King & Prince「MAGIC TOUCH/Beating Hearts」のカップリング曲「雨音」と「Seasons of Love」の歌詞をもとに、小説を書きました!
私は曲の歌詞からストーリーを構成する“歌詞小説“と言うものを描いています。
前のお話はこちら。
満員電車
私たちが飛び込んだのと同時に、プシューとドアが閉まった。
「セーフ!」
ニカッと微笑んで振り向いた紫耀くんは、まだ私の手をつかんだままだったことに気づき、慌てて離す。
「やべ!また俺ばか力じゃなかった!?大丈夫?今度は赤くなってない?」
「うん、大丈夫…」
紫耀くんに握られていた手首をさすりながら、その温もりが離れてしまったことをちょっと残念に思う。
「あれ?平野紫耀じゃない?」
電車はかなり混んでいて、近くに立っている女子高生たちから、ささやきが漏れ聞こえた。
「きゃーラッキー!平野紫耀と一緒の車両!」
学校では小学校の時同様、クラスの女子の人気者だと言う事は今日1日でよくわかったけど、もはや「学校の人気者」を超えた存在になっているらしい。
他の高校の女子にも顔や名前が知れているほど、有名人なのだ。
それは、この美貌だもん、無理もないか。
こっそりと、すぐ近くにある紫耀くんの横顔を盗み見る。
首筋に伸びる顎のラインがめちゃくちゃ綺麗。
片方の手は椅子のへりに置いて、もう片方の手はドアの窓についている。
ちょうど壁とドアの角にちょこんと収まっている私は、紫耀くんに覆われているような格好になる。
そのたくましい腕や、2つ開けたワイシャツの襟元から覗く鎖骨がセクシーすぎて、思わず抱きつきたい衝動に駆られている私は変態だろうか…。
電車は混んでいるのに、私と紫耀くんの間に少し距離がある。紫耀くんはドアについた手を突っ張って、距離を保っているようだった。
満員電車で、私が潰されないように、守ってくれてる…?
「紫耀くん、もうちょっと詰めても大丈夫だけど」
紫耀くんのブレザーの裾をツンツンと引っ張る。
「えっ…⁉あ、いや、これ以上はちょっと…。」
突然紫耀くんが慌てふためくので、ちょっと傷つく…。
「あ、ごめん…そんなちかづくの、やだよね…」
「えっ⁉違う違う!そういうんじゃなくて…!ほら、さっき走ったから、俺、臭いと困るし」
「え!?なにそれ、全然臭くないし(笑)」
なんだ、そういうことか。ならよかった。
でも、そんなこと言われたら、私もこれ以上近づけないや。私だって走ったから、汗かいてたら嫌だし。
そうして微妙な距離を保ちながら、私たちは電車に揺られた。
するとさっき「平野紫耀だ」と騒いでいた女子高生3人が、紫耀くんのすぐ後ろに来ていることに気づいた。人混みの中をすり抜けて、場所を移動してきたのだろう。
電車の揺れに合わせて、紫耀くんの背中に倒れ込み「きゃーすいません」とかわざとらしく言っている。
そのあとで他の2人が「ずるーい!今度私ー!」などとヒソヒソ、クスクス話しているのが丸聞こえだ。
これは、男女が逆だけど、ある意味、痴漢行為じゃないのか?
「紫耀くん、大丈夫?場所、変わろうか?私なら大丈夫だよ?」
こっそりとそう言って、後ろの女子高生たちをアイコンタクトで示す。
「何言ってんだよ、女の子は男が守るものなんだから、お前は黙って守られとけばいーんだよ!」
急にそんなお姫様みたいな扱いをしてくれるものだから、カーッと顔が熱くなっていく。
満員電車(平野サイド)
やばいやばいやばい。なんかスゲェ見られている。
花凛の視線を感じている首筋がかゆくてムズムズする。
そんなうるうるとした瞳で見つめないでくれ、なんか心なしか花凛の頬がほてってる感じするし。
なんか、…エロい!
ちょっと会わない間にこんなセクシーな視線で男を誘ってくるような女になりやがってぇ〜!(←別に誘ってはいない)
やべ…このまま抱きしめたい…。
ハッ!いかんいかん!
さっきどさくさに紛れて手繋いじゃったし、完全エロモード入ってるよ俺!!
再会したばっかで、そんなガッツいたら絶対引かれる!!
