キンプリ妄想歌詞小説「Seasons of Love」18話 Lost in Love~なぜ振り向かぬまま去っていくの~

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前回、前々回と廉くん押せ押せの展開でしたが、今回は紫耀くん目線でいろんな伏線回収されちゃいます。

紫耀の抱えた切ない事情に、涙涙の超切ない展開になってます…!!

 

12/20、続きを追記しました!

前半部分しかまだ読んでいない方は、ぜひ読んでみてください~!

 

私の小説はキンプリの楽曲の歌詞をもとにストーリーを構成しています。

今回はキンプリの最大級の壮大バラード「Lost in love」です!

この曲、ほんっとうに切ない!ぜひBGMを頭の中で流して小説を読んでいただけると、とっても切ない気分に浸れるかと思います…!

キンプリ小説lost in love

 

前のお話はこちら

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戻らぬ秒針(紫耀サイド)

戻らぬ秒針は どこへ進んでいくの?

僕一人置き去りにして

最後の言葉 まだ言えずに

今日も君の姿を探している

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

 

神「本当に、行くのか?」

 

出発の日を平日にしたのは、誰にも見送られずにこの町を出て行くためだ。

 

 

紫耀「なんだよ、学校サボってきたのか?」

 

 

泣きそうなような、怒ったような、どちらともとれる表情で、ジンが俺の家の前に立っていた。

 

神「だって…!こんな終わり方ってあるかよ…!?お前が言うなって言うから、ずっと花凜ちゃんに本当のこと言わなかったけど、やっぱり納得できねーよ!!

お前があんなバイト始めたのだって、花凜ちゃんにもう一度会いたかったからじゃんか…!!」

 

 

 

花凜と再会する望みをつなぐために、このバイトを始めた。

だけどいざ再会した時には、俺は花凜に触れる資格なんてないほど汚れた体になっていて。

花凜と再会するために始めたこのバイトのせいで、せっかく再会できた花凜と結ばれることはない。

 

バカみたいだな、すっげえ矛盾してるじゃん。

 

そんな当たり前のことにどうして俺は気付かなかったんだろう。

 

 

紫耀「ジン、ひとつお願いがある。これ、捨てといてくんね?」

 

ジンに握らせたのは、花凜から突き返された指輪。(16話

 

紫耀「捨てようと思ったけど、やっぱりできなくてさ。かっこわりいよな、こんな状況になっても、すげー未練…」

ジン「捨てるなんて…だって、これは…!」

 

 

紫耀「なぁジン、やっぱりさ、一度道を踏み外した人間は、幸せにはなれないんだよ…」

 

 

 

 

いまさらどんなに後悔したって、時計の針が戻ることはない。

 

 

 

だけど、

最後に伝えたかった。

 

 

そんなばかげた矛盾にも気づかないほど、俺は花凜にもう一度会いたいと願ってた。

子供の頃からずっと好きだった。

突然花凜が俺の前からいなくなっても、ずっと忘れられなかった。

 

ずっとずっと花凜のことが好きだった。

 

 

そして

これからも

 

 

 

 

「ずっと愛してる」

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

紫耀の旅立ち(花凜サイド)

その日は朝から、クラスの女子たちが鼻息荒く今日発売された雑誌を取り囲んで、騒いでいた。

 

「岸さんっ!これ、知ってたの!?」

 

目の前に突き出された雑誌のページを見て、目が飛び出るほど驚いたが、その後のHRの担任の言葉に、もっと大きな衝撃を受けた。

 

担任「えー、みんなに残念な知らせがある。…平野が、学校を辞めた」

 

突然の担任の発表に、教室中がざわめく。

 

担任「まぁ、みんなもう雑誌見たようだから、今日で情報解禁ということで。実は、平野は芸能人になるために東京に行くことになった。みんな、平野の夢を応援してあげようじゃないか!」

 

 

え?なに?

なにそれ?どういうこと?

私、何も…聞いてない…。

 

 

さっきクラスメイトに見せられた雑誌には、

「次のデビューほぼ内定か!?期待の新人アイドルグループ結成!メンバーの一人は現役高校生から大抜擢!」

という見出しとともに、めちゃくちゃ美形な6人組の男の子たちが載っていた。

そして、そのセンターに紫耀くんが立っていた。

 


 

ジン「花凜ちゃんっ!!」

 

今日はお休みだと思っていたジンくんが、1時間目が終わった頃に学校にやってきた。

 

「ジンくんっ!!紫耀くんが、紫耀くんが…っ」

まだ頭が混乱していて、思わずジンくんにすがりつく。

 

ジン「うん、知ってる。今、紫耀に会ってきた。紫耀は、今日、この町を出て行く。会いに行ったほうがいい!これ」

 

