ストロベリーナイトシリーズの小説「ブルーマーダー」のネタバレあらすじを簡潔に書いていきたいと思います。
ネタバレは事件の内容編と菊田と姫川の関係の変化について分けて書いています。
感想や考察も書いています。
目次
今まで「ブルーマーダー」が映像化されていなかった理由
ブルーマーダーはこれまで映像化されたことがありませんでした。…が!二階堂ふみ×亀梨和也版の「ストロベリーナイトサーガ」で初の映像化されることが決定しました!
今まで映像化されていなかった理由として二つ考えられます。
理由1 時系列の問題
小説の時系列で言うと、「ブルーマーダー」は「インビジブルレイン」の1年後の話です。
竹内結子×西島秀俊版「ストロベリーナイト」は、映画「インビジブルレイン」で終わっていますので、(正確にはスペシャル短編ドラマのアフターインビジブルレインが時系列的には一番最後となりますが)その続編としてブルーマーダーは映画第2弾として作られても良かった気がします。
前回の制作チームとしては、当然それを視野に入れていたと思います。そのためにインビジブルレインで、姫川・牧田・菊田の三角関係の恋愛部分がメインとして描かれたとも考えられます。(ブルーマーダーでは菊田と姫川の恋愛部分に大きな進展がありましたから!)
しかし続編というのは、狙っていても何かの事情で作れなくなることって結構テレビ業界、映画業界ではあるようですね。いかにも「これ、続編狙ったよね?」という終わり方で、その後何の音沙汰もなしということで結構ありますよね。
いつかはと思って狙っていたけれど、なかなか機会がなく出演者たちが年齢を重ねてしまったので、年齢を若くしたキャストで一新してリメイク版を作る話になったのかもしれません。
竹内版「ストロベリーナイト」はドラマも映画もヒットしていたので、コケたから続編作れなくなった、ということはないと思いますが、出演者たちのスケジュールの都合とかもあるかもしれませんね。小出恵介さんも出演していましたしね。
理由2 映像で描写するのが難しい
私はまず小説を読んで「これは映像化は無理だろうな」と感じました。それは犯人の犯行の手口が映像で見せることが不可能だからです。
だから「ストロベリーナイトサーガ」で映像化すると聞いて、一体どうやって!?とかなり興味があります。まあ手元だけ映さないとか、遺体は人形を使うとか、色々やり方はありますけどね。
誉田哲也さんのストロベリーナイトシリーズはかなり残虐なシーンが多いことで有名です。最初の作品「ストロベリーナイト」も映像化できないほどのグロいシーンは小説ではたくさん出てくるのですが、ドラマではイラストっぽく描いたりしてまあまあ緩和されていましたもんね。
それから犯人の使っている凶器について、なかなかどんなものだか最後までわからないところが読書の興味を惹きつけるポイントとなっていると思います。
だからドラマでそれを最初に映しちゃったら台無し!という感じがするのですが、こちらも凶器部分は映さずに謎を残して描いていくのでしょうかね。
「ストロベリーナイトサーガ」登場人物キャスト
ブルーマーダーは初の映像化なので、竹内結子版とのイメージの違いなどもなく、すんなり見られるかと思います!
