キンプリ妄想歌詞小説「Doll」8話

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こちらはキンプリの曲「Doll」の歌詞からインスパイアされた小説です。

前回のお話。

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公園

紫耀:今日、オッケーです。
花凛:3時頃、いつもの公園行きます。

そんな簡素なメールのやりとりで、また私と紫耀くんはたびたび連絡を取るようになった。
連絡先を好感して、いつでも連絡できるようになった。紫耀くんが姿を消して連絡が取れなくなっていた8年間を思い出すと、どっしりとした安心感を心に感じた。

しかも、約束して会っていると言っても、昼間に公園で咲人を連れて3人で会っているだけ。しかもやっていることは、ガッツリかけっことドッジボールの練習だ。

こんな健全な関係なら、全然問題ないよね。うん、そうだよ、あんな絶対に何か起っちゃいそうな二人の夜を、何事もなく乗り越えたんだから。
私たち、これで本当に”ただの友達”っていうか、本当に親戚になれたのかな…。

「あれっ、さっくん!」

咲人「あーっ!りくくん!」

名前を呼ばれた咲人が振り返り、駆け寄っていく。どうやら学校のお友達みたいだ。

花凛「あ、どうも~、咲人の母です」

私も一緒にいたその子のママに近寄っていく。まだ小学校で他の保護者と会う機会が全然ないから、ママ友作チャンスかも…!

「あ、どうも~、りくの母です~。転校してきた咲人くんですよね!息子から聞いてますよ~!すごくドッジボールが上手なんだって!いつも同じチームになりたいって言ってるんですよ」

花凛「えーっそうなんですか!?」

確かに紫耀くんとの練習で、ドッジボールはびっくりするほどぐんと上達した。足の速さはそう簡単に変わるものではないけど、ボールの投げ方は、小さい子供はやり方を知らないからできないだけで、教えてあげればガラリと改善されることがある。

教えなくても見よう見まねでできてしまう生粋の運動神経抜群の子もいるけど、初めてやらせてできないからと言って”うちの子は運動神経が悪いんだ”と決めつけなくてもいい。

と紫耀くんが言っていた。

「咲人くんって人見知りとかします?」

花凛「えっ?あ、そうですね。そうかもしれないです」

「あ、やっぱりー。転校してきたばかりの頃はね、あんまり喋らなくて、おとなしい子なのかなって思ってたみたいなんですよ。じゃあ、人見知りしてたのかな?でも、一度授業でドッジボールをやったらもうほんと上手で!今じゃ休み時間はいつもドッジボールで、みんな咲人くんと同じチームになりたくて、咲人くん、本当にクラスの人気ものなんですって」

花凛「そう…なんですか?」

そういえば、最初の頃は学校に行くの嫌がって、よくお母さんが朝、学校まで付き添っていたけど、最近はついてきてって言わなくなっていた。「行ってきまーす!」って元気よく走って玄関から出ていくようになっていた。そっか、友達ができたからだったんだ。

「パパが教えてくれるから運動できるんですね。うらやましいです」

りくくんのママがチラリと遠くにいる紫耀くんに目を向ける。

花凛「あ、あの人は…」

「あ、いけない!これから習い事なんです!もう行かなくちゃ!じゃあ、咲人くん、また学校でりくと遊んであげてね~。では、失礼します」

りくくんのママは慌てて行ってしまった。

紫耀「あれ?お友達は?」

紫耀くんのところに戻ると、紫耀くんが振り返った。一応、顔バレしないように、後ろ向いててくれたみたい。私と同年代の人だと、紫耀くんの顔見てあの平野紫耀だって気づいちゃうかもしれないもんね。

咲人「うん!もう行っちゃったよ!」

紫耀「咲人、同じクラスの子?」

咲人「うん!すっごく仲いいの!毎日一緒に遊んでるよ!」

紫耀「そっか!よかったなぁ~~っ!」

紫耀くんが、ニッコニコの笑顔で咲人の頭をわしゃわしゃする。

もしかして、紫耀くん、咲人が最初学校に馴染めてないのを知ってて、ドッジボール教えてくれるって提案してくれた…?

