キンプリ歌詞小説「Seasons of Love」のエピローグ②になります。
ほんとのほんとにこれで完結です。
こちらのお話は第1章「雨音」(紫耀主演)、第2章「Seasons of Love」(廉主演)で構成されていました。
エピローグは「雨音」(紫耀目線)に戻っての完結です。
時系列、これのすぐ後の続きです。
2つの事件(優太サイド)
家族みんなで紫耀が出ている紅白を見て、咲人が「パパよりも紫耀くんの方がかっこいー」なんて言って、廉が大ショックを受けていた大晦日。
それから年が明けて、事件が2つ起こった。
1つ目は、年明け早々、廉の父親が死んだと知らせが来た。
廉の父親は再婚はしておらず、唯一の肉親である廉が喪主を務めることになり、俺たちも廉の家族として葬儀の手伝いに行った。
廉の父親は、ずっと仕事をしていなかったらしいのに、なぜかすごい金を持っていて、ずいぶんと豪遊していたようだ。
贅沢な暮らしをし過ぎたせいで体を壊して、病気で死んだ。
再婚はしていなかったが、金をばらまいてきれいな女たちを侍らせていたらしく、葬儀にはたくさんの女たちが駆けつけていた。
使いきれなかった金が遺産としてもらえるかもしれないと、「自分が内縁の妻だった」と主張している者同士で喧嘩になっていた。
相続の対象となるのは廉なのだが、「そんな出所のわからん金、気持ち悪いから辞退する」と言って相続権を放棄した。
俺もその時は、廉の父親がなぜこんな派手な暮らしができていたのか謎だった。
しかし2つ目の事件が起こり、ぴんときた。
紫耀が芸能界を辞めた。
辞めたというより、突然姿を消した。
最初は、「体調不良でしばらくの間、活動休止」とごまかしていたようだが、どこからか情報が漏れてしまい、「平野紫耀、失踪!?」と大ニュースになって、連日ワイドショーを賑わせた。
しかし、紫耀は見つからなかった。
花凛が紫耀と別れたばかりの頃、ショックでずっと学校に行けなかったため、俺が何度か学校に出向いたことがあった。
その時に、花凛や紫耀と仲が良かったと言うクラスメートに声をかけられた。もう苗字は忘れてしまったが、下の名前が俺と同じだった事は覚えてる。
「紫耀を責めないでください。紫耀は、花凛さんと紫耀の弟君を守るためにこの街を出て行ったんです」
彼はそう言っていた。
どういうことかと尋ねても、「詳しくは言えない」と口を閉ざした。
その言葉の意味と、廉の父親が働いてもいないのに大金を持っていたこと、廉の父親が死んですぐに紫耀が芸能界から姿を消したことが、やっとつながった。
紫耀は廉の父親に、何らかの理由があって金をむしりとられていたのではないか?
その金のために、芸能界に入る必要があったのではないか?
紫耀が花凛を捨てて東京に出ると言った時に、「なぜ」とは思ったが「憎い」とは思わなかった。
花凛と一緒にいるときの紫耀が、どれだけ花凛を大切にしてくれているかは、見ていればわかった。
そんな紫耀が、ただ自分がきらびやかな世界でちやほやされたいだけのために、花凛を捨てていくとは思えなかった。
何か事情があるのだろうとは思っていた。
その事情が何なのか、そのときはわからなかったけれど。
紫耀は、どうしても金が必要だったのではないか…?