ジンくんは、指輪を取り出した。

 

紫耀くんが、他の女の人を抱いて手に入れたお金で買ってくれた指輪。

その事実が受け入れられなくて、私が紫耀くんに突き返した指輪だ。

 

 

ジン「紫耀は、花凜ちゃんと再会して、バイトのことずっと悩んでたんだ!早く辞めなきゃって。でも家に入れるお金のことがあったから、すぐには辞めれなかった。

でも、花凜ちゃんとちゃんと付き合うこと決まって、すぐにバイトのマネージャーに辞めるって話をしたんだ。

それで、花凜ちゃんの誕生日プレゼントはきれいなお金で買いたいからって、配送センターのバイト集中的にやってお金貯めたんだよ!これは、レンタル彼氏のバイトで稼いだお金で買ったんじゃない!

ちゃんと、紫耀が花凜ちゃんのことを思って、レンタル彼氏よりずっと効率悪い時給で、寝る時間削って、重い荷物持って、汗流して、時間かけて稼いだお金で買ったものなんだよ!

それは、今までやってきてしまったことへの後悔と、これからは花凜ちゃんを傷つけないようにちゃんとするっていう、あいつなりのケジメだったんだよ!!」

 

 

そんな…。

この指輪のことも、「汚い」なんて思ってた…。

私、紫耀くんにひどいこと…。

 

 

ジン「それに、紫耀がレンタル彼氏のバイト始めたのも、本当は花凜ちゃんにもう一度会いたかったからなんだ」

 

え…?

 

紫耀と廉の出会い(紫耀サイド)

母親に「新しいお父さんになってほしい人を紹介したい」と言われた時は、正直やきもちというか、受け入れられない気持ちだった。

ふてくされたままその日を迎えたが、その男の影に隠れるようにして現れた小さな男の子に、一瞬で興味がわいた。

小さくて細くて黒くて、目だけがギョロギョロとアンバランスなほど大きくて、第一印象は

 

おたまじゃくしみたい…。

 

 

それが、まだ小さかった廉に抱いた俺の第一印象だった。

 

 

俺に興味があるのかじーっと見てくるくせに、こっちが目を合わせると、すぐに父親の後ろに隠れてしまう。
猫好きの俺としては、そんな態度が吹き出してしまうほどに面白くてかわいくて、どうしても手なづけたくなってしまった。

 

しかし、人見知りしていたのも最初だけで、兄弟として一緒に暮らすようになってからは、びっくりするほど俺になついてきた。

 

すきあらば俺の膝の上に座る。

ガリガリの廉のお尻は、骨ばっていて太ももに刺さって痛かったけど、俺の膝の上で満足そうに安らぐそのころんとした後頭部が可愛くて仕方がなかった。

 

 

しかし、幸せな日々はすぐに壊された。
廉の父親が、結婚前には見せない姿を表し始めた。
俺の母親に暴力をふるい始めたのだ。
廉の母親はとても美人で、男を作って出て行ったと聞いている。

 

だったらそんな見た目のいい女はもうこりごり…となればいいのに、また俺の母親と結婚したのだから、自業自得とも言えるのだが。
もちろんうちの母親は浮気癖なんてない。でも、廉の母親に負けないくらいきっと美人なのだろう。(廉の母親を見たことがないからわからないが)

 

だから廉の父親は、俺の母親が浮気をするのではないかと、心配でたまらなかったのだ。

あまりの強い束縛に、母親はどんどん疲弊していった。
母親がパート先の店長と話していただけで、家に帰ると「お前まで俺を裏切るのか!?」と母親に暴力を振った。
俺はとっさに母親をかばって前に立ちはだかって、バチーンと平手で殴られ、襖ごと隣の部屋まで吹っ飛んだ。

 

そして結婚して1年もたたないうちに、母親は離婚を決めた。
離婚すれば、連れ子だった廉はもう一度父親と暮らすことになる。

 

しかし、廉をあんな父親と二人にするなんて、心配で俺にはできなかった。

俺は母親に頼み込んだんだ。

 

「お願い!廉をうちの子にして!」

 

もともとうちはシングルマザーでお金には苦労してきた。

数ヶ月一緒に暮らしただけのよその子を引き取るような余裕はなかったのだろうが、当時子供だった俺には、そんな母親の事情はわからない。

 

幸い、廉の父親は廉には暴力をふるったことがなかったので、緊急に父子を引き離す必要はないと俺の母親は考えていた。

でも、今後どうなるかなんてわからない。

俺は、どうしてもあの男に廉を渡すわけにはいかないと思った。

 

母親は、「それなら児童相談所に相談するから。そしたら適切な処置をしてくれるから」と言った。

 

でも、そういうことじゃないんだ!

