キンプリ妄想歌詞小説「Doll」2話〜運命の人〜

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運命の人とは、何度離れ離れになっても、きっと互いに引き寄せられて、何度でも巡り合う。
こんな風にもう一度出会ったあなたは、運命の人ですか…?

こちらはキンプリの曲「Doll」の歌詞からインスパイアされた小説です。

キンプリ歌詞小説Doll
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すり抜けていった運命の再会

「花凛…」

そのかすれた声は懐かしくて切なくて愛おしかった。

紫耀「なんで、ここに…」

「あ!ヨーヨーすくいー!やりたーい!」

咲人が駆け出す。

花凛「あ、ちょっ…、咲人、待って!迷子になるよ!」

紫耀くんのことが気になりつつも、慌てて咲人を追いかける。
紫耀くんとの再会は衝撃的で、今すぐ色んなことを話したいたけど、とりあえず咲人から目を離すわけにはいかない。

咲人をつかまえてから、またあの出店に戻ればいい。

毎日のようにテレビで紫耀くんの顔を見るのに、全く会えなくなった日々。
紫耀くんが芸能界から消えて、全く行方が分からなくなったこの数年間。

会いたくても会えなかった。

でも、やっと居場所がわかった。
あそこに戻れば、紫耀くんがいる。

なんだかすごく安堵していた。

それなのに…


花凛「あ…れ?あのー、さっきここでりんご飴売ってた人は?」
「はい?」

お店の人が顔にハテナを浮かべる。

もう一度1歩下がって、店構えを確認する。
神社の入口を入って最初の出店だったから、間違えるはずがない。
さっきのりんご飴の出店。

でも、そこに紫耀くんの姿はなかった。
全然違う人が店に立っていた。

花凛「え?さっき、いましたよね?ここに。あの…すっごいイケメンの…」
お店の人「すっごいイケメン?ここにいるでしょ~!」

人の良さそうなおじさんではあるものの、決してイケメンではないお店の人が冗談めかして言う。

え?なんで?
見間違い?人違い?ドッペルゲンガー?

いやいやいや!だってさっき、確かに「花凛」って言ったよね!?
人違いなんかじゃない。

え?じゃあ幻?
約束の7月7日。夏祭り、花火、近所の小さな神社。紫耀くんを思い出すキーワードが揃いすぎていて、もし紫耀くんと再会したら…なんて考えちゃってたから、幻想でも見たんだろうか?幻聴まで!?

まさかそんな…。幻にしてはくっきりし過ぎていたし、あの声も…。忘れるわけない。聞き間違えるわけない。

絶対、本物だった。
それなのにどうして。いなくなってしまった。

もう一度、出店を離れてキョロキョロと周りを見渡すが、紫耀くんの姿はなかった。

どうして…。

いつも、そうだった。
やっと手が届いたと思ったら、ふっと消えてしまうの。
小学校の時に相合傘をした時も、初めてキスして毎年ここの花火を見ようと約束した時も、誕生日を一緒に過ごして初めて結ばれた日も、大好きな人をすごく近くに感じて、やっと願っていた幸せが手に入ったと思ったのに、その幸せはするりとこの手の中から逃げていってしまう。

何年も待ち続けた約束の神社で一度も会えなかったのに、地元を離れ、これでもう彼を待つことすらできなくなるんだな、なんて改めて彼との決別を心に誓った日に、こんなに遠く離れた全然関係ない町で再会した。
そしてその日は「毎年必ず一緒に花火を見よう」と約束した7月7日だった。

彼との繋がりを完全に失ったと思ったところからの衝撃の再会は、余計に”その言葉”を連想させた。

”まるで運命の再会みたい…”

運命の人とは、何度離れ離れになっても、知らず知らずのうちに引き寄せられて、もう一度出会えるものなんだろうって思ってた。
さっき紫耀くんと向き合った時が、そんな劇的な瞬間に思えた。

でも、そんなふわふわした幻想は、パチンと弾けるシャボン玉みたいに、一瞬で消え去った。


そんな奇跡みたいな瞬間だったのなら、「後で戻ってくればいい」なんて言っていないで、その手をちゃんと捕まえておかなきゃいけなかったんだ。またするりとこの手からすり抜けていかないように。

パーン…!