いちど花凛を迎えに来たときに、それを阻んだのも“芸能界の事情“だった。
それは紫耀が話してくれた。
それなら、いっそやめてしまえばいいのに…と思った。
でも、紫耀が芸能界でどれだけ成功しているかは知っていたし、それを捨ててしまうのは惜しい気持ちもわかると理解していた。
でも違ったんだ。
紫耀は、”惜しい”からその座を捨てられなかったんじゃない。
金のために、どうしようもなく、そこから動けずにいたんだ。
そして今、やっと自由になった。
だけど、紫耀が花凛の前に再び姿を現す事はなかった。
地元に帰ってくる事はないが、母親とは連絡をとっているはずだから、廉と結婚したことも、子供が生まれている事も、当然知っているだろう。
紫耀が大切な人たちの幸せを壊してまで、自分の欲しいものを奪い取りにくるやつには思えない。
ワイドショーでは連日、「平野紫耀は一体どこへ!?なぜ消えた!?」と騒いでいる。
「忙し過ぎて、精神を病んだ」
「共演者たちからいじめにあっていた」
「本当はすごいわがままな性格で、無責任に仕事を放り出すような人格だった」
など、いろんな人がいろんなことを好き勝手に言っている。
だけど真実なんて誰も知る由もない。
誰も予想もできないだろう。
紫耀が抱えていた複雑な事情を、紫耀が感じていた苦しみを。
誰もが羨む容姿と才能と強運、全てを持ち合わせた完璧な男。
しかし、本当は誰も知らない苦しみとたった一人で戦っていた。
大切な人たちを守るために。
花凛は、”いつもそばで守ってくれる人”を選んだ。
だけど、”遠くから見守る愛”、それもまた真実の愛の形だったと俺は思う。
それは、周囲の人が抱く平野紫耀のイメージとは程遠く、不器用で不憫で儚い愛し方かもしれない。
それでも俺は、そんな生き方しかできなかった紫耀は、とても強いと思う。
そんなふうに自分を犠牲にして大切な人を守る生き方を同じようにできるかと問われたら、俺は足がすくんでしまうかもしれない。
うちの妹をそこまで大切に想ってくれたことに、兄として本当に感謝の気持ちを伝えたい。
地元に帰ってきてくれるなら、家族として迎えて、楽しく一緒に暮らして、いつか紫耀の幸せになる姿も見届けたい。
でも、それは叶わぬ夢なのだろう。
花凛と廉が幸せになることは紫耀の最大の望みだが、花凛と廉が家族になって幸せに暮らす姿を見るのは、紫耀にとって最大に辛いことなのだから。
紫耀は待ちわびるファンの前にも、俺たち家族の前にも、姿を現すことはなかった。
それから紫耀の足取りを知るものは、誰も、いない…。
今もずっと忘れない(紫耀サイド)
カラン…。
それは、絵馬が吊るされているところから少し離れた、神社の木に紐で結び付けられていた。
絵馬は時間が経つと処分されてしまうため、神社の人に見つからないようにここに吊るしたのだろう。
そして紐には、あのクマのストラップが一緒にくくられていた。
俺が、花凛の誕生日にあげたもの。
「廉くんと幸せになります」
絵馬にはそう書かれていた。
「幸せになれますように」じゃなくて「幸せになります」。
それは、願いではなく宣言だった。
いつかここに来るかもしれない俺に向けられたメッセージなのだと思った。
そうか、花凛は廉と生きていくことを決めたんだな。
そして今、幸せなんだな。
だったら、俺も歩き出さなきゃ。
ポケットの中の、丸みを帯びたものを手で触って確認する。
ずっと捨てられなかった指輪。
取り出して、いちどぎゅっと握り、それからクマの腕にはめ込んだ。
「幸せにな」
そして歩き出す。
神社を出て、街中を歩いた。
きっともう二度とこの街に帰ってくる事はないだろう。
だから、ひとつひとつ思い出を丁寧に胸の中にしまい込む。
初めてキスした神社、指切りして別れた踏切、再会した日は雨、一緒に傘をさして手をつないでまたいだ水たまり、小学校の頃、花凛の傘に入れてもらうために、わざと自分の傘を壊してずぶ濡れになったこと、そんな俺を傘に入れてくれたときの優しい花凛の笑顔。
街を歩けば、どこにぶつかっても君との思い出がよみがえってきてしまう。
ふと、懐かしい匂いがした。
雨上がりのアスファルトの匂い。
花凛との思い出は、雨の日が多かった。
空を見上げると、きれいな晴天に虹が出ていた。
まだ頭の中には、雨音が鳴り響いている。
いつか、この雨が止むことはあるのだろうか。
俺も前に進まないとな。
しっかりと今を生きてる君に恥じないように。
叶わなかった恋。
報われなかった思い。
それでも無駄じゃなかった。
君を想い続けたその時間は、今でも俺の中に大切に残っている。
今もずっと忘れない
笑いあったあの声
今1人歩く街 思い出を抱きしめて
あの日のように聞こえている 雨音
君は今を生きてるかな?
僕も大人にならなきゃな
雨上がりの虹 輝くように
歩いて行かなきゃ
光る未来へと
King & Prince「雨音」
作詞:Komei Kobayashi、作曲:Shusui・Susumu Kawaguchi
おわり
長らくおつきあいいただきまして、ありがとうございました!
筆者からのあとがきを書きましたので、まだ余韻に浸りたいよーとか、制作秘話などご興味ある方は、暇つぶしにお読みくださいませ!!(笑)
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