人任せになんてしておけない。

 

 

 

だって、廉は俺の弟なんだから…!!

 

 

「お願い!お願いだよ!廉は俺の弟なんだ!!俺が、絶対一生廉を守るから!!約束するから!!だから、廉をうちの子にして!!お願いだよ!!」

 

 


 

正式な手続きを経て、廉を引き取った。廉の父親の暴力の事実があったせいで、廉をこちら側に引き取るのは案外簡単だった。

離婚が成立したが、廉の父親は納得していないようだった。

 

 

離婚してからも、廉の父親は家の周りをうろついた。廉を取り戻しにきているのだと思った。

俺の家族は身を隠すように引っ越すことにした。

しかし、次の家もすぐにバレた。そうして、俺たち家族は何度も引っ越しをした。もともと家計が苦しいのに、そう何度も引っ越しをするのは、経済的にかなり厳しかった。

 

次に家の場所がバレたら、もうこの町を離れて、すごく遠くに引っ越そうと母親が言った。

 

だけど、それは俺が強く拒んだ。

俺にはこの町を離れたくない強い理由があったのだ。

 

それは、小学校の途中でこの町からいなくなった、俺の初恋の女の子。

 

転校することも告げずに、突然いなくなってしまった。

大好きだったのに。

これからもずっと一緒にいられると思ってたのに。

 

花凜の家は転勤族で、親の都合で転校したのだと後で知った。

「でも、家を貸しに出しているから、いつか戻ってくる可能性があるのかもね」と母親が言った。

 

その言葉だけが、わずかな望みを繋いでいた。

 

でも、この町を離れてしまったら、花凜と再会することは絶対に不可能なんじゃないかと思った。

だから母親にこの町からは離れたくないと懇願した。

母親は、俺の願いを聞き入れてくれようとして、仕事を増やして、無理がたたって倒れた。

入院中の母親から、「またあの人が来たら、今度こそ遠くへ行かなければいけないかもしれない」と言われた。

 

 

そしてやつは来た。

俺は「もう廉を追いかけ回すのはやめてくれ」と頼んだ。

 

するとあいつは「いい仕事があるから紹介する」と俺をある事務所に連れて行ったのだ。

金を払えば大人しくしている、廉にも会わない、そう約束してくれた。

 

 

倒れた母親の代わりに家計を支えるためにバイトを探していたこともあり、断るという選択肢はなかった。

廉も「家族に協力するためにバイトをしたい」と言い出したが、不用意に廉を外に出して、あいつに見つかったらいけないので、全力で阻止した。

もちろんあいつに金を要求されていることは母親には内緒にしていたが、「廉があいつに見つからないようにするために」という理由で廉にバイトをさせたくないという俺の案には母親も賛成してくれた。

たぶん、「俺が廉を守る」という小さい頃の約束を懸命に守ろうとしている俺の意思を尊重してくれていたのかもしれない。

 

 

そんなわけで、家に入れる金とあいつに渡す金、その両方を俺が一人で稼がなければならなかった。

 

 

最初はデートして話をするだけでこんなにお金がもらえるなんて、嘘みたいにいい話だと思った。

だけど、そのうち客から、もっともっとと要求されるようになった。

 

最初は拒んでいたが、客からは札束をチラつかされ、あいつには「あと5万出さないと廉を取り返しに行く」と脅された。

 

 

母親の体調を気遣い、廉をあいつから守る。

全てを一人で背負い、誰にも相談できないことに、とてつもない孤独を感じることもあった。

 

 

でも

 

「廉は一生俺が守るから!」

 

そう約束した以上、俺はもう突き進むしかない。

俺にはもう後がなかった。

 

 

 

1度だけ一線を越えた。

それからはもう雪崩のように、自分を止めることができなかった。

 

 

毎日のように客を抱いた。

1日に2件3件と予約が入ることもザラだった。

 

 

大好きな人との再会のために、名前も知らない女の体を抱く。

その女たちを抱いた事実が、大好きな人との絆を引き裂くことになるという矛盾には、その時は気づかずに。

 

 

いつか再会できるかもしれない大好きな初恋の女の子の笑顔を思い浮かべながら、今日も俺は次々に名前も知らない女を抱く。

 

 

その度に手に入れる、汚れた札束で、俺は家族を守っているつもりだった。

 

 

そして、いつか初恋の人に再会できる、その一筋の光を守っているつもりだった。

 

 

 

埋めようのない孤独 引き返せない過去

自分の気持ちも掴めない

愛と現実の矛盾の中

今日も君の姿を探している

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

 

君しかいない(花凜サイド)

 