木野一政:要潤
原作での木野は
- 身長190cm以上の大男。めちゃくちゃガタイがいい。
- 一文字に上がった眉や細い目が、直線で絵に書きやすいシンプルな顔。
- 淡々と残虐な犯行を繰り返すが、喋り方はソフト。
- 仲間のオヤジを「おやっさん」と呼ぶ。
- 空手が得意。
私のイメージでは要潤さんのようなくっきり系の色男ではなかったですね~。背が高いのはイメージに合ってるけど。
でも、仮面つけた姿はけっこう似てるかも。目が細く見える。
インビジブルレインの牧田で出てきちゃったから無理なんだけど、小説を読んでる時は完全に大沢たかおさんをイメージしながら読んでた。
薄顔で長身で、口調はソフトで、でもすごい淡々と冷徹なことしそう。
おやっさん:相島一之
- シャブ中でだらしなくて、借金取りに追われていたところを木野に助けられ仲間に入れられる。
- 気弱で嫌と言えず殺人の遺体処理を手伝うことになる。
- お人好し。
相島さんは犯人役とかずる賢い役とか嫌味なお偉いさんの役とかのイメージも強いので、もうちょっと太っていてだらしない”ザ冴えない親父”みたいな感じの人の方が良かったかな。
気弱だけど人はいいので、蛭子さんなんてイメージだな。でもちょっとのんきすぎるかな。
岩淵時生:
- もともといじめられっ子だった。
岩淵に対しては、あんまりイメージ膨らめて読んでなかった…。なので、この俳優さんでOKです。
野崎梓(大塚千弘)
- こだぬきのような可愛らしい顔。
- 愛嬌があって職場の男性陣から人気。
- 身長が155cmくらいの小柄。
- 家庭的で世話焼き甘え上手。
- しかし実は肉食(と私が勝手に思っている)↓。
【考察】菊田を手のひらで転がす結婚相手・梓ってどんな女?菊田が姫川を諦めた理由は牧田じゃない!
梓を誰がやるのかがとっても気になってた~~!この子かぁ~。確かに可愛らしい素朴な感じはイメージ通りかな。
でも、この子はちょっと純粋すぎるような。
もうちょっと梓はしたたかなイメージあるんだけどなぁ。藤本泉さんとか、すごくイメージかも!
下井:陰山泰
- 昔はヤクザといい関係を保ちながらやっていた昔かたぎの刑事。
こちらもあんまりイメージはなかったので、誰でもいいんですが、この俳優さんはちょっとダンディすぎるかなぁ~?
ヤクザと渡り歩いていたんだから、もうちょっとデカくてゴツい感じのおじさんでもよかたかな。
「ブルーマーダー」あらすじが簡潔にわかるパパっとネタバレ!事件編
では、本題の「ブルーマーダー」のあらすじネタバレを書いていきます。なるべく簡潔にまとめます。
この話はインビジブルレインの1年後の話。姫川班が解散し、姫川玲子が池袋署に異動になってからの話です。
怪物殺人鬼「ブルーマーダー」
姫川が担当しているのは池袋で起こった撲殺事件。暴力団組長の河村丈治が体中の骨を折られボコボコに殴られて殺された事件だ。凶器は不明。
犯人は「ブルーマーダー」だと呼ばれる怪物で、20人以上もの連続殺人を行っていることで池袋の夜の街で知らない者はいない。ブルーマーダーが殺すのは暴力団や半グレ、中国人マフィアなど悪人ばかり。 「次は自分がブルーマーダーに狙われる…!」と暴力団員や組長ですら震え上がり、最近ではめっきり暴力団組織の勢力は弱体化していた。
下井と木野一政
この物語の第2の主人公とも言えるのが下井という刑事である。下井は古いタイプの刑事で、昔は暴力団と適度な距離を保ちながら捜査を行っていたタイプ。例えば「今回のシャブの取引を見逃してやるから、殺人事件の犯人の情報を教えろ」とかそういう取引。
しかし時代は変わって、組対設置、暴対法ができたりなどで、刑事と暴力団が直接やり取りをするようなことは許されなくなった。(今でもガンテツはやってますけどね)
その時代が変わるちょっと前(現在からは7年前)、下井は木野という男をS(スパイ)として暴力団組織に潜入させていた。木野は元警察官で、とても正義感の強い男だった。
「組織の弱体化のために情報が欲しい。決してその情報を自分の私腹を肥やすためには使わない」という下井の正義感を信じ、木野はSになることを決意した。
しかしある時なぜか木野がスパイだということが暴力団側にばれてしまい、木野はリンチにかけられる。両手のひらにコンクリート釘を打ちこまれ、コンクリートの壁に磔にされると言う恐ろしすぎるリンチ…( ゚Д゚;
これは西島秀俊さんと香川照之さんのダブルフェイスを思い出しますね。”警察の犬”だとばれた人間はリンチにかけられて殺される。そんな恐ろしい世界でスパイをやっていたのですから、自分を雇っている上司に相当な信頼がないとやれませんよね。
ちなみに西島さんの上司の角野卓造さんは、「誰がスパイなのかを吐け」というリンチに屈せず、そのまま拷問され続け殺されたんですよね。
そのリンチを主導したのが今回の被害者、河村丈治。
木野は間一髪逃げ出し、それから行方不明になっていた。
犯人は木野一政、その動機は?
