このお話は、SMAP「オレンジ」恋愛三部作をモデルにした音楽小説です。
SMAPの名曲の数々を今の若い子に布教するため、主役はキンプリの岸くんです!
私の小説は、曲の歌詞からストーリーを考えている“音楽小説“となっています。
今回は「ススメ!」の曲をモデルにしています。
全体的には、SMAPの隠れた名曲「君と僕の6ヶ月」の歌詞に沿ったストーリーです。
ALWAYS
Night and Day (悩んで)ボクらは
Step by Step ミライへ
ススメ
SMAP「ススメ!」
作詞:多田琢、作曲: TAKUYA
朝まで君を待ってた
3階の8つ目の窓
明かりがともらないまま 星空は消えた
SMAP「一人ぼっちのHappy Birthday」作詞作曲:久保田洋司
「あかん!あかんあかん!優太、それストーカーやで!?」
誰も客のいない深夜のコンビニに、廉の高い声が響き渡る。
「いやいや、別になんもしてねーって。ただ、朝まで彼女のマンションの前で部屋見てただけ」
「だからそれがストーカーや!」
なぜだか、先日別れて以来、美華は店に来なくなり、朝のバス停にも現れなくなった。
キャバクラの場所も、OLをやっていると言う会社の場所も知らないけど、自宅のマンションは何度も帰りに送っているので知っていた。
「彼氏がいる」と告白された日に、1つだけ明かりがついていた部屋、そこが美華が住んでいる部屋なのだろうと言うこともわかった。
なぜ突然美華が姿を表さなくなったのか、さっぱりわからなかった。
彼氏が居る事が俺にバレたから?
いやいや、それは美華の方から言ってきたのだし、そもそも美華はそのことを俺に隠しているつもりはなかったのだ。
だとすると、何か事件や事故に巻き込まれたとか…!?
だから、安否を確認するために、美華の部屋に電気がつくかどうか、朝まで見張っていただけだ。
ストーカーだなんて大騒ぎして、廉は心配性だなぁ。
「部屋番知ってるなら、いっそのことピンポンして安否確認したらえーやん?一晩中外で待ってるのは、絶対ストーカー!」
「だって…ピンポンして、彼氏と鉢合わせしたら嫌だし…。電気が消えてるからっていないとも限らねーじゃん。もしかしたら2人であんなことやこんなことや…」
「だったらもうさっさと忘れるんやな。そもそも、彼氏がいるのにキャバクラで働いたり、お前と会ったり、結局そういう女やったんやろ?」
廉が言っていることももっともなのかもしれない。
だけど、どういう女であろうと、もう好きになってしまっているんだから仕方がないのだ。
夜のマンションの見張りだけでなく、朝のバス停のパトロールも欠かさない。
最近は梅雨明けして、ほとんど雨も降らないので、毎日自転車通学だ。
大学へは、このバス停を通らないほうが近いが、美華がいるかどうかを確認するため、必ず遠回りしてバス停の前を通ることにしていた。
そして美華と連絡が取れなくなってから、2週間ほど経った朝、美華がバス停に立っていた。
俺は反対側の歩道にいる。
バスがやってくるのが見えた。
やばい!バスに乗られてしまったら、また見失ってしまう。もう二度と会えないかもしれない。
「美華ぁーーーっ!」
思わず大声で叫ぶと、美華だけでなくあっちのバス停とこっち側のバス停で待っている人、通りを歩いている人、みんなが一斉に俺を振り返った。
しかし恥ずかしがっている場合ではない。バスが近づいてくる。
ええーい!
やけくそになって、横断歩道でもない道路を突っ切った。
何台かの車が、激しくクラクションを鳴らした。
「ゆ、優太…っ!?」
俺の行動に驚き、それだけ言って絶句する美華の腕をグッと引っ張り、バス停の列から抜けさせる。
「どうした!?何があった!?なんでずっと来なかった!?ずっと心配してたんだぞ!?」
バスが到着し、列に並んでいた人たちは、俺たちをチラチラと振り返りながらバスに乗り込んでいく。
「…優太ぁ〜」
美華がみるみる泣き顔になる。
「ん?どうした?」
俺も少し冷静になり、美華が落ち着きを取り戻すのを促すように静かに声をかける。
「私、ふられちゃった…。彼、出てっちゃったのぉ~。」
「え、そうなの…?それは…」
…俺にとってはおいしい展開じゃないか‼︎
「えっとぉ…連絡取れないの?彼氏さんの勤務先とかは知ってるでしょ?」
「勇太は、勤務先とかないの。色んな場所を放浪する画家の卵だったから。」
が、画家の卵ぉ~!?