紫耀くんを追い返して、廉くんを残らせた朝帰りのあの日、「ちゃんと話をするから」と紫耀くんに約束したのは嘘ではなかった。

いつかはちゃんと向き合おうと思ってた。

でも、紫耀くんがレンタル彼氏をしていたという事実に、すぐに向き合えるほど心の整理がついてなくて。

ただ、もう少し時間がほしいと思ってた。

 

 

翌日からは、今まで全然喋ったこともないようなクラスの女子たちが、「岸さん、かわいそう~。平野くんともう口もききたくないでしょ?私たちにまかせて!」なんて言って、さも親友かのような顔で私を取り囲んで護衛をしてくれて、紫耀くんもさすがに声をかけづらいようだった。

放課後、そそくさと下駄箱を抜けた私を紫耀くんが追ってきたけど、校門の前まで廉くんが迎えに来ていた。

 

 

 

紫耀「…廉と待ち合わせしてたの?」

「え、これはちが…」

廉「違わない!そやねん!これからは、俺が花凜を家まで送ってくから!」

 

と有無を言わさず手を引っ張って連れていかれて、悲しそうに立ち尽くす紫耀くんを置き去りにして帰った。

 

 

 

廉くんからの告白に返事はしていなかった。

あの日、廉くんの辛い過去を聞かされて、すがられるように手を取られ、その手を振り払うことなんてできなかった。

 

それから毎日、廉くんは私を学校まで迎えに来た。

いつも校門の前で待ち構えていて、私の姿が見えるとパァっとわかりやすく嬉しそうな表情に変わる廉くんが、だんだん忠犬ハチ公に見えてきて、「かわいいな」と思うようにもなっていた。

 

 

 

でも、それは廉くんを選んだという意味じゃない。

 

 

 

教室でも帰り道も、紫耀くんのこと避けながらも、どこかで紫耀くんがいつまでも追いかけてきてくれることに安心感を覚えていた。

今は私が一時的にヘソを曲げているだけで、いつまでも紫耀くんは私を追いかけてきてくれて、時間が経って私が紫耀くんと向き合う勇気を持てて、「バイトは家計のために仕方なくやってたこと。花凜のためにもう辞めたから」って紫耀くんに平謝りされて、そして結局許しちゃうんだろうって…そこまでの未来が見えていた。

 

 

私は、心のどこかで、もう紫耀くんを許すことを決めていた。

 

 

 

許すっていうか…紫耀くんがどんなことをしていようと、私は紫耀くんと離れられない。

 

 

 

紫耀くんが好きだから。

昔も今もこの先も、私には紫耀くんしかいないから。

 

 

 

出すべき答えは、たったそのひとつだけでよかったのに…。

 

 

 

 

 

考えてみれば、紫耀くんほど超モテモテな人が、いつまでも私に執着してくれるなんて、どうして信じて疑わなかったんだろう?

そんなわけないじゃん。

お金払ってまで、紫耀くんに相手にされたい女の人はいっぱいいたんだもん。

いつまでもヘソ曲げているめんどくさい女なんかさっさと忘れて、新しい道に進むことにしたんだね。

 

 

なんだかんだ、話し合う機会を掴めずにいるうちに、紫耀くんはちょこちょこ学校を休むようになって、季節はすっかり冬になっていた。

その間に紫耀くんがそんな大きな決断をしているなんて、何も知らずに、私はまだ紫耀くんが追って来てくれると信じて待っていた。

ほんとバカみたい。

 

 

「アイドルになるために東京に行く」なんて、普通の人が言ったら「何を夢みたいなこと言ってんだか」って笑われると思うけど、紫耀くんなら絶対に成功する未来しか見えない。

 

 

もし私たちがこんなことにならずに順調に付き合っていたとしても、アイドルとしてデビューしたら、どっちみち私のことなんて忘れて煌びやかな世界に染まっていったのかもしれない。

 

 

でも、

意地を張って向き合うことから逃げて、そのまま顔も見ずにさよならなんて…。

こんな別れ方は嫌だよ…!

 

 

もう遅いのかもしれない。

 

 

それでも

最後にちゃんと伝えたい。

 

 

紫耀くん

 

行かないで

 

 

 

私もずっと紫耀くんに会いたかった。

ずっと忘れられなかった。

再会できて、嬉しかった。

 

 

 

子供の頃から、ずっと大好きだった。

 

 

 

今でも、愛してる…。

 

 

なぜ振り向かぬまま去っていくの(花凜サイド)

「紫耀くんっ!」

 

 

 

「お腹が痛くて遅刻しました」と言って遅刻してきたジンくんと入れ違うように、「お腹が痛いので早退します」と言って、学校を抜け出した。

 

 

とにかく走って走って走って…

鈍行電車に乗り、一番近くの新幹線の駅へと向かう。

 

そして、広い構内をまた走って走って、階段を駆け上がる。

平日の昼間の新幹線のホームは閑散としていて、すぐに紫耀くんを見つけることができた。

大きな夢を抱いて東京に出て行くというには似つかわしくないスッキリとした小さなバッグを持った紫耀くんが、立っていた。

まるで、”すべてを置いていく”といった佇まいで。

 

 

私の声に気づいた紫耀くんが、一瞬体を固まらせる。

 

 

「紫耀くん、待って、行かないで!