「ママー!花火!」

夜空には鮮やかな花火が上がった。

小さな神社をうろうろとしていた私の手を、キュっと引っ張る小さな手。

そうだ、私がしっかりと捕まえておかなきゃいけないのは、紫耀くんの手じゃない。

あの時、紫耀くんを見失うことになったとしても、それでも私には、咲人を追いかけないという選択肢はなかった。

それで戻った時に紫耀くんがいなくなっていたのなら、それは紫耀くんが運命の人じゃなかったという証拠だ。

運命の人は、自然に互いに引き寄せられるもの。何度でも再会してしまうもの。

だから、せっかく再会したのにまたすれ違った私たちは、運命の二人じゃなかった。

だたそれだけのこと…。

次々と打ち上がる花火を咲人と並んで見上げながら、その小さな手をギュッと握りしめる。

ねぇ神様。

私はちゃんとそう思って納得していたのに、どうしてこんな意地悪な”運命のイタズラ”をするの…?

二度目の再会

運命の再会がするりとこの手からすり抜けていったと思ったら、二度目の再会はあっという間にやってきた…。

うわぁ~、なんか緊張する。
やっぱり周りは若い子でなんだか恥ずかしい。
えっと、手続きは受付…と。

花凛「あの、今日から入校したんですけど…」

受付の人「あ、このカードの番号が教習で乗る車の番号ですからね。外に出て車のところでお待ちください。担当教官が来ますから」

受付で説明を受けてカードを取り、外に出る。

今日から、自動車学校に通うことになった。こんな年で今さら恥ずかしいのだけど、実は私は車の免許を取っていない。

前に住んでいたところも車が必須な田舎だったけど、廉は私が出かける時にはいつも送り迎えしてくれたし、ずっとお兄ちゃんと海人と同居していたので、廉がいない時も誰かしら車を出してくれる人がいたので、ついつい取りそびれてしまったのだ。

でも、新潟で暮らすなら車は絶対。しばらくは廉と離れ離れ。
親にはまぁ頼れるけど、咲人に何かあった時にはやっぱり自分が動けないと困る。

ということで、29歳にもなって自動車学校に通うことになったのだ。

とりあえず手続きを終えて、最初の教習の車の前に立ち、担当の教官の先生を待つ。

「こんにちはぁ~、担当の平野で…す」

「え…!?」

二人、同時に声を上げた。

再会、再び

花凛「えっ!えっ!?本物!?今度こそ本物!?また幻覚!?」

紫耀「うわっ!な、なんだなんだ!?」

紫耀くんの体のいたるところをポンポンと両手で叩いて確認する。

花凛「めっちゃ本物…!!」

紫耀「なんだよ、人をお化けみたいに」

花凛「だって!昨日、消えたじゃん!そうだよ、お化けみたいに!いたでしょ!?昨日!お祭りの屋台に!」

紫耀「あぁ…あれは知り合いの店を伝ってただけなんだよね。ちょっとだけ店番頼まれてたの」

花凛「でも!私に気付いたでしょ!?それでなんで何も言わずにいなくなっちゃうの!?久しぶりに会ったのに!」

紫耀「いや~…」

キーンコーンカーンコーン。

紫耀「あ!ムダ話はここまで!教習始めるよ!早く早く!」

紫耀くんに促されて車のところに行く。最初だから、まだすぐに運転ってわけじゃない。

「車に乗り込む前に、車の下とか後ろとかにネコとかいないかチェックしてぇ~」なんて説明しながら、紫耀くんは車の横に四つん這いになって車の下を覗き込んでいる。

ムダ話…だって。8年ぶりに再会したんだよ?すっごい大事件なのに。

紫耀くんにとってはそんなもんなの?

話したいこといっぱいあるのに。

わー久しぶりー!とか、今までどうしてたのー!?とか、元気だったー!?とか…

なんで私たちの前から姿を消しちゃったの?なんで今までずっと連絡くれなかったの?

