ。

「秘密にしたら浮気」その廉の定義からすると、もう私は浮気をしているのだろう。

いけないことだってわかってるのに、紫耀くんに会いたい。その気持ちが、「あとちょっと、もうちょっとだけ…」とここまで先延ばしにして、さらに自動車学校で会うだけならまだしも、個人的に連絡取って会うようになって、どんどんエスカレートしてきた。

だから、
紫耀くんと連絡が取れなくなったのは、よかったんだ。
このままでは、本当に過ちをおかしてしまうところだった。

きっと、自分自身の意思で紫耀くんを断ち切ることができない私を見るに見かねて、神様がもう一度私たちを引き離してくれたんだ。

うん、これでよかった…。




なんて言いつつ、やっぱりどこか諦めきれなくて、”もりもっちゃん”に来てしまった。今日は、咲人が学校のお泊り教室に参加していて帰ってこない。そして、両親も「それならたまには一人でゆっくりしなさいよ」と旅行に行ってしまった。
そんなつかの間の一人の時間に何をやっているんだと、やはり罪悪感もあるけれど…

でも、こんなに突然連絡が途絶えて、理由もわからない。

まるで、昔、突然別れを告げられ電車のホームで愕然と立ち尽くした高3の時の私みたいに。このままじゃ、どうしても紫耀くんへの未練が消えない。

紫耀くんとの繋がりを唯一保っているのは、もう森本さんだけだ。何か知ってるかもしれない。

真実が知れれば、それで納得できるから。紫耀くんが私に会うのが嫌になったと言うなら、今度こそちゃんと受け入れるから。

「あっ!花凛ちゃん!!」

店に入った瞬間、森本さんが顔色を変えて、ガシャガシャガシャン!とお皿をひっくり返しそうな勢いでカウンターの外に出てきた。

森本「よかったぁ、花凛ちゃん来てくれて!紫耀が…紫耀が、大変だったんだよ…!!」

花凛「えっ…?」

別れ(紫耀サイド)


真理子に薬を飲まされて意識が遠のいていくとき、あぁ、死ぬのか…と思った。しかし、俺は目を覚ました。


あ、生きてる…。


頭はぼーっとしていて、体が重くて動かない。

睡…眠薬…?
そうか、眠らされていただけだったのか。

気づけば俺は裸でベッドに横たわっていて、隣にはやはり裸の真理子が寝ていた。
だんだんと手足の間隔が戻ってきて少し動かすと、真理子が目を開け、「紫耀くん…起きた?」と俺の体に腕を絡めてきた。

そのまま起き上がった真理子は、俺の上にまたがりキスをして、そのままその唇を首、胸、へそ、そしてその下へとゆっくりと濃密に這わせていく。
その感覚で、俺は自分が下も裸なことに気づく。真理子は、俺が寝ている間にも試みたのかもしれない。

真理子のことをはねのけるほど、まだ体に力が戻ってきていない。しかし、そんなふうに拒絶しなくても、俺の体は真理子を受け入れていなかったようだ。

真理子「まだ、起きたばっかだからダメかな?」

しばらくがんばった後、真理子がタオルケットから頭を出して、「ふぅ」とため息まじりに微笑んだ。

紫耀「真理子、ごめん…」
真理子「ううん、いいよ。今はまだできないよね。ちゃんと体が起きてからでいいよ」
紫耀「そうじゃなくて、ごめん。俺、もう真理子とはできない」

真理子が視線を下げたまま、動きを止める。

だんだんと頭がしっかりしてきた。体も動くようになってきた。ゆっくりと起き上がる。

紫耀「ごめん…他に好きな人がいる」

昔、演じたドラマの中で言ったようなセリフ、別れるとき、本当にこうやって言う人いるんだ。なんて、どこか傍観した気持ちで自分がおかしく思える。


いや、これが普通なのか。誰かを好きになって、付き合って、月日と共に気持ちが冷めたり心変わりして、「他に好きな人がいる」なんて言って別れを告げる。
たぶん、多くの人がしているこのやり取りが、”恋愛”というやつなのだ。

花凛と別れてから、俺はちゃんと恋愛をしてこなかったから、「好きだ」と言って付き合い始めることもなければ、「他に好きな人ができた」と言って別れることもなかった。
今まで、そばにいてくれる人にちゃんと向き合ってこなかったから。

真理子「どうして…どうしてそんなこと言うの?好きな人って、あの子でしょ?今日だって、あの子に、会いに行こうとしてたんでしょ?あの子と連絡取ってたんだね!?」

真理子は枕元に置いてあった俺のスマホを掲げて見せる。

”紫耀くん、どうしたの?来れなくなっちゃった?”

