前回の更新から、ちょっと間が空いてしまいました。その分、今回めっちゃ長いです…!
今回ちょっと刺激的な内容になっていて、アウトかもしれないです…。
怒られたら、別サイトに移動するかもしれません。
私の小説では、キンプリの曲の歌詞をもとにストーリーを構成しています。
今回は、「マジックタッチ」です。
前のお話はこちら。
目次
理想の誕生日プレゼント(廉サイド)
一、十、百、千、万…。
ショーケースの前をウロウロと徘徊しながら、横目で値札をチェックする。
ポケットの中で握り締める万札。
ゆっくり選びたいのに、店員がチラチラ見てくるからめっちゃ恥ずかしい‼︎
「こんな高校生が、うちの商品に何の用かしら…」とか思っとるんやろうな。
ばかにすんなよ!ちゃんと金は持って来とるんやからな!
ポケットの中に手を突っ込み、裸で入れた万札をクシャッと握りしめる。
俺がなぜ、こんな似合わない場所をうろついているかと言うと…
季節は秋に変わろうと言うのに、花凛と紫耀は変わらず順調なようで、喧嘩ひとつしないので、付け入る隙がない。
俺は相変わらず駅で偶然を装って出会い、一緒に帰り、海人をダシにして花凛の家に上がり込む、と言う手法を続けるしかなかった。
廉「ふーん、お前、そんなん興味あんの?」
花凜が目を止めていたファッション雑誌のアクセサリーのページを覗き込む。
俺でも知ってるような有名なアクセサリーブランドのキラキラとした指輪が並んでいる。
今日もまた紫耀がバイトでいないのをいいことに岸家に上がり込んでいる。
「そりゃね!女の子はみんなキラキラしたもの大好きだもん♡」
廉「ふーん、でもお前みたいなガキくさい女には似合わへんちゃうの~?こういうのは、もっと大人でセクシーな感じのお姉さんがつけへんと」
べシッ。
優太「廉!おっ前は〜!またうちの花凜をいじめてんじゃないよ!」
廉「痛って…!!」
花凜から「ひどーい!廉くん!」とポカポカと叩かれるボディタッチ狙いで意地悪を言うたのに、予想外の方向からボディタッチの強さを通り越した暴力が飛んできた。
優太「花凛、もうすぐ誕生日じゃん。それ、欲しいならお兄ちゃんが買ってやるぞ?」
「いらない、いらない!お兄ちゃんからもらったって意味ないじゃん!」
優太「な、何…!?お兄ちゃんじゃ意味ない、とは…!?去年の誕生日は、ネックレス買ってあげたら喜んでたじゃんか…!?」
「指輪は特別なの!私ね、初めてつける指輪は、好きな人からもらったものって決めてるの!だから、それまでは自分でも指輪は買わないの!」
海人「じゃぁ、今年の誕生日は紫耀に指輪おねだりするんだ?」
「それはしないよ。」
海人「えー?なんでー?」
「だって、紫耀くん、せっかく一生懸命バイトしてるのに、こんな高いものおねだりなんてできないよ。それに、指輪って、ねだって買ってもらっても、あんまり嬉しくないじゃん?」
廉「じゃあ、どう言うのが嬉しいん?」
「そりゃぁ〜やっぱり…サプライズとか?
なんかね、理想のシチュエーションがあってね、誕生日に彼氏がくまのぬいぐるみくれて~、それだけでも嬉しいんだけど、実はそのくまちゃんの腕に指輪がハマってて~、実は指輪がプレゼントでした~!みたいなやつ!
ずっと昔からの夢なのっ♡
それでね、最初の指輪は右にするの。”彼氏がいる”は右、”結婚してます”は左って言うでしょ?だから、最初は右。
それで、付き合った日が長くなった頃のある日、突然“指輪、左に変えよっか?“って言われるの。それがプロポーズ!
ね、よくないっ!?」
廉「はぁ~~っ!?妄想が細か過ぎてきっしょいわ!ほんっま、お前、頭ん中お花畑すぎやろ!サプライズとかして喜んどる男、ナルシストなだけやろ。めんどいわぁ〜!」
優太「そうかっ!?お兄ちゃんは今のいいと思うぞ!参考になるぞ…(←サプライズ好きな人)」
「でもね、これはただの私の夢だから。紫耀くんには言わないでよ?無駄なお金使って欲しくないんだから。物なんていらないの。一緒に過ごせるだけで、私は十分幸せなんだから!」
ふーーーーん。
夢、ねぇ…。
紫耀が叶えられない、こいつの夢、か…。
誕生日デート
花凛サイド
今年の誕生日は、ちょうど日曜日に当たった。
今日は午前中から紫耀くんとデートの約束。
もちろん今日はバイト入れないでくれているから、1日中ずっと夜まで一緒にいられる♡
ちょっと大人っぽすぎて似合わないかなぁ?