ブルーマーダーの正体は木野だった。河村丈治を殺したのはもちろん自分をリンチにかけたことへの復讐。それから自分がSだということをバラしたのは誰なのかを知るため。(河村は本当に誰からの情報なのかを知らなかったため、木野は他にも組の人間を次々とリンチにかけ殺した。それでも自分を売ったのが誰なのかがわからなかった)
そしてもう一つ、木野が連続殺人を犯す理由として、
「悪いやつらを抑制するためには、”そんなことをやっていたら殺されるかもしれない”と言う恐怖を与えるしか方法はない」
という考えを持っていたから。
警察が悪人を捕まえて刑務所に入れても、悪人は反省などしない。出所してからまたもっと知恵をつけて悪いことをする。だから悪人は警察のことなんて何も怖がってはいないし、捕まりたくないという理由で悪事を辞めようとも思わない。
だけどブルーマーダーの出現により、確実に組織は弱体化した。
その証拠に悪人から奪った札束は燃やしていた。自分の私服を肥やすために殺人を行っていたわけではないのだ。
木野は自分が癌に侵されていて余命が少ないことを知っていた。だからこそ自分の残された時間で、自分のできるやり方で、自分の正義を全うしようとしていたのだ。
木野を裏切ったのは安東
木野がスパイであることを暴力団にタレコミしたのは、下井の上司の平間のそのまた上の上司の安東警視正だった。(その当時は警視)
安東は時代の移り変わりに伴い、下井も木野も切り捨てたのだ。
時代が変わって潜入捜査などが認められなくなったのは理解できるとして、それならば「潜入捜査を打ち切る」と下命して木野を引き上げれば良かったのではないかと下井は安東に反論したが、下井はもともと古いタイプの人間だったので、「その命令を素直に受け入れるかどうかは分からなかったので、自分の独断で木野を切った」というのが安東の答え。
組織改変が行われる前であっても、潜入捜査というやり方はグレーであって、それが組織改変が行われた後は完全に黒になってしまう。
その時にグレーの捜査を上司として認めていたという事実が残ってしまえば、安東の出世に響く可能性がある。
- 潜入捜査を打ち切るという命令を下す。→潜入捜査自体はあった。→自分の責任になるかも…?
- 潜入捜査をしていた証拠となる木野ごと消す→もともと潜入捜査なんてものはなかったことになる。
木野を切ったほうが、より自分の保身になると安東は考えたのだと思う。
ヤクザに木野を売ったのは安東だったが、平間は平間で木野からもらった情報を全部使って自分の実績としていた。ガサをバンバン上げて、新体制での自分の評価が上がるように木野の情報を使っていたのだ。
それは木野が一番嫌っていたこと。下井は自分の利益のために情報を使うことは絶対にしないと木野に約束していたのに、知らないところで木野はいいように使われていたということ。
得た情報全部使っていたら、当然スパイがいることがバレて木野の身に危険が及ぶのに、そんなこと平間は全然考えなかった。木野は下井以外の警察にはあっちもこっちも裏切られていたのだ。
菊田が人質に…
千住署に異動になった菊田は、護送中に逃亡した岩渕時生という犯人の捜索を行っていた。姫川の事件とは全く別の捜査であったが、最後にこれが繋がってくる。
岩渕は逃亡の途中で偶然木野と知り合い、仲間になる。ブルーマーダーの出口を弟子のように教わり、岩渕もまた殴打事件を何件も起こしていた。
菊田が岩渕のアジトを見つけ出し、職質をかけようとして殴打され人質に取られる。(もう一人永瀬と言う同僚も一緒に)
それを知った姫川は、無我夢中で拳銃一丁だけを隠し持ち、岩渕のアジトに入り込み説得を試みる。姫川の作戦は見事成功し、岩渕を逮捕。