とか…。

今度は車に乗り込み、これがルームミラーで、これがサイドミラーで、なんて説明を紫耀くんはしている。免許は持ってなくても、助手席歴はそれなりに長いから、そんなことは知ってる。

私が今聞きたいのは、そんな車の基本的な知識じゃないよ。

それにしても、相変わらず綺麗な顔…。説明を聞いているふりをして、紫耀くんの横顔を盗み見る。

ここの顎のラインが好きなんだよなぁ。めちゃめちゃ小顔で、キュッと締まった輪郭。高校生の頃、一緒に電車に乗る時に、この角度で見上げるのが好きだった。

紫耀「それでここが…」

紫耀くんがエンジンボタンを説明するためにこちらに手を伸ばす。

近…。

私の心の声が聞こえたみたいに、紫耀くんが振り向いて至近距離でバッチリと目が合った。

ドクンと心臓が高鳴る。

そういえば車の中で2人きりじゃん。なんか意識したらすごい緊張してきた…!

紫耀「よし、じゃあ、早速、後ろ確認して、エンジンかけて、アクセル踏んでみよう!」

花凛「ははは、はい…!右よーし、左よーし、後よーし!」

ブォォォオン…!

花凛「わぁっ…!」

紫耀「ちょ…っ!ニュートラルに入ってるね。落ち着いて」

派手なエンジン音を響かせた割に車は動かなかったけど、なんだかよくわからなくてテンパってハンドルをグリグリ動かす私の手を、紫耀くんの手が制した。

重なった手。久しぶりに感じた紫耀くんの手の温もり。

見つめ合うその時間、一瞬時が止まったかと思った…。

戸惑いがちに恥じらい合ってしまうと…

二人の手が重なって息をのむ。このまま見つめ合っていたら、自然と体が引き寄せられてしまいそう…。
すると、紫耀くんの指が少し動いてゆっくりと私の手の甲をなでた。

そして、その指は、私の薬指の上で動きを止めた。

ハッとして、思わず紫耀くんの手を振り払うようにして、左手を下に隠す。

紫耀「あ、そだそだ!廉、元気?」

一瞬、変な間があって、手を引っ込めた紫耀くんは、何事もなかったような明るい調子で聞いた。

花凛「あ、うん!元気元気!めちゃくちゃ元気!」

紫耀「そっか、それならよかった」

花凛「うん、だね!紫耀くんの元気そうでよかったね!」

なんだか白々しすぎて、テンションが変だ。そして、会話が続かない…。

こんな風に意識してしまうと、急にこの二人の空間が緊迫したものになってきた。沈黙が気になって、余計に胸がバクバクしてくる。緊張して紫耀くんの方、向けない。

紫耀「廉とは、どう?」

花凛「ど、どう…!?」

紫耀「あぁ…えっと、仲良くやってる?」

花凛「う、うん、もちろんもちろん!」

紫耀「あいつ、家事とか手伝ってくれんの?料理とか」

花凛「あぁ、実は結婚後も、あのままお兄ちゃんと海人と一緒にあの家に住んでたからさ、料理はほとんど海人まかせになっちゃって…」

紫耀「なんだよあいつ、約束守ってねーじゃんな」

花凛「約束?」

紫耀「あ、いや、なんでも」

花凛「?」

紫耀「でも、あの家でみんなで暮らしてたなんて、楽しそうだな。なんでこっちに?」

花凛「私の両親がこっちに住んでて、それで」

紫耀「へぇ!そうなんだ?」

花凛「それで、息子が…喘息でね、空気がきれいなところで暮らした方がいいってことになって」

紫耀「あぁ、昨日お祭りで一緒にいた」

花凛「うん」

紫耀「名前なんての?」

花凛「咲人」

紫耀「へぇ、何歳?」

花凛「7歳。小学校1年生だよ」

紫耀「へぇ…すっげぇ可愛かったな」

花凛「うん、ありがと」

私たちは、何気ない近況報告をしているようで、やっぱりどこか会話はぎこちなかった。
廉の名前や、咲人のことも、口にするときには、一瞬何か後ろめたいような気持ちになる。咲人は紫耀くんの甥っ子なんだから、「今度、会おうね」みたいな会話の流れになるのが普通なのに、その言葉はどちらからも出ない。
結婚生活のこととかも、聞かれるのは変な感じ。何でもないことのように答えているつもりで、お兄ちゃんや海人の名前を出して、何か緩和させているように思える。