姿見に自分の姿を映しながら、新調したジルスチュアートのミモレ丈のニットワンピをチェックする。
日曜日に紫耀くんとデートだと言ったら、ジンくんが「紫耀の好きなファッションを教えてあげる」と言ってアドバイスをしてくれた。
大人っぽくてシンプル。
フリフリや、花柄よりも、モノトーン系で。
露出は少なめで清楚に。
でも胸元がちょっと開いてるとか、どこかにちょっぴりセクシーさをプラスする感じ。
ジンくんにレディース雑誌を見せながらあれやこれやとアドバイスを受け、この前の休みの日にお兄ちゃんにおねだりしてちょっと早めの誕生日プレゼントとして買ってもらった。
最初は「なんで俺が、紫耀とのデートに着ていく服を買ってやらなきゃいけないんだよ!エロいやつだったら買ってやんないからな!お兄ちゃんがジャッジしてやる!」とブーブー言っていたお兄ちゃんも、試着室から出てきた私を見て、「かわいい、かわいい!」と大絶賛し、かなりお値段張っていたのにポーンと買ってくれた。
お兄ちゃんから見ても「どこに出しても恥ずかしくない」と言う感じの清楚系で、納得したらしい。
ピンポーン。
勢いよく玄関のドアを開けた私を見て、紫耀くんが一瞬息を呑んで絶句したように見えた。
2人で黙ったまま、電車に揺られる。
先ほど玄関先で、しばらくの間絶句していた紫耀くんが
「か、かわいい…!めっちゃかわいい…っ!!」
と大騒ぎし始めたので、つい「ジンくんに、選んでもらったんだよね」と言ってしまった。
すると途端にすっと顔から笑みが消えた紫耀くんは、「ジンと?一緒に買い物行ったの?」と低い声で聞いてきた。
そうだった、紫耀くんはジンくんが私のことを好きだと思ってるんだ。
ジン君が本当に好きなのは紫耀くん。だけどジンくんはその気持ちを紫耀くんに伝える事は今後も考えていないらしい。だから、私にもその事は黙っていてほしいと頼んだ。
私と紫耀くんが仲良くしているのを見るのは辛くないのか?と心配したが、最近では「推しがイチャイチャする姿を愛でる」と言う新しい楽しみ方を発掘したようで、何かと私と紫耀くんの仲を近づけたがる。
私たちが、なかなか進展しないので、もどかしく思っているようだ。
だから、「誕生日デートはとびきり可愛く仕上げて、紫耀をメロメロにしちゃおう♡」と張り切って服を選んでくれたのだ。
そんな複雑な事情を紫耀くんが察してくれるはずはなく、完全に失言だったようだ。
それ以来、紫耀くんはずっと黙ったままだ。
「眩しいのが苦手だから」と言ってかけているサングラスの中の目つきはわからないけど、確実に怖い…!
何やら鋭い目つきで、同じ車両に乗る周りの人たちを睨みつけているように見える。
そんなに機嫌悪くなっちゃったのかな、どうしよう…。
紫耀サイド
朝、玄関のドアを開けて出てきた花凛を見て、一瞬固まった。
学校で見るのよりもずっと大人っぽくてセクシーで、俺の好みのファッションそのものだった。
しかし聞けば、この服はジンが選んだと言う。
他の男に、こんなにも花凛の魅力を引き出されたのかと思うと、嫉妬で気が狂いそうだった。
ジンの野郎、やっぱまだ花凛のこと好きなんじゃねーかよ!
花凛の魅力をめちゃくちゃ理解してるから、こんなに可愛く仕立てられたんじゃねーのか?
学校で会ったら…シメる!!
一見清楚そうに見えるニットのワンピースは、エロい目で見ようとすると、実はすごくエロい。
胸の丸みや腰のくびれやお尻の曲線まで女性らしいフォルムをくっきりと反映していて、ふわっとした柔らかい素材感が、男の「触りたい」と言う欲求をそそる。
俺が目のやり場に困っているというのに、電車の中では男達が遠慮もせずにジロジロと視線を向けるものだから、片っ端から睨みつけて威嚇してやった。
同じ車両に乗るすべての男という男にまるで獰猛な番犬のように警戒心を巡らせていた。
今まで、花凛と会う時はいつも花凛の家だった。優太や海人の存在がちょっと邪魔だったけど、これに比べれば全然安心できるデート場所だったと気付く。
外にはこんなにも多くのエロい視線がうじゃうじゃあるんだから。
口うるさい兄貴や、姉ちゃん大好きなシスコン弟の存在の方がまだマシに思える。
花凛サイド
今日は電車に乗って隣町まで行って、ショッピングをしようと紫耀くんが提案してくれた。
ショッピングなんて男の人にとっては、きっとつまらないだけなんじゃないかな?とちょっと心配だったけど、正直私はすっごく嬉しい。
実際、私たちが住んでいる駅は1つもお店が入っていないような超田舎で、駅から家までの道のりにもコンビニ位しかお店がない。
でも隣町まで行けば、雑誌に出てくるようなかわいい洋服やアクセサリー、雑貨などがたくさんあって、見ているだけでワクワクする。
そんな華やかな街並みを、好きな人と手をつないで歩けるなんて、夢に描いていたような理想のデートコースだ。
紫耀「降りるよ」
電車が駅に到着して、紫耀くんが私の手を取る。
紫耀「気をつけて?」
電車を降りる時のホームとの隙間に履き慣れない高いヒールがハマらないように気をつけて降りる。
紫耀くんはシンデレラをエスコートする王子様みたいに手を引いてくれた。
紫耀「その靴もジンセレクトなの?」
「あ、ううん、これはお兄ちゃんが、この服に合ってるからってついでに買ってくれたの」
ジンくんに靴はコーディネートしてもらうの忘れてた。
紫耀「ふーん、なんだ優太か…そっか…」
サングラスでよくわからなかったかど、紫耀くんの表情が少し和らいだ気がした。
少し歩いたところにあるデパートに入る。お店ひとつひとつにキャーキャー言いながら立ち止まる私を見て、だんだんと紫耀くんも口数が増えてきて、さっきまでのピリついた雰囲気はなくなっていた。
あ!これ、雑誌に載ってた指輪…!