花凛からメールが入っていた。

俺がスマホに手を伸ばそうとすると、真理子はさっとベッドから降りるとキッチンへと向かう。するとスマホを床にたたきつけると、フライパンを取り出し、思いっきりスマホに向かって振り下ろした。

真理子「ほら、これでもうあの子とは連絡取れなくなったよ。あ、でも自動車学校に来るよね。じゃあ、もう紫耀くんは働かなくていいから、ずっとこの部屋にいて!大丈夫、私がちゃんと稼いでくるから、紫耀くんはこの部屋でずっと遊んでていいんだよ?」
紫耀「真理子…」

真理子は俺に何も言わせまいとするように、ベッド脇にしゃがみこんですがりつく。


真理子「あ、私が、睡眠薬なんて飲ませたから怒った?ごめんなさい!でも、どうしても紫耀くんに行ってほしくなくて。私、どうかしてた…本当にごめんなさい!もうしないから!だから別れるなんて言わないで…!」
紫耀「睡眠薬のことは…いいよ。そこまで真理子をおかしくさせたのは、俺だよ。俺が今まで真理子に不誠実な態度を取ってきたから。本当にごめん…」
真理子「…それでもよかったんだよ。紫耀くんに愛されてないことなんて、わかってたよ。紫耀くんは、”愛してる”って言ってくれてもどこか私を見てなくて、いつも目が死んでて、それが、あの子が現れてから、なんだか紫耀くん目キラキラしてて。だから、何とか止めなきゃって、このままじゃ、紫耀くんがどっかに行っちゃうって。
いいんだよ。好きじゃなくたって、私は紫耀くんがここにいてくれるだけで幸せなの。愛なんてなくたって、抱いてくれるだけで幸せなの。だから、今まで通りでいいんだよ。」

紫耀「ごめん、俺が今、真理子にできることは、ちゃんと向き合うことだけだなって思うから。ちゃんと向き合うっていうのは、正直な気持ちをちゃんと伝えるってことだから。
一緒にいて楽しいと思えることもあった。感謝もしてる。
でも…、俺が好きなのは、真理子じゃない。
別れよう。」

すると、ふっと立ち上がった真理子がまたキッチンの方へと行く。

真理子「わかってたんだよ、そう遠くはないうちに、こんな日が来るんじゃないかって。」

小さく呟いた真理子の方を見て、ハッとした。
真理子が包丁を取り出していたからだ。

刺されるのか?と思った。しかし、真理子は包丁を自分の方に向けた。

紫耀「真理子…っ‼」

ベッドから飛び出し、キッチンに立つ真理子へとダイブする。

真理子「キャーッ!!」

ポタポタと真っ赤な血が床に落ちる。
真理子が俺を振り払おうとして包丁がこちらに向いて、俺の右腕をなぞった。

真理子「紫耀くん、大丈夫っ!?救急車、救急車…っ!!」

真理子が動揺して壊れた俺のスマホを拾い上げる。

紫耀「大丈夫、そんなに深くないから」

痴話げんかの際に誤って切ってしまったと言っても、真理子が罪に問われるかもしれない。そんなに傷も深くなさそうだし、大事にはしたくなかった。

紫耀「自分で止血すれば大丈夫そうだよ、ここ、タオルで縛ってくれる?」

真理子は大きく頷きダッシュで洗面所にタオルを取りに行き、泣きじゃくりながら手当をしてくれた。

真理子「ごめんなさい、本当にごめんなさい…!!私、私、本当に紫耀くんを傷つけるつもりなんてなかったの…!!」
紫耀「わかってるよ。
…たくさん傷つけたのは、俺の方だ。
本当にごめんな。今まで、ありがとう…」
真理子「…紫耀くん、大好きだったよ」