今まで逃げ回ってごめんなさい!ちゃんと話し合うって約束したのに!

指輪のこと、ジンくんから聞いた!紫耀くんが一生懸命働いてお金貯めてくれてたって。それなのに、私…ごめんなさい!」

 

さっきジンくんから返してもらった指輪を、また薬指にはめてきた。

 

 

紫耀「ジンのやつ…。

でも、そんなの言い訳だよ。レンタル彼氏、やってたのは事実だから。花凜と付き合うことになってから急いで辞めたからって、過去がなくなるわけじゃないよな」

「そのことも、もういいの!いや…よくはないんだけど!

それでも紫耀くんと一緒にいたいの!紫耀くんが好きなの!

確かに傷ついたけど、今後もそれを思い出したら苦しくなるかもしれないけど、それでも紫耀くんにそばにいてほしいの!もう一度、やり直したい!」

 

 

いっきにまくしたてるように言って、ハァハァと息を切らし、紫耀くんの返事を待つ。

 

 

まだ間に合う?もう遅い?

紫耀くんは、いつも人と話をするときは、こっちが照れちゃうくらいにしっかりと相手の目を見て話す人なのに、ちょっと俯いて目を合わせようとしない。

そのせいで表情が読めない。

 

 

紫耀「俺、東京に行って、アイドルとしてやっていくんだ」

「うん、先生から聞いた。雑誌も見た。遠距離でも私、がんばるから!だから…」

紫耀「アイドルになるためにはさ、今の女関係、完全に切らなきゃいけないんだ。彼女持ちでアイドルの卵とか、そんなのが通用するような甘い世界じゃないから。」

 

紫耀くんは一度黙って、低いかすれた声で静かに言った。

紫耀「こんなんならさ、俺たち再会なんてしなきゃよかったな」

「え…」

紫耀「俺さ、昔から、花凛の家族と仲良くしてたけどさ、経済格差感じて辛くなることあったんだよね。

うちはシングルマザーでいつも貧乏なのに、花凛のお母さんは専業主婦。家はでかくて、いつも夏祭りの時もクリスマスパーティーもバーベキューもうちが招待されるばっかでさ。花凛のこと好きだったけど、なんか俺の方が”下”な気がしてた。劣等感?なんか釣り合ってねえよなって。

あのバイト始めて、金はたくさん手に入るようになったけど、どんどん自分は花凜には釣り合わない男に成り下がってるって、今さら後悔しても、もう取り返しのつかないところまで来ちゃってて、もうどうしたらいいかわかんなかった。

だから、花凜の誕生日プレゼントだけは、ちゃんとした仕事で稼いだ金で、花凛の欲しいものを何でも買ってあげたいって思ったんだよね。

でも、すげー高そうなワンピースと靴、優太がポーンと買ってくれたって聞いてさ、やっぱり俺は手の届かないお姫様に近づきたくて、必死に見栄張ってただけの貧乏人なんだなって思った。

花凜と再会して、それを改めて思い知らされて、辛くなったんだ」

 

確かに、昔からわりと欲しいものは何でも買ってもらえたし、お兄ちゃんも社会人になって、お金には余裕がある方なのかもしれない。

だけど、それで紫耀くんに劣等感を感じさせていたなんて、全然気づかなかった…。

 

「私、プレゼントなんていらない!デートだって家で会えればそれでいい!ただ紫耀くんがそばにいてくれれば、他には何にもいらないから!」

紫耀「俺が嫌なんだよ!」

 

普段ほとんど声を荒げることのない紫耀くんの怒鳴り声に、思わず身を固くする。

 

紫耀「そうやって、気を遣われて付き合っていくのは、俺が耐えられないんだ。

俺は金が欲しい。チャンスなんだ。今度こそ、ちゃんとした方法で金が稼げる。そのためには、花凛がそばにいると、困るんだ。ごめん、今、俺、自分のことしか考えられないから。

“貧乏”しかなかったこの町の思い出は、全て捨てていきたい。

大丈夫、花凛には他にもっといい人がいるよ」

 

 

紫耀くんは、くるりと背中を向けて歩き出す。

 

 

「待って!行かないで!他の人なんて考えられない!私には、紫耀くんしかいないの…!だからお願い!行かないで!」

 

 

 