岩渕と木野の決定的な違いは、岩渕は殴打事件を起こしたものの一人も殺してはいなかったこと。
岩渕はもともと凶悪犯ではなかった。仲間内のパシリのような存在で、無理やり悪いことをさせられていただけで、普通に服役したら大した罪にもならなかったはずなのに、逃亡したことで指名手配犯となってしまった。
仲間からはひどいいじめにあっており、虐待とも言える扱いを受けていた。そんな岩渕だから絶対的な力を持った木野に憧れるのに時間はかからず弟子入りしたが、最後の最後でやっぱり肝が座っておらず、第二のブルーマーダーにはなりきれなかった。
「ブルーマーダー」あらすじが簡潔にわかるパパっとネタバレ!菊田の結婚編
姫川玲子シリーズは、凄惨な事件のパートと姫川玲子と菊田和男の恋愛パートの二つの側面を楽しむ小説です。
こちらでは、菊田と姫川の恋愛パートに大きく動きのあった大事件!”菊田の結婚”についてのネタバレです。
菊田の結婚
ブルーマーダーの一番衝撃展開といえばまあこれでしょう。
菊田と姫川の恋愛を応援していた自分としてはかなりショック!と言うか姫川玲子シリーズ好きだった人、みんなショックだよね…?
そもそもブルーマーダーを読もうとしたのも、ネットでたまたま「菊田が結婚した」というネタバレを読んでしまったことがきっかけだし…。
読んでみたら、事件の内容は菊田が結婚していることとは全く関係がない!!
え~!じゃあなんで結婚させちゃったのよ~~!?
菊田はインビジブルレイン後、所轄に異動になって、そこにいた同僚の野崎梓という警察官と結婚しました。
姫川班のメンバーにも報告はしていましたが、姫川だけには報告する事ができていませんでした。
捜査中に偶然大塚の殉職場所で再会した姫川と菊田。その時に菊田の左指の薬指指輪に姫川が気づき菊田の結婚を知ることとなりました。
その時の姫川の動揺の仕方と言ったら…!その後の会議もすっ飛んじゃって、ずっと
「どんな相手なんだろう?お嬢様系かな?色っぽい系かな?仕事は何をしてる人だろう?」
と菊田がどんな人と結婚したのかが気になって気になって仕方がありません!
そんなに好きだったなら何で今までその気持ちを伝えなかったんだよ。なんで牧田に一瞬でも心奪われたりしたんだよ…。
姫川の今の気持ちを知ったら菊田はどう感じるんだろう?
梓がどんなタイプかって、一言で言ったら「警察官である以外は姫川とは全く真逆のタイプ」って感じですね。
でも、菊田と梓はすごくうまくいっていて、お互いに不満はないし、離婚することはまずなさそうです。
姫川玲子が過去の事件のことを菊田に打ち明ける
さらに驚いたのは、なんとブルーマーダーの中で、姫川が今までひた隠しにしてきた過去の事件について、菊田に打ち明けるシーンがあります!
犯人の木野は逮捕されますが、木野に仕込まれた弟子の岩渕時生が菊田ともう一人の警察官を人質に取って立てこもるシーンがラストにあるのです。大塚を殉職させてしまった傷がずっと癒えない姫川にとって、これ以上大切な仲間を失うことは絶対にしたくない。しかも今殺されそうになっているのは、大切な仲間の中でも一番大切な人、菊田なのである!
姫川は菊田を助けるため、一人で犯人の立てこもる建物の中に入ります。そこで犯人の岩渕を説得するために、自分の過去を話します。
しかも話し始めの時に
「一生好きな人に知られたりしないように隠して生きていくつもりだったけど、でもその人が殺されるかもしれないんだったら正直に話す」
と言っています。
「過去を知られたくなかった好きな人」=「今殺されそうになっているのがその人」=菊田が好きな人
と告白しているんですよ!