そのデパートには私の好きなブランドのアクセサリーショップも入っていた。
中に入ると店員さんが寄ってきそうで緊張してしまうので、店の外からショーウインドーにおでこをくっつけるようにしてガン見する。
はぁ、やっぱり3万円もする…。
まぁ、廉くんに言われた通り、私みたいなガキんちょには到底似合わない。
はぁ〜でもいつかこんなの欲しいなぁ〜。
私のもの
花凛サイド
「このクマかわいい~!通学カバンにつけよっかな~♡」
今度はカジュアルな雑貨屋さんに入った。
クマのキーホルダーの値札をチェックする。380円。
うん、こういった身の丈にあった店でのショッピングが1番!
「ね、ね!あそこにいる男の人、めっちゃカッコよくない!?」
近くにいる女の子2人が、少し離れて店の端に立っている紫耀くんのことを振り返った。
「確かに!でもサングラスイケメンかもよ?サングラス取ったら、目ぇ、こーんなちっちゃいかも!」
「ウケるー!えー、素顔気になるー!」
ふと、周りを見渡してみたら、その2人組だけではなく、店にいる女の子たちがみんな、ちらちらと紫耀くんを見ていることに気づいた。
ヤバい!紫耀くんが店中の女子に狙われている!
阻止せねば!
紫耀くんは私のものなんだからーー!!
「紫耀くん紫耀くん!これ買って!!誕生日プレゼントに!!おねがーいっ!!」
慌てて紫耀くんのところに駆け寄り、今自分で買おうとしていたクマのぬいぐるみのキーホルダーを強引に紫耀くんに押し付ける。
紫耀「?全然いいけど?でも、こんなんじゃなくて、もっとちゃんとした誕生日プレゼント、用意してるんだけど?」
「えっ⁉︎そうなの⁉︎なになに⁉︎」
紫耀「それはなーいしょ。後で渡すから。じゃあとりあえずこれも、買ってあげる」
紫耀くんは私の手からさっとクマを受け取って、レジへと歩き出した。
「なーんだ、彼女いんのか」
「もうこうなったら、むしろサングラスイケメンであれ!サングラスとったら目だけ超ブサイクであれ!」
また、周りの女の子たちがヒソヒソとささやく。
いい、いい!サングラス取らなくていい!もっと騒ぎになっちゃうから!
そう願う私の心とは裏腹に、レジにたどり着いた紫耀くんは店員さんに失礼だと思ったのか、ご丁寧にサングラスを外し、「これ、お願いします」とクマをカウンターに置いた。
その瞬間、店員さんもろとも店にいた全ての女子たちの視線が紫耀くんに注がれ、みんな絶句したのは、言うまでもない。
しばらくして、大きな体を小さく縮ませながら、サカサカと小走りで戻ってきた紫耀くんは、「なんか店中の女の子と店員さんにめっちゃ見られて、めっちゃ恥ずかしかった!!」と顔を真っ赤にしながらジタバタした。
さっきまでは店の端のほうにそっと佇み、私があれやこれやと手に取るのを静かに見守っていてくれただけだが、それでもやっぱり目立っていた。
それが今度は堂々と、女性客だらけのファンシーな店の1番奥まで進み、小さなくまのぬいぐるみのキーホルダーをレジに差し出し、「これ、プレゼント用で」と言ったのだから、そりゃあ店員さんにも周りの女の子たちからも注目されるわけだ。
「ラッピング待っている時間が地獄だった」と紫耀くんはいまだに顔を赤らめている。
「でも、はい、これ。誕生日プレゼント、第1弾」
紫耀くんが差し出したリボンをかけられたちょっぴりチープな包み紙と、まだちょっともじもじしている紫耀くん。
「紫耀くん、ありがとっ♡」
そのどちらも愛おしくて嬉しくて、紫耀くんの腕に絡みついた。
その瞬間、未だ紫耀くんに注がれていた女子たちな視線が凍りつくのがわかった。
でもいいの、わざと見せつけてるんだから。
あー私、ちょっと性格悪くなってるかも。
それくらい、誰にも取られたくないの。
みんなに見せつけたいの。
この超超超ーーかっこいい紫耀くんは、私のものなんだから!
俺のもの
花凛サイド
お昼は最上階のグルメフロアのレストランでランチ。これもまた、私にお店を選ばせてくれて、名物のパンケーキのデザートがあるお店に入った。
「午前中は私の買い物ばっかり付き合わせちゃったから、午後は紫耀くんの見たいものを見ようよ。メンズフロア行こ?」
紫耀「いい!いい!今日は、花凛の誕生日なんだから!俺は花凛が楽しそうにしているのが、1番嬉しいんだから!」
うーむ?買い物はひとりでしたいタイプなのかな?