私がふったわけじゃないんだから、うしろめたさなんて感じる必要はないのに。

花凛「紫耀くんこそ、なんで新潟に?」

紫耀「ん~?まぁ、特に意味はなかったけど、あの頃、あまりに顔が知れ渡ってたから、とりあえず東京から逃げようと…」

花凛「東京から逃げても日本全国に知れ渡ってたじゃん」

当時、紫耀くんは超人気アイドルだった。それが突然芸能界を辞めて消息不明になった。

紫耀「それでも田舎なら若い子少ないし、バレにくいかなーって。で、最初は車の整備工場で雇ってもらって働いてたの。人との触れ合いもないし。

花凛「うんうん、なるほど」

紫耀「でも、その工場が潰れちゃってさ」

花凛「えっ、そうなんだ…」

紫耀くん、めっちゃ波乱万丈…。

紫耀「工場のおっちゃん、すげぇいい人でさ、自分も大変なのに俺の職のこと心配してくれてさ。付き合いのあったこの自動車学校に口きいてくれて、そんで今、ここで働いてんの」

花凛「そうだったんだぁ、でも、人と接する仕事になっちゃったけど、大丈夫なの?」

紫耀「田舎って、だいたい18になったらみんな免許取りに来るからさ。その子たち、俺のこと知らないわけよ」

そっか…紫耀くんがテレビ出てたのって、8年前だし、10歳だとあんまり芸能人知らないよね。私も子供の頃にテレビで見た人の顔、あんま覚えてないし。

それに紫耀くんのグループって、デビューから一気に売れたけど、実はテレビ出てた期間ってほんの2年くらいなんだよね。流行りの移り変わりも早いし、確かに世間はすぐに忘れてしまうのかも。

紫耀「まぁ、俺も過去の人だから、もうそんなに日常生活に支障はないんだけどねー」

花凛「…私はこの8年、忘れたことなんてなかったけど」

紫耀「…」

花凛「えっ!?あっ!ちが…っ!元気にしてるかなー?って、ずっと心配してたって意味!…だよ?深い意味ないよ!?」

わぁ~っ!何言ってんだ、私…Σ(゚Д゚ υ) ついつい心の声がポロリと…。

花凛「でもさ、人と接する仕事してくれてたからこそ、こうして再会できたから良かったよね!若い子しか来ないと思ってたら、こんなおばちゃん来て、びっくりした!?ハハ」

慌ててまた変なテンションになる。

紫耀「花凛、全然おばちゃんじゃないよ!昔と全然変わってない…っていうか、もっときれいになってて、びっくりした…」

花凛「…」

今度は私が無言になる。嬉しい。すっごく嬉しいけど、なんて答えたらいいのかわかんない。

紫耀「あっ!いや!ちが!客観的に見て、きれいだなってことで…、深い意味はないよ!」

また変な間。

どうしよう、なんかうまく話せない。

花凛「で、でもさ、紫耀くん、昔から車好きだったから、車関係の仕事合ってるよねー。そういえば昔、紫耀くんさ、誕生日プレゼントに”車がほしい”って言ってたよね。私が買えるものを言ってほしかったのにさ、びっくりしちゃったよ」

ん?やば。

うまく話題逸らしたと思ったけど、付き合ってた頃の話とか逆にNGじゃーん!また変な空気になってるよ!

紫耀「あぁ…言ったね。免許取って、車買って、花凛とドライブするの夢だったからさ」

え?私とドライブするのが夢だったの?誕生日の時のあれってそういう意味だったの?普通に車好きなだけだと思ってた。

紫耀くんの運転する車の助手席に乗ってドライブ…叶わなかったその景色を想像してしまう。

花凛「じゃあ、今、夢叶っちゃったね、ドライブ」

照れ隠しに、とっさにおどけてしまう。

キーンコーンカーンコーン。

紫耀「あ、やば。お喋りしてたら終わっちゃった。まぁ、今日はほとんど運転前の注意と車の中の名称の説明だから、おまけで合格にしとくね」

そう言って紫耀くんはポンとハンコを押してくれた。

花凛「紫耀くん…!」

車を降りて先に歩き始める紫耀くんを追いかける。

まだまだ話したいことがたくさんある。

紫耀「あ、ここではその呼び方やめよっか。他の人の目もあるから。平野先生、で。一応、教官と生徒だからね。」

花凛「え…、あ、はい。平野…先生」

あれ…なんか、急に冷たい。さっきまで普通に(…でもないか。かなりギクシャクはしてたけど)話してたのに。

なんか、すごいシャッター閉められた気がした…。

3話へ続く

キンプリ妄想歌詞小説「Doll」3話

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