叫んでも叫んでも、紫耀くんは振り返らずに歩く。

 

 

 

どうして、どうして…。

運命の人だって言ったのに。ずっと一緒だって言ったのに。
歩き出したその背中を追いかけ、手を取ろうとしてはっとする。

 

紫耀くんの指から、指輪が消えていた。

誕生日の時に買ってくれた揃いのペアリング。

お互いを”自分のものだ”と確認するためにつけたはずの。(16話

 

“全てを捨てて行きたい”

 

 

そうか、もう決めたんだ。
紫耀くんの中に、もう私はいないんだ。

 

 

つかみかけたその手に、結局触れることができず、その場に立ち尽くした。

私の右手の薬指には、かたわれを失い意味をなくした指輪が虚しく光っていた。

 

君しかいない 最後の恋は

何度も心で叫んでも

触れられず君は 泡のように消える

薬指のリングはそのままで

 

苦しくてもいい 傷ついてもいい

そばにいてくれるのなら

どんな犠牲も厭わないのに何故?

振り向かぬまま去っていくの

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

 

 

 

そして、紫耀くんは新幹線に乗り込む。

 

 

紫耀くんは夢に向かって旅立つんだ。

私の存在が邪魔になってしまうのなら、身を引かなければならない。

 

 

笑顔で送り出さなきゃ。

でも、どうしようもなく涙があふれて、とてもじゃないけど無理だった。

最後にこんな顔で見送られたんじゃ、紫耀くんだって気持ちよく旅立てない。

 

せめて、紫耀くんに重荷を背負わさないように、そっと姿を消すしかない。

私は新幹線に背を向け、ゆっくりと歩き出した…。

 

 

最後の恋(紫耀サイド)

もう一度俺のあげた指輪をつけてくれたその右手を、今すぐにきつく握りしめたかったけど、何とか堪えた。
もう触れられない、決意が揺らいでしまうから。

 

 

そして背を向け歩き出す。
ポケットの上から触る、小さくて硬い丸みを帯びたもの。

捨てられなかった指輪。

だけどもう、この指につける事は無い。

 

 

 


 

 

花凛に告げたことの半分は本当で、半分は嘘。

 

 

小さい頃から貧乏で苦労してきて、花凛の家に経済格差を感じていた事は本当。

花凛にふさわしい男になるために、高価なプレゼントを買ってあげたいと見栄を張ってがむしゃらにバイトしたのも本当。

それを社会人の優太に簡単に抜かされて、敗北感を抱いたのも本当。

 

でも、花凛と一緒にいて辛くなったことがあるなんていうのは嘘。

花凛といられるなら、貧乏だってはねのけられると思ってた。

 

この町の思い出を全部捨てていきたいなんて言うのも嘘。

この町は、花凛と俺をつなぐ大事な場所。ましてや、花凛との思い出も花凛とのこれからの未来も捨ててしまうなんて、心が壊れてしまいそうなほど痛い。

 

 

 

だけど、話した中で1番強く真実なのは、

“俺は金が欲しい“

そのために体まで売ってきたんだ。

 

 

アイドルになる事は、俺にとっては夢なんかじゃない。

確実に金を稼ぐ方法だった。

 

 

花凛と付き合い始めて、順調すぎるほどに幸せで、俺は舞い上がっていたんだと思う。

 

花凛のことを本当に大切にしたいと思ってた。自分は汚れた体なのだとわかっていた。だから、レンタル彼氏のバイトをちゃんとするまで、花凛には触れてはいけないと思ってた。

でも、好きで好きで、頭がおかしくなりそうなほどに好きで、我慢ができなかった。

 

順番を違えてしまったけれど、花凛に触れてしまった以上、すぐにでもレンタル彼氏のバイトを辞めなければと思って、マネージャーに相談した。

その後の事なんて、考えてなかった。

 

 

だけどやっぱりあいつが来た。死神みたいに。

「俺は昔から面喰いでさ、そのせいで女運悪くて散々な目に遭ってきたと思ってたけど、やっぱり正解だったな。こんな美形の息子が2人もできたんだ。この前、廉のこと見たよ。びっくりするほどきれいに育ってんじゃねーか。

お前が彼女とのデートにうつつを抜かしてもう仕事ができないって言うなら、そろそろ廉をデビューさせるか。あいつもきっとお前に劣らず稼ぐぞぉ?」

 

廉の親父は、ニヤニヤとしながら恐ろしいことを言った。

俺たちは見張られている。

俺が、花凛と一緒に帰るために、バイトを減らしていたことも知ってるんだ。

「家には来ない」と言う約束は守っているものの、廉のこともどこかで見ている。

毎月渡す金が滞れば、廉に俺と同じことをさせようとしているんだ…!