真理子は俺の腕をぎゅっと抑えながら、いつまでもいつまでも泣きじゃくっていた。


真理子の部屋を出て、とりあえずおっちゃんのところに身を寄せた。
おっちゃんは、もともと俺がおっちゃんのところにいつまでも居候しているのが悪いという理由で好きでもない女と一緒に暮らすことを決めたのをよく思っていなかったので、別れたと聞いて喜んで迎え入れてくれた。


それに、俺が花凛と再会してからは、おっちゃんは俺と花凛のことを応援しているようなフシがある。応援と言っても、花凛が結婚して子供もいることは知っているから、不倫しろと言っているわけではないけど、ただ俺が花凛にいろんなことを言えずにここまできたことを、とてももどかしく思っているのだ。

廉のオヤジに金をせびられていたこと、そのために花凛と別れなきゃいけなかったこと、そして俺がその後もずっと花凛を忘れられずにいること…花凛と再会するなんて思ってもいなかったから、おっちゃんにはいろいろと素直な気持ちを話し過ぎた。
でも、今さら本当のことを話したって、花凛を困らせるだけだ。

おっちゃんは「ずっとここにいていい」と言ってくれたけど、俺は一人で部屋を借りることにした。
今度こそ、誰にも迷惑をかけずに、ちゃんと自立したい。
真理子のところにいるときは、生活費はほぼ出してもらっていたから自分の給料はしっかりと貯金できていたので、部屋を借りることは問題ない。

ピンポーン。

ん?誰だ?こんな時間に?
こんな時間も何も、俺はこっちで友達なんていないし、訪ねてくるのなんておっちゃんしかいないけど、おっちゃんはまだ店開けてる時間だし…。

ガチャ。

「紫耀くん…っ」

ドアを開けた瞬間、花凛が飛び込んできて、すごい勢いで俺に抱きついてきた。
あまりの勢いに、俺も受け止めきれずに後ろに倒れこみ、花凛に押し倒されているような恰好になる。
それでも花凛は全くかまわず、俺の首に両手を回し、ぎゅぅーっと抱きついていた。

「紫耀くーーんっ!!」

こ、これは一体…??

後悔したくない(紫耀サイド)

なんだか知らないけど、花凛に押し倒されてめっちゃ抱きつかれている。(嬉しいけど)

花凛「紫耀くーーん、無事で良かったぁ~~!」
紫耀「ど、どーした?てか、なんでこの場所?」
花凛「森本さんに住所聞いてきたの!色々聞いて!もう私、居ても立ってもいられなくなってきちゃったの!!
紫耀くんが死んじゃったらどうしようかと思ったぁ~~!!」
紫耀「え、何?何を聞いてきたの!?」
花凛「紫耀くんが…っ、紫耀くんが、彼女さんに毒飲まされて、包丁で刺されたって!!」
紫耀「えぇっ!?」


なんか真実も混ざってるようで、でもかなり盛ってる盛ってる!!


紫耀「花凛、俺が死んじゃうと思って、心配して来てくれたの?」
俺の胸に顔をうずめて泣いている花凛の頭をくしゃりと撫でる。柔らかい感触が手に懐かしい。

花凛「そうだよぉ…紫耀くんが死んじゃうかもって思ったら私、私…」
顔を上げた花凛が子供みたいにひっくひっくと泣きじゃくる。

うわ…なんか、すっげぇ嬉し…。
自分が死ぬかもってなった時に、こんなに泣いてくれる人がいるんだって思うと…、いや、別に今まで付き合ってきた女だって、真理子だっておっちゃんだって、きっと泣いてくれただろうけど。
やっぱり好きな人がここまで心配してくれてるってことが、とてつもなく嬉しいんだろう。

紫耀「あのさ、でも、俺、毒飲まされてないし、刺されてもないよ」
花凛「えっ…?」

花凛が勘違いしているおかげで、さっきからめっちゃ密着されてるから、もうちょっとこのままでいてもいいかとも思ったけど、俺のせいでこんなに泣いてしまっているのだから、花凛を早く安心させてあげなければならない。

紫耀「そういえば、今日、咲人は?」
ポカンと口を開けたまま固まっていた花凛が、ハッと我に返ったように答える。
花凛「あ、うん、今日は学校のお泊まり体験で帰ってこないの。両親も旅行行っちゃって」