いかにも怪しいぞ勇太!!
「でもさ、携帯くらい持ってたでしょ?」
「携帯は家に住むようになった時に、私が契約してあげて、料金も私の口座から落ちてるから、さすがに置いていったみたい。そっから足取り辿られるのが嫌だったのかも…」
「え、もしかして、生活費とか全部出てた…?」
「そりゃまだまだ画家の卵で収入ないから。私が支えなきゃ!
でもね、何度か個展だって開いたことあるんだから!そりゃまだまだ無名であんまりお客さんは来なかったけど、勇太には才能があるんだから!」
個展って、チケットを売って出費を回収するはずだから、お客さんが来なかったら大赤字のはず。
「その個展の費用って…」
「うん、私が。その他にも画材とか資料集とかみーんな私がプレゼントしてあげたのよ。画家って意外とお金がかかるの」
めっちゃ貢いでんじゃん!!
勇太、完全にヒモ男じゃん!!
「もしかして、だからキャバクラで働いてたの?」
「まあね。OLのお給料だけじゃ足りないし。それにちゃんと分けておいた方が分かりやすいと思ったの。キャバクラのお金は全部彼に捧げる、OLのお給料は自分の夢のために貯めておくって」
ろくでもないヒモ男に貢いでいたバカ女。
でも、「家族が病気で仕方がなく」とかいう美談ではなかったけど、それでものっぴきならない理由があった。
自分が贅沢三昧するためにキャバクラで働いていた訳じゃなかったんだ。
それに歌手になるという自分の夢のために、ちゃんとコツコツとお金を貯めていたんだ。
意外と堅実でしっかりとした良い子じゃないか。
「それなのにぃ~…その通帳も空になっててぇ〜!」
「え、えぇ~っ!?」
まじか…。勇太、すげえクズじゃん…。
「それでショックで、もう何もかもやる気がなくなって、無断欠勤してたら、総務から“これ以上無断欠勤するなら、解雇です“みたいな通知が来て…。やばい会社行かなきゃと思って今日…」
プシューとドアが閉まり、ゆっくりとバスが走り出す。
「あー!あのバスに乗らなきゃ、私クビになっちゃう!」
「え、えぇっ⁉︎」
「どうしてくれんのよ!優太のばか!クビになったら優太のせいだからね⁉︎」
え、えーっと…
「わかった!じゃぁ、後ろ乗って!」
「もうちょっともうちょっと!頑張れ優太!あぁ〜!青〜!」
信号でバスが止まるたびに追いついて、追いついたと思ったら信号が青になってまた引き離される。
そんなエキサイティングな鬼ごっこ状態に、さっき「彼氏に振られた」と半べそ状態になっていた美華は、俺の背中をバシバシと叩きながら盛り上がっている。
バスとほぼ同時に、美華の会社の前のバス停に到着した。
「すごーい!自転車って早いんだね〜!めっちゃ早くて、風きもちよかった〜!」
でしょうね…。あなたは漕いでないから…。
俺は汗だくですよ…。
「時間大丈夫?行ける?」
美華がそっと俺のTシャツの裾をつかむ。
2週間も無断欠勤したのだ。それは行きづらいだろう。
「やっぱり行きたくない~!私、今日1日、優太と一緒にいるぅ~」
そう言って、俺の胸に顔をうずめてきた。
うっ…嬉し過ぎる展開だが…
だ、抱きしめちゃうか!?向こうから抱きついてきてるんだから、さすがに怒られないよな。
でも…
彼女には失恋したくらいで、夢を諦めるような女になってほしくない。
ぎこちなく開いたまま固まっていた両手を、彼女の両肩にそっと置き、俺の胸から引き離す。
「夢、あるんでしょ?お金、必要なんでしょ?」
美華はコクリと頷く。
「じゃあ、行かなきゃ。」
美華はまだTシャツを離さない。
「会社終わるの何時?」
「…?18時」
「わかった、じゃあその時間ここで待ってるから」
美華の両肩を掴んでくるりと反転させ、そっと背中を押す。
その勢いで2~3歩、前につんのめるように進んだ美華が、また振り返ってすがるような目をする。
「大丈夫!立ち止まらずにススメ!!」
俺はニカッと笑顔を向けて、ガッツポーズをした。
今日もドロドロになって
深みにハマって
裏切られてまた傷ついて
夢に破れずにすむ方法は
夢を見ないことって
そんなこと言う大人になんて
なりたくないもんね
夢はここにないから
立ち止まらずにススメ
SMAP「ススメ!」
作詞:多田琢、作曲: TAKUYA