でも、紫耀くんの誕生日(1月だから、まだちょっと先)のために、リサーチしておきたいんだけどな。
「そういえば、紫耀くんは今欲しいものとかってあるの?」
紫耀「欲しいもの?車!」
えっ…、そうですか…それはさすがに買ってあげられないな…。
「じゃ、じゃあ〜、理想のデートってある?」
紫耀くんの誕生日はどんなふうに過ごそうかな〜?
紫耀「うーん、そうだな…ドライブデート!」
うっ…、また私主導ではどうにもならんことを…。
そっか、紫耀くんは車が好きなんだね。男の子って感じだね。
じゃあ今日みたいなショッピングなんて、やっぱりつまらなかったんじゃないのかな?
紫耀サイド
はぁ、早く車の免許欲しい。
今日のデートでつくづく思ったこと。
理想のデートはドライブデート。
そしたら花凛を誰の目にも触れさせれずに2人でどこにだって行ける。
変な男の目に花凛を晒さずに済む。
ま、車買う金なんてないんだけど…。
電車の中では他の男の視線が気になってデートを楽しむ余裕なんてなかったけど、デパートに着いてようやくほっとできた。
デパートはレディースのフロアとメンズのフロアが分かれているので、花凛が見たがるような店にはほとんど女の子しかいない。
時折彼女の荷物持ちで暇そうにしている男が花凛に視線を止めたことに気がつくと、わざとその視線の先に立って、鋭い眼光をくれてやった。
突然花凛がくまのぬいぐるみのキーホルダーを「買って!」と言ってきた。いつもおねだりなんてしないタイプなのに、珍しいなと思ったが、380円の値札を見て、やはり花凛らしいなと思った。
花凛はいつも俺の家のことを気遣ってくれる。
今まであまり外でデートをしたことがないのも、外でデートしようと思えばお金がかかることを心配してくれているのかもしれない。
彼女にそんなことを心配してもらわなきゃいけないなんて、男としてふがいなかった。
こんな安物のプレゼントなのに、花凛は「紫耀くん、ありがと♡」と腕を絡めてきてくれた。
リターンでかすぎ…!クマさん、コスパ最高!
多分俺、不意に来るこのボディータッチのために生きてる…!
思わずめちゃくちゃ顔がデレつきそうになって、慌ててサングラスをかけた。
しかし、こんなデレデレしている場合ではない。
今日、俺には大切なミッションがあるのだ。
花凛サイド
紫耀「俺、ちょっとトイレ行きたくなってきた。ここで待ってて?」
エスカレーター脇のベンチに1人ちょこんと座らされた。
待ってる間、もう一回レディースフロアでも見てようかなと思ったけど、「はぐれると困るからここを動かないで!」とさんざん言われたので、携帯を開いて時間を潰すことにした。
「おねーさんっ!かわいいね?1人?」
最初は自分に話しかけられているとは気づかずに、スマホに目を落としていたが、「ねぇ、無視しないでよ?」と両側にドサっと男の人が2人座ってきて、やっと気づいた。
金髪のチャラチャラとした大学生位?の男の人2人が、両隣を固めるように座っていた。
「女子高生?かわいいね」
「…あの…えっと…」
「そのウブな感じの反応もまたいいねぇ。俺、君みたいな清楚な子、タイプなんだよね」
な、なんだこの人たちは〜!?めっちゃチャライ〜!!
「あの、私、ちょっと行きますね…」
ヤバそうだから、ちょっと場所を変えよう。
「え、どこ行くの?どこ行くの?」
「一緒に遊ぼうよ〜」
ぎょえーっ!なんでついてくんのよぉ〜っ!?
何とか振り切ろうとエスカレーターの周りをウロウロと歩き回ってみるものの、なかなかしつこい。ずっとついてきてしまう。
どうしよう、あんま動き回ると、紫耀くんとはぐれちゃうし…。
「花凛…!」
はっとして振り返ると、ナンパ男たちの間で、息を切らした紫耀くんが立っているのが見えた。
そしてゆっくりとサングラスを外し、前髪をかき分ける。
金髪に近い明るい前髪がオールバックになってから、サラサラと落ちる。
いつもよりずっと低いトーンのかすれた声が、やけに迫力があった。
「その子、”俺の”なんすけど、何か用っすか…?」
デートは終わり
花凛サイド
さっきから、紫耀くんはずっとムスっとしたまま黙っている。
本当は午後も街ブラデートを楽しむ予定だったけど、紫耀くんは「もう、帰ろう」と急に機嫌が悪くなって、私の腕をつかみ、ずんずんと駅に向かって歩き出した。
さっきのナンパ男たちに近づいてきた紫耀くんは、今にも殴りかかりそうな迫力で思わずぞっとしたけど、紫耀くんの捲り上げた袖から見える屈強な腕を見て、男たちは早々に退散していったので、ことなきを得た。
だけど、その一件を機に紫耀くんの機嫌がガラッと悪くなったのは一目瞭然だった。
もしかして、私があのナンパ男たちについて行こうとしたと勘違いして怒ってるのかな?