しかも心の声では
「ずっとずっと好きだった人。でも裏切ってしまった人」
とまで言ってます。
でもこのシーンはちょっとね…菊田と姫川の恋愛を応援していた読者としては「お~!ついに言ったか!」とかなり衝撃シーンだったのですが、冷静に考えると、「誰かを殺したいほど憎んでいる気持ちはわかるよ」っていう趣旨の説得をしていると言う筋書きは分かるんだけど、犯人からしたら「何、関係ねーことベラベラ喋ってんだ!俺をダシにイチャコラしてんじゃねーぞ!」ってよく怒り出さずに岩渕が静かに聞いてたなと思いました(^^;
これが女性だったらね、「そんな辛いことがあったんだ…」と共感してくれるかもしれないけど、男の犯罪者にそんなこと言っても、それで同情や共感をしてこれ以上の罪を躊躇するかなぁと個人的には疑問に思いました。
でもこの姫川の説得によって、岩渕はそれ以上銃を撃たなかったので、姫川の言葉が心に届いたということなのでしょうね。
姫川にとっては、岩淵から菊田を助けるためにやむを得ずって感じだったのかもしれないけど、やっとやっと、姫川がなぜあんなに強くあろうと一人で頑張ってしまうのかという理由が菊田に伝わったわけなんです。
今泉も姫川の過去を知っていた!?
ブルーマーダーの中で菊田が結婚してもそれを姫川にはまだ言えないでいる=菊田は姫川にまだちょっと未練があることを察した元姫川と菊田の上司のイマハルこと今泉は、
「菊田、あいつはな…」
と何か言いかけて、やめています。
多分この時に今泉は姫川の過去について菊田に話そうと思ったんじゃないでしょうか?
姫川が犯人の説得のために自分の過去を話すシーンでは、
「警察の上層部の人は自分の過去について知っているはずだけど、何も言わずに採用してくれた」
と言っています。
やはり刑事事件に巻き込まれた過去を持つ人間なら、何かしらの資料で警察の採用に関わる人間や上層部の人間たちはそのことを把握しているのでしょう。ガンテツもきっと過去の資料を調べて姫川の過去を知ったのでしょうね。
だから今泉くらいの役職の人間だったら、姫川の過去については知っていたということですね。
周りの人間から見ていても姫川と菊田の関係は絶対に両思いだったのに、なかなかくっつかない。今泉は姫川が菊田に踏み出せない理由を知っているからこそ、何も知らない菊田が姫川を諦めてしまったことに納得できない想いを抱いていたのでしょう。
でも今さらそれを話したとしても菊田はすでに結婚してしまっているし、何より人のそんな重大な過去を許可なく話すことは許されないと思って思いとどまったのでしょうね。
小説「ブルーマーダー」の感想とポイント
謎の凶器”スタンプ”とありえない殺し方
まずこの作品の一番のオススメポイントは、読者の想像力を掻き立てられるという小説ならではの面白みがある!ということ。
凶器について、あえてどんなものなのかが分からないように描写していたこと。
”手に持ってスタンプのように振り下ろして、一瞬にして骨を砕くような凶器。それでいてポケットに入ってしまうくらいの小ささで、一瞬にして取り付けられる身軽さ”。
そして殺された人間は骨を細かく砕かれているので、自由自在に体を折りたたむことができてバックの中にくるくると丸めて詰め込むことができるという想像もできないような殺害方法と遺体の状態。
この残虐で異常な殺害方法で、犯人のブルーマーダーは何十人もの人間を次々に殺していきます。
本当に人間って骨さえ砕けば餅みたいにとろとろにとろけて形をなさないようになるのかな!?想像するだけで骨が痛くなってきますが、怖いもの見たさでどんどん先が読みたくなってしまう小説です。
殺人ミステリー小説は、「犯人は誰だろう?」とか「動機は何だろう?」というところが謎になっているのが一般的だし、たまに「どんな凶器で殺しているのか?」というのが謎になっているような作品もあるけれど、それは刑事側からの一人称でずっと描かれているような場合。