花凛だって高校生にもなったんだから、彼氏とかいるかもしれないしな。焦るな、焦るな。
あまりに至近距離で、目のやり場に困り、ずっと窓の外を見ていた。
するとツンツンとブレザーを引っ張られる感触がした。
「紫耀くん、もうちょっと近くに来て?」(←ちょっとニュアンス変わっているが、紫耀にはこう聞こえた)
ダッ…!ダメだろ、それはぁ〜〜ッ…!
歯止めきかなくなるから!!
でも…これはちょっとくらい触ってもいいのか!?満員電車を口実に、抱きしめてもいいのか!?そうなのか…!?
そうだよな!花凛の方から誘ってきたんだしな!(←だから誘ってはいない)
そしてそっと、椅子に置いていた手を離す…
雨の日の約束
紫耀くんが、椅子に置いていた手を離し、その手がそっと私に近づいてくる…。
…と思ったら、途中でピクッと手が止まり、そのままズボンのポケットに手を入れ、携帯を取り出し画面をチェックした。
なんだ、携帯取ろうとしただけだったのか。
なんか、私のほうに手が伸びてきたように感じたのは気のせい?
一瞬、触れられるのかと思った。
って、電車の中で、なんでだよ!?私、やっぱり変態かよ。
紫「はぁぁ〜〜…」
紫耀くんは、携帯の画面を見つめたまま、大きくため息をついた。
「どうかしたの?」
「ごめん、急にバイト入っちゃった。次の駅で降りなきゃいけなくなった。本当は家まで送りたかったんだけど。本当にごめん!」
「いいよいいよ!全然!」
そう言いながらも、かなりがっかりしていた。せっかく今、幸せの絶頂だったのになぁ…。もっと紫耀くんと一緒にいたかったな。
紫「明日こそ、絶対一緒に帰ろうな!」
「…うん!」
紫「じゃぁ、約束」
紫耀くんが小指を立てる。
「あ、これ…」
紫「フフ、そ(笑)あの日もやったろ?」
私たちの家は踏み切りのあっちとこっちで、一緒に帰った日は、踏切で手を振って別れる。
春休みに入る前日も雨が降っていて、いつものように紫耀くんが暴れまわって傘を壊して、私の傘に入り込んできて、踏切で別れる時に約束をした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紫「4月になったらクラス別れちゃうかもしれないけど、また傘壊れたら、入れてな!」
「学年上がっても、まだ傘壊す気なの?(笑)」
紫「いや、壊す気はなくても壊れちゃうつーか…。まぁ、いいだろ?頼むよ」
「うん、わかった」
紫「じゃぁ、約束!」
「うん、約束」
紫耀くんが小指を出して、私がそこに自分の小指を絡めて、2人で笑って腕をブンブンと振った。
「また新学期!」と手を振って別れ、だけど新学期にまた会う事はなく、それが私たちの最後の会話になった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
だけど今度の「また明日」の約束は、守れるんだよね。明日も明後日も明明後日も、その先もずっと会えるんだもんね。
電車の窓から見る街並みは、昔とはだいぶ変わっていた。
だけど昔と同じに戻った私たちの関係は、きっとこの先もずっと続いていくんだよね?
このときの私は、何も疑わずにそんなふうに思っていた。
帰り道の指切り
無邪気に微笑む君
手を振った踏切
見慣れた街並みも 変わっていくけど
King & Prince「雨音」作詞:Komei Kobayashi 作曲:Shusui・Susumu Kawaguchi
痴漢?
紫耀くんが降りると、さっきまでのゆとりのある空間が嘘のように、ぎゅうぎゅうの車内に押しつぶされた。
やっぱり紫耀くん、守ってくれたんだ。
知らない人と向き合っているのも気まずいので、窓の方向を向いて後ろ向きに立った。
するとしばらくして、何やら太ももに生ぬるい感触を感じた。
…痴漢!?
うそでしょ…、どうしよう…。その指の感覚が、太ももをすりすりとつたって、スカートの中に入り込もうとする。
ヤバい、このままじゃ…
勇気をふりしぼって、その手をつかみ上に上げた。
「こ、この人、痴漢です…!」
振り返って確認したその男の顔は、驚きであんぐりと口を開けたまま固まっていたが、それ以上に私の方がびっくりしてぶっ倒れそうになった。
それくらいに、その彼は美しく整った顔だった。
「ちょ、お姉さん…、本気で俺が痴漢した、言うてんの?ありえへんのやけど…」
今のこの状況けっこうヤバめだな…と思いながらも、もう一方で「あれ、この顔で関西弁なんだ⁉︎そして意外に声高いな…」なんて呑気なことを考えていて、頭の中はとっ散らかっていた。
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