ただ逃げようとしてただけなんだよってちゃんと伝えたいけど、あまりの紫耀くんのダークなオーラに口を開くこともはばかられる。
そんな状態でも、さっき引っ張られた時に握られた手は、そのままきつく握られたままだった。
駅に着き電車を降り、それでもまだ無言のまま早歩きで歩く。その間ずっと無言で、なんだか怖いけど、私の手をぐっと掴んでいるのは、そのままだ。
いつも別れる踏み切りのところまで来て、「このまま、家くる?」と聞いてみる。
まさかもうデート終わりなんてことないよね?
紫耀「今日は、行かない…」
うそでしょ…今日は、夜までずっと一緒にいられると思ってたのに。
紫耀くん、そんなに怒ってるの?
やっぱり、さっきの男たちについて行こうとしたって、勘違いしてるんだ。
最高の誕生日になると思ってたのに…。
「じゃぁ、ここで…」
泣きそうになるのを我慢して物分かりのいいふりをする。
すると、紫耀くんは私の手を握る手にもう一度ギュッと力を込めて、低い声で静かに言った。
紫耀「今日は、うちにきて?」
友達へのプレゼント(廉サイド)
意を決して、「これ、ください!」と店員さんに声を張り上げる。
ポケットの中から握り締めた万札を5枚、カウンターの上に出す。
花凛が雑誌で見ていたデザインがどれだか正確に覚えてないが、このブランドだったことは確かや。
とにかく予算内で買える一番高いものを買えば間違いないやろ。
店員さんが笑顔を作って寄ってくる。
なんだ、ちゃんとお金持ってるじゃない、とでも思っとるやろか。
ふん、バカにすんなや。
確かにバイトさせてもらえへんから、自由に使える金はあんまない。
でも、小さい頃から紫耀に「学校が終わったら寄り道しないですぐに帰ってくるんだぞ」となぜか箱入り娘状態で大事に大事に育てられたことで、友達と遊ぶということもなく、金を使う機会がなかった。
女嫌いで彼女もおらへんから、そっちに使う金も必要ない。
最近やっと”学校帰りに寄り道して友達と遊ぶ”という楽しみ方を覚えたが、海人んちに遊びに行くだけなので、金を使わないどころか、夕飯をご馳走になることが多く、うちの家計が浮くくらいだ。
まぁ、そんなわけやから、今までのお年玉もけっこう溜まっていて、今回そこからちょっと抜き出してきたというわけや。
「恋人へのプレゼントですか?」
店員さんがニコニコとこれでもかという笑顔を張り付けて応対してくる。
廉「いや、あの、その…」
華奢な曲線がくるりと先端で丸まりハートの形をかたどったデザインのリング。
若いデザインだし、「母親へのプレゼント」と言うのも変だし、ハートのデザインで「妹へのプレゼント」と言うのも無理があるか?
廉「と、友達に…」
「…そうなんですね!きっとお喜びになりますよ!」
その笑顔の裏には、「へー、まだ友達ってことね。これから告白するんだぁ?頑張れ、少年!」と言う心の声が張り付いているようで、逆に恥ずかしくなった。
もう止められない
花凛サイド
紫耀くんちに上がるのは初めてだ。
廉くんと初めて出会った時にアパートの前まで送らされて、かなり古びたアパートっていうのは知ってた。
子供の時にはよく紫耀くんちにも遊びに行ったけど、ここまでオンボロではなかった。
今はその頃よりもずっとお金に苦労してるのかなと思わせる。
玄関のドアを開けると、紫耀くんはちょっとだけ乱暴に私のことを中に放り込んだ。
そして、すぐに紫耀くんも中に入り、その逞しい腕で後ろからガッチリとホールドされた。
「はぁ〜っ、やっと安全なところに戻ってきた!」
紫耀サイド
朝からあんなに警戒して花凛を守ってきたと言うのに、一瞬目を離しただけで男に連れていかれそうになってるから、マジで焦った。
もうこんな危ない所には置いておけない!一刻も早く帰りたい!
気づいたら無言で花凛の手を引っ張り、電車に乗せていた。
紫耀「朝からずーーっと2人っきりになりたかった…」
後ろから抱きしめていたのを、くるりと向きを変えさせ、そのまま思いっきり口づける。
「…っ⁉︎紫耀…くん…?怒っ…てたん…ない…の?」
花凛が話そうとするのを遮って、何度も口付けるから、途切れ途切れ吐息混じりの話し方がますます俺をそそる。
紫耀「なんで?怒ってないよ?」
「だって…ずっと…怖…顔…し…て…」
花凛が喋ろうとすると、また何度も口付けて意地悪する。
紫耀「靴、脱いで」
自分は足でスニーカーを脱ぎ捨て、太ももを這わせた指で華奢なストラップを外すと、コロリとミュールは転がり、そのままなだれ込むようにキスをしたまま狭い廊下を進み、部屋まで押し連れて行く。
本当は“時期が来るまで“もう少し我慢しなきゃって思ってたけど、もう無理…。
俺だけのものにしたくて、頭がおかしくなりそうだ…。
「え、ちょっ…、紫耀…く…っ?」
紫耀「もうダメだ」
「えっ⁉︎えっ⁉︎ちょっと待っ…っ⁉︎」
紫耀「無理。我慢できない」
そのまま後退りし続けベッドにドサっと倒れ込んだ花凛の上にまたがる。
紫耀「やっぱり怒ってる。今日、かわいすぎるんだもん。
なんでジンに開発されちゃってんの?