咲人「僕、おなかすいたー!ねえっ、今日もおじちゃんのお店行きたい!」

咲人がくるりと振り返って、私にうるうると許可を求める目を向ける。

花凛「うーん、じゃあ行っちゃおっか!」

咲人「わーい!紫耀くんも行くよね!?」

今度は紫耀くんにうるうるとした目を向ける。

紫耀「うしっ!行くか!」

花凛「大丈夫?」

紫耀「だいじょぶ、だいじょぶ。そっちは大丈夫?」

花凛「うん、大丈夫」

私と紫耀くんはお互いにスマホを出して、手短にささっとメールを送る。「大丈夫?」と確認しながら、大丈夫なことはわかってる。公園に来た日は、かなりの確率で森本さんのお店に行っているからだ。
あ、森本さんというのは、紫耀くんがおっちゃんと呼び、咲人がおじちゃんと呼ぶ、紫耀くんの恩師というおじさんのことだが、私はなんて呼んでいいかわからないので、普通に名前を聞いて森本さんと呼んでいる。

ちなみにお店の名前が”もりもっちゃん”なので、すぐに名前はわかった。

お母さんも私が咲人を連れて外食してくれると楽なので、わりと頻繁に外食すると言ってもむしろ喜んで送り出してくれる。

紫耀「よーし、じゃあ行くか!」

紫耀くんが咲人の手を取ると、咲人がもう片方の手で私の手をつかむ。

紫耀くんが、グンっと咲人の手を引き上げてあげると、「キャハーっ!」と笑い声を上げながら咲人が宙に浮く。

さっき、りくくんのママに紫耀くんをパパに間違えられたけど、こんなふうに子供を真ん中に手を繋いで歩く私たちは、きっとどっからどう見ても家族にしか見えないだろう。

「キャハ!すっごい高い!パパがやるよりも高いね!」

咲人の言葉に私も紫耀くんも一瞬動きが止まった。
確かに、この前、廉ともこんなふうに3人で歩いたっけ。

なんだか、ものすごく悪いことをしたような気持ちになって、もう咲人を持ち上げることができなかった。

咲人「ママ?もっとやってよ~」

花凛「んー?ママ、ちょっと疲れちゃった」

咲人「ねぇっ!紫耀くん、あれできる?」

紫耀「ん?」

咲人「あれやって!肩車!ねぇやってやってー!」

花凛「こら、咲人…」

紫耀「おーし、いいぞ!じゃあ、落っこちるなよぉ~~?」

紫耀くんが咲人の両脇に手を入れて、スポッと自分の頭の上まで持ち上げて肩の上に乗せた。

咲人「キャー!高いー!すっごーーい!」

前を歩きだした二人の後姿を見ながら、もし紫耀くんと結婚していたら…とどうしても想像してしまう。

廉はかよわいから、肩車なんてしたらヨロヨロしちゃうだろうなぁ。
廉はインドアだから、あんまり公園とか行きたがらない。朝が弱くて、休みの日はだいたい昼まで寝てる。咲人と一緒に遊ぶときは、いつもテレビゲームだ。

なんて、何比べてんだ。

廉には廉の良さがあるじゃん。掃除をやってくれるし、ご飯をよく食べるし、頭もいいし、服のセンスもいいし…あと…
何より、私をものすごく愛してくれる。

でも…
紫耀くんとあのまま付き合ってて結婚したいたら、きっと紫耀くんだって私をものすごく愛して大切にしてくれただろうな。

なんて、私、妄想癖やばいな…。

2つ目の男の約束

「それでね、僕は投げるのが強いんだけど、りく君はキャッチがすごく上手でね、いつもりく君は僕と一緒のチームになりたいって言ってくれてね、りく君と僕が同じチームになったら無敵なんだよ!」
”もりもっちゃん”についた咲人は、ずっとカウンター越しに森本さんに話しかけている。

花凛「紫耀くん、紫耀くん」
紫耀くんの袖を引っ張り、小声で話しかける。
「ドッジボール教えるって言ってくれたのってさ、もしかして咲人に頼まれたの?」
「えっ!?」
紫耀くんがびっくりしてちょっとオロオロする。


「さっき、お友達のママと話してね、咲人って最初の頃、学校のお友達に馴染めてなかったみたいなの。それが、ここ最近急に明るくなったし、学校に行くのも嫌がらないようになったの。それって、紫耀くんはドッジボールを教えてくれたから、お友達ができたのかなって」