この小説のように、犯人側からの描写があるにもかかわらず、その凶器がイメージできないというのは珍しいと思います。
誉田哲也さんの小説の特徴として、視点が何度も切り替わるというところが面白いんですよね。姫川の視点だったり犯人の視点だったり、菊田の視点だったり。それが最終的に繋がって、「そういうことだったのか!」と理解できた時にかなりゾクゾクします。
ブルーマーダー木野の犯行の動機
実はこの小説は犯人が誰かという点については、結構早いうちにわかります。
- 犯人側からの描写で、ブルーマーダーという連続殺人犯が自分を「マサ」と名乗っていたこと。
- 刑事の下井からの視点で、自分が7年前にS(スパイ)として暴力団に送り込んでいた男がある頃から行方不明になってずっと心配していた事。その男の名前が木野一政だということ。
私はこの木野一政という名前がでてきた時にピンときましたが、もうちょっと早い段階で「もしや…?」と思った読者はいるかもしれませんね。
だから、犯人は誰だろうと推理を楽しむというよりは、あんなに正義感の強かった元警察官の木野が、なぜこんな冷徹な殺人鬼へと変貌してしまったのだろう??という動機の部分への興味のほうが強く引き付けられます。
上のネタバレともちょっとかぶりますが、ここ重要なところなのでもう一度言います!
間一髪逃げた木野は、その激しい恨みから自分をリンチにかけた奴らへの復讐のため、自分がスパイだとタレこんだ裏切り者を見つけるため、ブルーマーダーという殺人鬼になったのです。
しかし木野はただ復讐を成し遂げるためだけに殺人を犯していたわけではありませんでした。
木野は犯罪者となった今でも、”暴力団組織の壊滅”という下井と一緒に掲げた約束を成し遂げようとしていたのです。
暴力団にとって警察に捕まることなんて何も怖くない。犯罪者は捕まって改心などしない。本当にそれを止めたければ、殺すしかない。悪いことをやったら死刑になる。その想像力でしか犯罪を止めることはできない。
そんな思いから木野は連続殺人を繰り返していたのです。
そして本当にブルーマーダーの噂が広まってから、暴力団組織はどんどん弱体化していたので、木野の論理は一理あるということは否めません。
これは私の考察と解釈ですが、木野の動機として、当然「自分の掲げる正義をまっとうする」というのはあったと思います。
じゃあこの作品が本当は犯人がいい人で感情移入しちゃう切ない話というった読後感かというと、ちょっとそれとは違います。
やはり木野にはひとりよがりな部分があって、、 自分を裏切った憎き警察がはできなかったことを、この俺がたった一人で成し遂げてやったんだぜ!という自己満足もあったと思う。
もともと”正義感が強すぎて短絡的で我慢が効かない危険なタイプ”と下井も感じていたので。
でも、木野の「悪人を止めたいなら殺すしかない。それが抑止力になる」という考え方にはやはり納得する部分もあって。事件が起きてから捜査をする、悪人が新しい悪事の方法を考えるたびに、それを追いかけることしかできない後手後手の警察という組織の限界。ブルーマーダーは外からじゃ止められない悪を、内側からの壊滅に成功したというのは間違いないと思います。
でもだからって殺人を肯定するわけにはいかず、「あなたが殺した人にも家族はいたのよ」と姫川が説得すると、「そんなに家族が大事なら最初から殺されるような悪いことをしなければいいんだ!」と跳ね返す。あっぱれ!ぐうの音も出ない。
「悪いことをしたら死んで償え。それが怖いなら最初から悪いことをするな!」
本当に短絡的な考えではあるけれど、正義の根幹にあるものってこれくらい単純な理論でいいんじゃないかなって思いました。死刑廃止とか加害者の人権とか、そんなの後からぐちゃぐちゃ議論するくらいだったら、最初から悪いことをしなければいい!って。法律ってこれくらい単純明快でいいんじゃないかなぁ~なんて考えさせられる小説でした。