 

 

 

以前から客の一人に、「芸能界に興味はないか?」と誘われていた。

その客は大手アイドル事務所の女社長で、新人発掘のためにレンタル彼氏を利用しているのだそうだ。

町を歩いてただ顔だけを見てスカウトするよりも、喋りや雰囲気、女性を虜にする色気などを審査するのには、こういったサービスを利用するのが手っ取り早いと説明され、なるほどと思った。

 

 

業界の話は普通に面白かったが、東京に出て花凜と遠距離になるのは嫌だったから、適当にあしらって断っていた。

 

 

 

でも、もうそんな事は言っていられない。

俺にはまた、後がなくなった。

 

 

 

その客に前向きな返事をすると、あれよあれよという間に話は進み、すでに事務所に入っていたメンバーとユニットを組むことになり、雑誌の撮影があり、デビューのほぼ内定まで決まった。

社長に早急に金が必要だと言う事情を話したら、給料の前借りと未来への投資としてかなりまとまった金額をくれたので、廉の父親への支払いは滞らずに済んだ。

それで俺はもう、この道に進むことを迷うことができなくなった。

もう突き進むしかないのだ。

 

 

 

 

これで一見落着。廉が汚れた世界に引きずり込まれることもない。俺もその世界から足を洗うことができた。俺が安定的に金を稼げば、廉の父親が廉に手出しをしてくることもないし、母親の体調の心配ない。

全てがうまくいった。

 

 

 

…本当に?

 

 

 

母親の代わりに家計を支えるぐらいだったら、他のバイトでもなんとかなった。廉の父親から身を隠すためなら、遠くに引っ越す方法もあった。

でも、体を売ってまでこの町に残ったのは何のため?

 

 

“花凛には他にもっといい人がいるよ“

 

これは本心?嘘?

 

花凛にとって、俺が1番ふさわしい相手だなんて言えない。

でも俺にとっては…

 

 

 

かわりなんていない。

花凜しかいない。

花凛以外は考えられない。

俺にとっては最初で最後の恋だ…。

 

 

 

やっぱり

 

 

やっぱり

 

 

俺は…

 

 

受け入れられたらきっと救われるだろうけど

何をしても 君への愛は消えない

 

 

 

プルルルルル…。

発車を知らせるベルがホームに鳴り響く。

 

 

 

兄としての責任も、小さい頃の「廉は一生俺が守る」と言った“約束“も、全部捨ててしまえば、自由になれる。

母親に失望されても

廉にひどい兄だと罵られても

 

 

それでも俺は…

 

 

全ての重責を振り払うように、俺は勢いよく新幹線のドアへと手をかける。

 

 

だけど花凛は、もう背中を向けて歩き出していた。

 

 

振り向いて。

振り向いてくれたら、もう俺は全てを捨てて悪人になる。

花凜がそばにいてくれるのなら、どんな犠牲も厭わないから…。

 

 

そう心の中で何度叫んでも、花凛は振り向く事なく歩き続けていった。

 

君しかいない 最後の恋は

何度も心で叫んでも

触れられず君は 泡のように消える

そばにいてくれるのなら

どんな犠牲も厭わないのに何故?

振り向かぬまま去っていくの

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

 

 

 

言わずに飲み込んだI love you(紫耀サイド)

通り過ぎていく見慣れた町並みを、窓からぼーっと見ていた。

 

 

あの時、名前を呼べば、新幹線から降りてその手を取れば、

花凜は振り向いてくれたかもしれない。

そのまま二人で、どこかへ逃げてしまいたいと、一瞬本気で思ってしまった。

 

 

でもそうしなかったのは、やっぱり俺にはこういう生き方しかできないから。

 

 

 

俺の愛し方は間違っていたのだろうか?

 

本当はあの時から、こうなる事は決まっていたのかもしれない。

 

 

いつだったか、花凜の料理について廉と意見が食い違ったことがあった。(15話

 

昔から、花凜は料理が苦手だった。

花凜を悲しませないためなら、俺はどんな殺人級の塩味の料理でも、笑って「おいしい」と嘘をつける自信はあったし、結婚したら、俺が料理を作ったっていい。

本当のことなんて伝えなくたって、ずっと俺がそばについていて守ってやればいいだけの話だと思っていた。

 

 

だけど廉は真正面から「まずい」と伝えた。

「今後一緒に生きていく人に嘘はつきたくない。その場では厳しいことを言って相手を傷つけることになったとしても、相手を成長させてあげられる方が愛だ」

と廉は言った。

 

 

だけど、そんなこと、俺にはとうていできない。

大好きで大切な人を傷つける勇気なんてなくて、だったら自分がずっとそばについていて、大切に大切に安全な場所に囲って守ってあげれば良いのだと、そう思っていた。

 