他の男の言いなりになって、こんなに可愛くなるとか、許せないんだけど。」
花凛サイド
違うちがーう!
ジンくんが私のことを理解してるから上手にプロデュースできたとかじゃなくて、
ただジンくんが、紫耀くんの好みをめっちゃ理解してるっていうだけなんだけどぉ〜…!
ジンくんプロデュース、効果ありまくりだよぉ〜っ‼︎
「ごめんなさい…でも私、今日、少しでも紫耀くんにかわいいって思ってもらいたくて…」
紫耀くんは呆れたような顔をして、「はぁ〜〜っ」と大きくため息をついた。
紫耀「可愛すぎて反則。ほんとにもう抑えられないから。責任とって」
体全体でのしかかるようにして、紫耀くんの重みとぬくもりが上から降ってきた。
そんなに見つめないで
この気持ちを抑えられそうにない
止まらない
君に触れた瞬間もう戻れない
夢みたいにどんどん君に落ちていく
King & Prince「MAGIC TOUCH」和訳
もう友達じゃいられない(廉サイド)
考えてみれば、ただの友達にハートのモチーフの指輪なんて送らんやろ。
いったいなんて言って渡す?そこまで考えんと、つい勢いに任せて買ってもーた…。
だって今日は花凛の誕生日やし、あんな風に「理想の誕生日プレゼント」なんて語られたら、しかもそれを「紫耀には叶えてもらうつもりはない」なんて知ったら、やらんわけにはいかんやろ。
「間違えて買ったからやる」とか?
それ、どんな状況やねん!
「これ、この前雑誌で欲しそうにしとったから」とか?
いや、だからって友達の立場でポンとプレゼントするような金額やないやろ?
つーか、俺とあいつって友達なん?
ま、顔を合わせれば一緒に帰るっちゅー仲やし、家にも遊びに行く仲やし、友達ってことでえーやんな。
友達やったら、誕生日プレゼントくらいあげるの普通やんな?
もしかしたら…
花凛が欲しがっていたこの指輪あげたら、あいつ、喜んで抱きついてきたりして…。
あいつ、そういうとこあるからな。リアクションでかめっていうか、人との距離近めっていうか。
「きゃー!廉くん!これ、欲しかったの!ありがとう!」なーんて、あるかも…?
ゴキブリ騒ぎで抱きついてきた時、「携帯見せろ」とソファーで上に乗っかってきた時、「廉くんがよかった!」と手を握ってきた時…。
あいつのぬくもりと柔らかさを思い出し、グフグフとこみ上げてくる笑みを押し殺す。
またあんな風に、触れて欲しい。
もう一度。一度でいいから。
君が頭から離れない
君の魅力に囚われていく
君は僕に魔法をかけたんだ
君の愛が欲しい
もう一度触れて
ただもう一度触れて…
焦らさないで
花凛サイド
「んっ…!?ちょっ…待っ…⁉︎」
硬い胸板をグイっと押し返すと、ぽてっと紫耀くんの唇が外れた。
紫耀「もぉ〜なぁに?今いいとこなのに」
紫耀くんがむくれたような顔をして、体を起こす。
「えっ、ちょっと、もしかして、紫耀くんと廉くんの部屋って、カーテンで区切られてるだけ!?」
狭い部屋の真ん中に心許ないカーテンがぶら下がっているのを指差す。
カーテンの向こうにもう一つのベッドがチラリと見えて、二人で一つの部屋を使っているのだと気づいた。
紫耀「あぁ、そう、うち部屋少ないから。でも今日は廉、出かけてるから大丈夫!母親も夜まで仕事だから大丈夫!」
紫耀くんは安心したような顔をして、再び大きな体が覆い被さってきた。
だ、大丈夫って何がぁ〜〜…っ!?
紫耀サイド
「やっ…ちょ…っ、紫耀くん…っ!!」
女の子の「嫌」も「ちょっと待って」も、顔を見れば本当に嫌がっているかどうか、だいたい判断できる。
まぁ、今まで求められてするばかりで、嫌がられたことなんて一度もないんだけど。
左手を花凛の右手に重ね、唇を重ねたままで、右手を花凛の胸元のボタンにかける。
花凛の左手は自由のはずなのに、抵抗してこない。
ゆっくり優しく、一つ、また二つとボタンを外していく。
今まで色んなタイプの服を脱がせてきたから、片手でボタンを外すことくらい造作もない。
「ん、んん〜っ!!」
花凛が、モゴモゴと小さな抵抗を見せた。
紫耀「もぉ、今度は何?いいとこなのに」
「あっ!あれは⁉︎そう!誕生日プレゼント!まだもらってない!何か用意してくれてるって言ってたじゃん!」
完全な時間稼ぎだなと理解するも、まぁ最初からノリノリで受け入れられるよりも、余計に可愛く感じる。
「早く」とか「もっと」と急かされる事はあっても、「待って」と焦らされた経験などほとんどないので、それはそれで興奮する。
紫耀「今欲しいの?」
「う、うん!欲しい!今!」
紫耀「この状況で?」
俺のものになって
花凛サイド
“この状況“とは、胸元のボタンを全部外され、ブラ丸出しで馬乗りになられている状態。
確かに素敵な誕生日プレゼントをもらうロマンチックなシチュエーションとは程遠い。
紫耀くんが上半身を伸ばして、ベッドの脇に投げ捨ててあったバッグをゴソゴソと漁る。
だけど、腰の上にまたがられてがっしりとホールドされた体はビクともしない。
ジンくんに服を選んでもらった時から、「紫耀をメロメロにしちゃおう!そしたらちょっとは進展するかもよ」と言われていたので、実はちょっと、ほんのちょっとだけ…こうなることを想像してたりもした。
でも、実際なってみたら、心の準備が追いつかない!