え、ふーん…じゃあゆっくりしていけるってことか。


紫耀「じゃあ…ちょっと上がってくか?」
涙を拭きながら、花凛がこくんと頷いた。


花凛「えっ!?睡眠薬!?毒じゃなかったの!?」
狭い部屋に置かれたこたつ用の正方形の小さな机に、俺はさっきよりすっかり落ち着いた花凛と、L字の方向にそれぞれ座る。さっきまでの密着が終わってしまい、ちょっと残念な自分がいるが、あのまま花凛に抱き着かれていたら冷静ではいられなくなりそうだったから、少し距離が空いてほっとしている自分もいる。


花凛「え、じゃあ包丁で刺されたってのは!?」
紫耀「それは、別れ話をしたら、彼女が自殺しようとして包丁持って、それを俺が止めようとして、揉み合った時に俺の腕に当たっちゃったんだよね」
花凛「別れ話…」
花凛が独り言のように呟いて、一度黙る。

花凛「なんで、別れちゃったの?紫耀くん、彼女さんとうまくいってるんじゃなかったんだ…?」

花凛のことが忘れられないから。
花凛に「ちゃんと人と向き合ってるところが好き」って言われたから、ちゃんとしようと思った。
どれも、言えない理由だ。

花凛「でも、本当に良かったよ~。森本さんの話を聞いた時には、紫耀くんが本当に死んじゃったと思ったんだから。もう!森本さん、何でそんな嘘言ったんだろ!」
紫耀「花凛の反応が面白かったから、からかっただけじゃない?」
花凛「ひっどーい!えっ、じゃあ他の話も嘘なの?からかわれてただけ?」
紫耀「他の話って?」
花凛「え…、あの~…だから…」


花凛が言ってもいいものかと言い淀む。おいおい、おっちゃん、今度は何を吹き込んだんだよ。


紫耀「え、なになに?何言われた?」
花凛「だから…高校生の頃さ、紫耀くん、レンタル彼氏のバイトしてたじゃん?あれは本当は廉のお父さんに脅されて、お金を取られていたからだって…」


え!そこだけマジの話じゃん…!!

花凛「それで、芸能界に入ってからもそれは続いて、稼いでも稼いでも全部お金取られちゃって、廉や私達に危害が行かないように、紫耀くんは私達との関係を切ったって。そういえば、廉のお父さんが亡くなってすぐ、紫耀くんは芸能界辞めて姿消しちゃったから、なんとなく時系列も合ってる気がするし、本当なのかなーって信じちゃって。
えっ、私、森本さんがからかわれただけだったの!?」


マジかよ、おっちゃん…。


最初は本当に花凛をからかっているか、花凛が勝手に早とちりして大騒ぎしたか、そんなもんだろうと軽く考えていた。
でも、おっちゃんが過去のことをそこまで詳細に話したというなら、俺の命が危険かのような大袈裟な言い方をしたのも、きっとわざとなのだろう。
花凛を心配させて俺の元に向かわせて、2人でちゃんと話をさせようと企んでいるのだ。
おっちゃんはずっと、俺にちゃんと本当の気持ちを話すようにと勧めていたから。

実際は殺されそうになったわけじゃなかったけど、意識を失っていくあの瞬間、本当に死ぬのかなって思った。
その時浮かんだのは、やっぱり花凛の顔だった。
このまま死ぬのかと思ったら、自分の気持ちを花凛に伝えなかったことを、猛烈に後悔したのだ。


あの頃の俺には、あんなふうに廉や花凛を守ることしか思いつかなくて、自分が2人の前から消えることが一番いい方法だと思った。離れれば、そのうち忘れられるものだと思ってた。
でも、いつまでも俺の中で花凛の存在は消えなかった。いや、実際離れているときは大丈夫だったんだ。それなのに、なぜか運命が意地悪をする。


俺がやっと花凛を忘れて何とか一人でやっていこうとしているときに限って、花凛が俺の前に現れるのだ。
今回、神社で再会した時も、あの時花凛が俺のライブに来た時も。


花凛を前にしたら、俺は歯止めが利かなくなる。だから、会いたくても会えない場所に逃げていたのに。
それなのに、なぜかまるで運命が追いかけてくるように、何度も俺たちは出会ってしまうのだ。