「咲人、咲人!」
今度は紫耀くんが小声で、咲人を呼ぶ。


「もう話していいの?」
なにやらコソコソと話している。でも、全部聞こえてるけど。


「あ、うん!もういいよ、言っちゃって!」
小声で話す紫耀くんとは裏腹に、咲人が元気よく答える。


「いいって」
紫耀くんが、咲人を指さして、こちらを振り向く。


私が「?」な顔をしていると、紫耀くんと咲人が2人で代わる代わる説明してくれた。
咲人が最初、人見知りしてお友達と馴染めなかったこと。紫耀くんが友達を作るためにかけっこやドッジボールを教えてくれると言ってくれたこと。


花凛「でも、それならそうと言ってくれればよかったのに。なんで理由を教えてくれなかったの?仲良しになったから公園で遊びたいんだ、なんて、謎の言い訳して」
紫耀「それは…な?」
紫耀くんが促すように咲人を見る。


咲人「だって、僕が学校でひとりぼっちで寂しいって言ったら、ママ悲しいでしょ?だから言わないでって、紫耀くんにお願いしたの」


…そうだったんだ。


咲人「そしたら紫耀くんね、”お前、強いな”って言ってくれたの。自分が辛いのに、ママのこと守ろうとしてえらいなって。僕ね、それがすごーく嬉しかったんだ。
ママはね、強い男の子が好きでしょ?だから、僕、こんな弱虫じゃママに嫌われちゃうかなって思ってたの。そしたら、紫耀くんが僕のこと、強い!えらいぞ!って。男の子はママを守ってやらなきゃって。だから僕、もっと強くならなきゃって。それで一生懸命練習したんだ!」


「咲人、ママのこと思ってくれてありがと。練習がんばったんだね。えらいね。咲人は強い子だよ」
もう涙が出そうなくらいに咲人が愛おしくて、ギュッと抱きしめた。
「えへへ」と咲人は得意げな顔で照れた。

「なんだよ~かっこいいこと言うじゃ~ん」
森本さんがニヤニヤしながら紫耀くんをからかい、紫耀くんは顔は隠しながら「うっせ!」と、森本さんにおしぼりを投げた。


「紫耀くんも、咲人のために黙って付き合ってくれて、ありがとう。」
「それは男同士の約束だもん、なー?」
紫耀くんと咲人が顔を合わせて笑った。

咲人にバレないように、私にはこっそり本当の理由を話すこともできたのに、咲人との約束を守って黙って付き合ってくれてたんだ。
こんな小さな子供との約束でも、軽んじたりしない。ちゃんと1人の人間として向き合ってくれる。


花凛「そういうとこ、ほんと好きだなぁ」
紫耀「えっ!?」


花凛「えっ!?あっ、なんか心の声出てた!?いや、紫耀くんって本当に相手が誰であろうと、人とちゃんと向き合ってて素敵だなって、変な意味じゃなくてね、人間としてね!」
紫耀「そんなこと…ないよ」

紫耀くんが小さく答えて、それは照れているのともちょっと違うような感じで、なんだか表情が暗かった。私が「好き」とか変なこと言ったから困っているのかな…。

咲人「あっ、そうだ!来週ね、体育の時間にドッジボール大会があるんだよ!1年生全員でクラスで対決するの!絶対優勝しようねって、りくくんと言ってるの!紫耀くんも見に来て!」
紫耀「えっ、学校に?」
花凛「あっ、その体育の時間ね、授業参観になってて、保護者も入れるんだよ。誰の親とか確認ないし、そのままグラウンドに見に行って帰るだけだから、多分紛れててもバレないよ」
咲人「ねー、いいでしょ!?見に来て!」
紫耀「そっか。じゃあー…、咲人の成長した姿を見に行くか!」
咲人「わーい!約束だよ?」
紫耀「おう!男の約束!」

その前に呪い殺してしまえばいい(紫耀サイド)

「本当に相手が誰であろうと、人とちゃんと向き合ってて素敵だなって」
「そんなこと…ないよ」


うつむいて小さく答えた。目を輝かせて俺を褒めたたえる花凛の目を見ることができなかった。
俺はそんな素敵な人間じゃない。
もし、そういう俺が好きなら、俺は花凛に好かれる資格はない。