廉があの時表現した

「先回りして手引いて、周りから守って、危ないことはさせへん。」

そんな表現がぴったりな愛し方。

 

 

廉を父親から隠すために、外に出すのを恐れてバイトもやらせず、家に閉じ込めていた俺の愛し方を廉は嫌がったけど、それでも俺はそれが正しいと思ってた。

それで廉に恨まれても、自分だけが犠牲になろうとも、一生秘密を守り続けていくことが「一生守る」という約束を果たしていることになるのだと。

 

 

だけど、自分に守りたい人が2人できてしまったら?
自分にその人たちを守れるほどの力がなかったら?
すべてを自分の手で守れると思っていた俺は、世間知らずの子供だったんだ。

 

 

 

 

単純に言えば、廉を守るか?花凜を守るか?
その2つの選択と言えるのかもしれない。

 

 

それで俺は廉を選んだ?
なぜ?最初に守ると決めたのが廉だったから?

 

 

 

いや。

 

 

廉を守れるのは俺しかいないけど、花凜には守ってくれる人がいる。
きっと、俺よりもちゃんとした守り方で。

 

 

花凜を守るために、俺に立ち向かった廉を見た時に、

そして、翌日、花凜を俺の前からかっさらった廉の決意を見た時に、

確信したんだ。

 

 

花凜は俺がいなくても、大丈夫。

 

 

 

多分ずっと前から、俺は不正解だった。

一人ですべてを背負いこんで、大切な人に秘密を持って、自分1人で守った気になっていたバカな男。

廉は、大切な人に嘘をつかず、自分に守るだけの力がなければ、「一緒に成長しあって生きていく」と言ったのだ。

 

きっとそれが正解だった。

 

 

だけど俺は、こんな愛し方しかできない。
きっともう一度時が戻っても、同じ選択をするだろう。

 

 

だから廉、花凜のことをよろしくな。
お前ならきっと花凜の笑顔を守っていくことができるだろう。
頼むな、廉…。

 

 

俺は俺のやり方で、2人を守るから。

自分の信じた道を突き進む。

 

 

「大切な人は一生かけて自分の手で守る。そこに秘密があったとしても、秘密を守り切れば、それは守ったことになる」と。

だから、本当のことは言わずに俺は去る…。

 

 

息が苦しくなるほど愛し合っていた二人のLove story

これまで信じた永遠は嘘のように溶けていく

壊れそうな心を抱きしめて

I love you,I love you

言わずに飲み込んだ

King & Prince「Lost in Love」

作詞:草川瞬、作曲:草川瞬・坂室賢一

 

 

見慣れた町並みはぐんぐんと通り過ぎ小さくなっていく。

 

一緒に通った小学校。

二人指切りをした踏切。

並んで歩いた坂道。

初めてキスした神社。

 

一瞬で消えていく景色。

それなのに、なんで、なんでこんなに記憶は鮮明に蘇ってくるんだよ…。

 

 

花凜についた、一番の嘘。

”再会しないほうがよかった”

 

 

そんなわけない。

大好きだった初恋の女の子。

あの頃と変わらない笑顔と優しさ。

 

君と過ごした数ヶ月が、俺の人生の中で一番輝いてたよ。

君に夢中になったあの日々を、俺は決して忘れない…。

 

忘れようとしても隣にまだ感じる君の温もり

どれだけ後悔重ねたとしても見えてこない未来

願ったって届かないこの想い

I know that,I know that

分かってるのにまだ…

 

君だけいない 見慣れた景色

君以外何もいらないのに

「出会わなければ良かった」なんて

忘れようとすればするほど

泡のように包まれた優しさ

思い出しては 気付かされる

Lost in Love…

 

 

 

 


 

 

続きはこちら

 

このお話のモデルとして使わせていただいた参考文献はこちらです。

 

今回のテーマソング「Lost in Love」の解説記事はこちらです。

コメント

  1. みつき より:

    18話の更新ありがとうございます!
    とても面白かったというか…
    本当に感動しました!
    なんか花凜と紫耀くんの思いのすれ違いというか…(笑)
    次のお話も楽しみにしています!

    • ちゃちゃ より:

      みつきさん、お読みいただきありがとうございます!
      そして、あけましておめでとうございます。今年もゆっくりではありますが、執筆していきますので、よろしくお願いします(*˘︶˘*).。.:*♡ 

      今回、けっこう長くて大作でしたが、これが言っていた”重要な伏線”でした!
      しょうれんの真逆な考え方と愛し方って感じで。
      実際はどうかわかりませんが(笑)

      • みつき より:

        あけましておめでとうございます!
        頑張ってください!

        これが重要の伏線でしたか!
        確かに実際はどうか分かりませんね(笑)

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