紫耀「あっ、なんか飲む?お茶でも入れるよ」
ごまかすように席を立つ。こんな小さな部屋で少しくらい距離をとったところで何の意味もない悪あがき。それでも、こんな至近距離で向き合っていたら、俺は自分を止められなくなる…。

花凛「なんだ、嘘だったんだ、酷いなぁ森本さん!あまりに情報がリアルだったから信じちゃったよ!あの時、七夕の日、紫耀くんが約束の神社に来てたとかさ。もし、本当に紫耀くんがあの時来てくれてたらさ…」

カシャン…ッ!
動揺して思わず手が滑ってグラスを落としてしまった。

花凛「ちょ、大丈夫!?私やるから紫耀くん、座ってて?」
花凛が駆け寄ってきて、床に飛び散った破片を拾おうとする。


紫耀「危ないから、いいよ!」

花凛の手を取って、ガラスの破片に触るのを制する。


花凛「だいじょうぶ、だいじょうぶ!紫耀くん、まだ手が不自由でしょ?もし足りないものとかあれば、言ってくれれば私、買い出しとかも行くし!何か欲しいものある?何でも言って!」


紫耀「俺は…」

花凛「うん?」

紫耀「俺は…花凛が欲しい」


花凛「え…?」

驚きを隠せず、花凛の大きな瞳が揺れていた…。

もし今、俺が死んでしまうとしたら、これを伝えなければ、絶対に後悔する。

花凛の手をさらにぐっと強く引き寄せる。

後悔の残る人生は生きたくない。

紫耀「花凛が、好きだ」

コメント

  1. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    あ、、、、
    ちょっとぉぉぉ!!ちゃちゃさん、、!!!
    こんなに続きが気になる感じにしないでくださいぃ!!笑笑
    今後も楽しみにしてます!!

    • ちゃちゃ より:

      ふふふふ、続きが気になってくれたら、こちらの思惑通り(笑)
      体調復活したので、ちょいちょい上げていきます!
      とりあえず今から執筆がんばりますっ

  2. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    うふふふふふふふふふ、、、、((いや、キモいって
    やばぁぁっぁぁっぁぁぁっぁぁ
    楽しい、はい。
    いやもう、花凛ちゃん、好きだわぁ
    かわいい!!もう純粋すぎ!!!! 体調に気をつけて今後とも頑張ってくださいっ

    • ちゃちゃ より:

      ふははははぁ、、、
      そんなに楽しんでもらえて、嬉しい♡
      でもこの後の展開、やばいかも…!?純粋ではないかも…!?(ネタバレ)

  3. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    続きみたいぃ!!
    あ、あと今月いっぱいでキンプリのファンクラブ、切れちゃいますぅ、、、

    • ちゃちゃ より:

      続きアップしましたぁ~!
      本当は七夕にアップしたかった分。このお話は七夕が重要なキーワードになっていたから。

      七夕には、紫耀くんジンくんのニュースもあったのに、忙しくて全然アップする時間がなかったよ~。

      ファンクラブ切れちゃうのかぁ。紫耀くんいないから、もう更新しないのかな?私はキンプリは更新したけど、TOBEの方は入ってないよ~。

  4. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    そうなんですか、、
    私のお母さんは、TOBE入りましたよ〜

  5. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    あ、更新、ありがとうござますっ!m(_ _)m((ドーモアリガトゴザマシュ‼‼!

  6. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    すいません、、?
    あの、dollの更新お願いします、、、。
    ドラマの感想なども面白いです!!

    • ちゃちゃ より:

      更新しようしようと思いつつ、なぜか書けなくて~…
      またこんなに日にちが空いてしまった…。。

      ここで言うことではないかもしれないけど、やっぱりこのサイトのキンプリ部門は閉めるかもしれません…
      なんか、キンプリ鬱?TOBEのこととかも、いろいろ思うところはあるけど、いざ書こうとするとうまく言葉にできないっていうか…。

      ドラマ記事とかキンプリと関係ないことなら書けるのにね。
      ドラマ部門は、キンプリ部門とは全く切り離してやっていこうかなと思索中であります!!

      あ、でもDollはちゃんと完結させるよ。

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