心臓止まる…‼︎
紫耀「これ、なーんだ?」
紫耀くんは、ニコニコしながら、小さな箱をパカリと開けた。
「えっ⁉︎それ⁉︎」
雑誌で見てずっと欲しかった、今日デパートで見た指輪。
紫耀「今日、買い物に誘ったのはね、花凛の欲しいものをリサーチするためだったんだよね。さっきこのお店の前でずいぶん長く立ち止まってたから」
「えっ、えっ!でも、欲しかったデザイン、なんでわかったの⁉︎指輪、他にもいろいろあったのに」
紫耀「花凛の視線の行方を見てこれかなって。今日はずーっと花凛のこと見てたから」
そんなに細かいところまで見ててくれたなんて、全然気づかなかった…。
「でも、それ、高かったよね…?」
紫耀「あんまお金の心配ばっかすんなよ。男は、そういうの傷つくんだぞ」
「えっ、ごめん…」
紫耀「バイト増やして、頑張って稼いだから、大丈夫」
「紫耀くん…」
紫耀「欲しい?」
コクコクと大きく頭を縦に振る。
紫耀「うーん、やっぱあげるのよそっかな〜?」
「えーっ⁉︎欲しい!欲しい欲しい!」
紫耀くんが指輪を高くあげるので、両手を伸ばしてバタバタするが届かない。
紫耀「うーん、いい眺め。征服してる気分になるなぁ」
紫耀くんは満足げな表情で、上から半裸の私を見下ろしニコニコとうなずく。
ブラ丸出しで馬乗りになられながら、指輪をせがんでる自分に我に返り、慌ててバッと胸元を隠した。
「これ買いに行っている間に、他の男に連れてかれそうになってたしな〜?」
あ、あの時…。
ランチの後、「トイレ行ってくる」っていなくなった時、買いに行ってくれてたんだ。
私がレ他のフロアに行くと、サプライズで指輪買ってくれてるのがバレちゃうと困るから、「ここで待ってて!」てしつこく言ってたんだ。
誕生日にサプライズで指輪をもらうのが夢って、紫耀くんには話してないのに、なんでわかっちゃうんだろう。
言わなくてもわかってくれる、そういうところが紫耀くんなんだよな。
紫耀「他の男に取られそうになって、マジで焦った」
突然紫耀くんが真面目な顔になる。
真顔になればなるほど、びっくりするほどその顔の美しさが際立つ。
紫耀「今日は、花凛が欲しがっているものを買ってあげたいって思ってたけど、そうじゃなくても、指輪はプレゼントするつもりだったんだよね」
「え?そうなの?なんで?」
紫耀「マーキング。花凛は俺のものだぞって、目に見える形で示したかったから。そして、俺も買っちゃいましたー!ペアリング!」
バッグの中からもう一つの箱を取り出し、紫耀くんは自分の指にも指輪をはめる。
ひゃ、ひゃぁーー、うれしすぎるし、恥ずかし過ぎる…!
ペアリングって、私側からもマーキングできちゃうじゃん…!
紫耀「俺のものになって?」
恥ずかしくてまっすぐ見られなくて、視線を落としたまま、ゆっくりとうなずく。
紫耀「どっちにつける?」
左手で胸元を押さえたまま、ゆっくり右手を差し出すと、紫耀くんはそっと薬指に指輪をはめてくれた。
紫耀「じゃぁ、いいってことだね!」
「え?」
紫耀「今、俺のものになるって言ったよね!」
え、ええっ⁉︎そうゆうこと⁉︎
「あ、あの、あの…っ、私、初めてだから…っ!」
必死に両手で胸元を覆う。
紫耀「わかってる。大丈夫、優しくするから」
そっと両手を持ち上げられベッドの上に開かされる。
両方の手のひらに紫耀くんの両手が重ねられ、指がキュッと絡む。
たくましくて重くて硬い紫耀君の体が、ゆっくりと優しく、包み込むように覆い被さる。
厚くて柔らかい唇が口から首、首から胸と移動していき、私は目を閉じ、そのまま魔法みたいに夢の中へと連れていかれた。
心奪われていく 僕のものになって
もう一度触れて ただもう一度触れて
強く抱きしめて 教えて
なぜこんなに夢中にさせるの?
焦らさないで 離さないで
ここで2人きり 最高の気分さ
まるで魔法のように
King & Prince「MAGIC TOUCH」和訳
もう友達のままじゃいられない(廉サイド)
とりあえず、なんて言って渡すかをじっくり作戦を練るため、ひとまず家に帰ってきた。
え…。
紫耀のスニーカーの隣に、こんなぼろいアパートの玄関には似合わないピカピカの華奢なミュールが転がっていた。
花凛が、来てる?