だって俺は、一緒に暮らしているずっとそばにいる人と全く向き合おうとしない、それどころか、こんなにもおざなりにしてきた最低な男だから…。


真理子「なんか、来週のお休み、交代してもらってたね。何か予定でもあるの?」
咲人の授業参観の日はシフトが入っていたので、急遽同僚に休みを変わってもらった。真理子に頼もうかと思ったけど、勘ぐられるのが嫌なので他の同僚にこっそり頼んだのだが、やはり目ざとい。


紫耀「あー、まぁ、ちょっと友達と出かける予定入っちゃって」
真理子「友達?誰?」
紫耀「別に。真理子の知らない人。あ、男だよ」
男の子ってことに嘘はない。


真理子「ふーん…」
絶対納得していない。俺に友達なんていないことは、よく知っているだろう。追究されたら嘘をつき通す自信はなかったのだが、幸いそれ以上は聞いてこなかった。


授業参観の日。

真理子「え、早いね?」
真理子と同じくらいの時間に起きだした俺を見て、真理子は怪訝そうに眉をしかめる。
休みの日に、俺がこんなに早く起きることはまずない。

今まで花凛と咲人と公園で会っていたのも、咲人の学校が終わってから夕方までの時間だから、真理子の仕事中に行って帰ってこられるので怪しまれてはいなかったと思う。
しかし今日は学校の授業を見に行く。2時間目だというけど、意外と早くて9時過ぎには学校に行かなければならない。小学生っていうのは、一体何時から活動しているというのだ。


紫耀「あー、ちょっと早起きの友達でさ」
自分でも、なんて言い訳が下手なんだろうと思う。


真理子「ふーん…。朝ごはん、食べるよね?」
また、納得していない「ふーん」という相槌を打ちながらも、真理子は朝ごはんを用意してくれた。

「じゃぁ、俺、先に出るね」
飲み込むように朝ごはんを食べ、真理子のいかにも何か言いたげな視線から早く逃れたくて、そそくさと玄関に向かう。


ガクッ!
あれ…?


視界がぐにゃりと歪んで膝をついた。
なんだ?めまい?


バタンッ。
床に転がり、ぼんやりとかすんでいく視界の中に、俺を見下ろす真理子の姿があった。


「行かせない」


能面みたいな顔で、真理子がほとんど口を動かさずに小さく呟く。

「行かせない。紫耀くんは誰にも渡さない」


あぁ、罰が当たったんだ。
今まで真理子にしてきたひどい仕打ち。
真理子以外にも、今まで金のためだけに関わってきた女たち。
俺に向けられる好意を使い捨てのティッシュように雑に扱い、もらえるものだけ搾取してきた。

許されるはずがなかった。
いつか呪い殺されるんじゃないかと思ってた。


でもそれでいいと思ってた。俺の人生なんて、そんなものだって。
廉のオヤジから廉を守り切ったところで、俺の人生の役目なんて終わってた。後はおまけで生きながらえていただけ。


それなのに、花凛と出会って、次に会う約束をして明日が楽しみになったり、生きる意味をまた見出してしまった。
花凛に言われて、真理子とちゃんと向き合ってみようと思った。向き合うというのは、ちゃんと別れるということだ。
好きでもない女と一緒にいたり、金を出してもらうために嘘の愛を囁いたりするのは、もう終わりにする。


ちゃんと話して、謝って、別れる。今日、帰ったら、話をするつもりだった。

意識が遠のいていく。流しに置かれたさっき飲んだスープのカップが目に入る。あれに何か薬が入っていたのか。


ちょっと遅かったか。しょうがないか。それだけ俺は真理子にひどいことをしたんだ。


ああ、もう何も考えられない。
意識が…なくなって…いく…

目をつぶって完全に視界が途絶える直前、真理子が切なく泣きそうな顔で不気味に微笑んでいるのが見えた。

いつか貴方がこんな私に愛想尽かすなら その前に呪い殺してしまえばいい

King & Prince(永瀬廉・神宮司勇太)「Doll」作詞作曲:TOOBOE


コメント

  1. リノア(ちゃちゃすいっちさん大好き!) より:

    あぁぁぁぁぁぁ
    ありがとうござます!!面白い、ワクワク!!
    これからもよろしくです!!!!!

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