なんとなく声を出さずに、そろそろとリビングまで入る。
リビングに、いない…。
それでもう嫌な予感がしていたのに、やめときゃええのに部屋のほうにまた静かに忍び寄る。
部屋のドアは開いていた。
玄関に乱雑に転がっていた靴、床に投げ捨てられたカバン、開けっ放しの部屋のドア、閉まりきっていない仕切りのカーテン…家に帰ってきてからの勢いを感じさせる状況証拠。
紫耀「大丈夫?痛くない?」
囁くような紫耀の声が聞こえた。
この状況とそのセリフで、もう確信していたのに、本当にやめときゃええのに…。
そっとカーテンの隙間から部屋の中を覗く…。
子供の頃、学校から家に帰ったら、知らない男が母親の上にまたがっていた。
子供だったから、何が起こってるのかちゃんとはわからなかったけど、母親が父親ではない男と裸で抱き合っているのは、かなりやばいことだとすぐに理解でき、そっと家から出て、とにかく走った。
見てはならない光景を見てしまったと言う焦りで、そのシーンを頭から追い出そうと必死で頭を振りながら走った。
だけど振り払おうとすればするほど、その光景はくっきりと頭の中で大きく鮮明になっていった。
あの光景から少しでも遠くへ行きたくて、どこまでもどこまでも走った。
喉がカラカラに乾いていた。
両親が子供に“そういう行為“を見せてしまうのは、虐待に当たると聞いたことがある。
愛し合っていることが当然の両親ですらそうなのだから、不倫相手とのそういう行為を、子供が帰ってくるような時間にしていた母親は俺に虐待をしていたことになる。
もともと自分のことが最優先の女やった。快楽を前に、俺の事なんて頭の片隅にもなかったのやろう。
今でも、その時の光景を思い出すと吐きそうになる。
人生で、他人の“行為“を目撃してしまう偶然って、なかなかないと思う。
それなのに俺は、人生で2度も目撃してしまった。
大好きな女(ひと)が他の男と愛し合っている姿を。
こういうところが、顔もスタイルも頭の良さも何でも持って生まれたように見えるのに、“なぜか不憫“と言われる所以なんやろう。
この指輪が、友達としての誕生日プレゼントとして無理があるのなんてわかってた。
でもこの指輪をプレゼントすることで、もしかしたら友達以上になる可能性が一発逆転ワンチャンあるかも?なんてほんの少しだけ、期待してた。
「もう一度だけ触れてほしい」なんて嘘。
本当はもっと思いっきり抱きしめて、キスしたい。
何度も何度もしたい、そう願ってた。
「友達として」なんて嘘。
友達じゃない、男として愛して欲しかった。
一生、俺の隣にいて欲しいって思ってた。
抱き寄せて 唇に触れたくなる
君の愛が欲しい
もう友達のままじゃいられないから
そばにいて永遠に
まぶしいほどに輝く
君の特別な存在になりたいんだ
紫耀のでかい体で、全貌は見えなかった。
でも、するりと伸びる白くて華奢な足が紫耀の動きに合わせて揺れていた。
「紫耀くん…っ」
紫耀「ん?」
「紫耀くん…好き…好き…っ」
紫耀「うん、おれも」
紫耀の筋肉が隆起したでかい背中にしがみついた右手の薬指に、あいつが欲しがっていたあの雑誌の指輪が光っていた。
気付いたら、こっそりと家を出て俺は走っていた。
デパートからずっと大事に握り締めてきた指輪の箱をつぶれるほど強く握り締めて走った。
喉がカラカラになって、喉の奥に張り付いて痛い。
だけどもっと胸が痛い。
「廉はいい子ね」
「廉くんでよかった」
母親の声と花凛の声がこだまする。
俺が大好きな女(ひと)は、いつも俺をズタズタに傷つける。
優しくして、大好きにさせておいて、最後は突き放すんだ。
あぁ、そうか、大好きな女がたまたま俺を傷つけとるんとちゃう。
大好きやから、傷つくんや。
だから女なんて好きになるなって、ずっと思ってきたやろう!?
それなのになんで…
こんなに傷つけられた今でも、
まるで魔法にかけられたみたいに、
俺はあのぬくもりを忘れられない…。
もう一度触れて ただもう一度触れて
なぜこんなに夢中にさせるの?
君の魅力に囚われていく
君は僕に魔法をかけたんだ
君が僕の元を去っていくなら
それは悲劇だ
続きはこちら↓
「MAGIC TOUCH」の歌詞の
If you’re leaving me alone, that’s tragic
は、
「君なしじゃいられない」
という和訳になるらしいのですが、
- tragic=悲劇的
- leave me alone = 1人にする
と言う意味なので、直訳で
「もし君が去って僕を1人にするなら、それは悲劇」
という和訳とさせていただきました!
「MAGICTOUCH」の和訳はこちらです↓
また、こちらの小説で“サプライズプレゼント“について書きましたが、キンプリの中でサプライズが好きなメンバーは誰か?と言うのはこちらです↓
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