あのスマスマでの謝罪会見の裏側。
事務所が本当に放したくなかったのは、中居だった!?
木村のとった不可解な行動の理由とは・・・?
フィクションです。
木村サイドストーリー
「話が違うじゃないですか!?」
ある日、俺は上から呼び出された。
そして、聞かされたのだ。
今後、吾郎、剛、慎吾の仕事を一切受けないつもりだと。
「どうゆうことですか!?僕が事務所に残れば、みんなもお咎めなしで元通り事務所に戻してくれるって話でしたよね!?」
そう、俺が事務所残留を迫られたあの日。
中居が察したように、俺は家族を盾に脅された。
しかし、実は中居には言っていない条件がもう一つ提示されていたのだ。
もし、このまま事務所を出るのなら、メンバー全員に対する嫌がらせのでっちあげ記事を出し、とことんイメージを下げ仕事が来ないようにしてやると。
俺が残ることを決めれば、独立の話は聞かなかったことにし、今まで通りの活動をさせてくれると。
俺たちの仕事にとって、イメージは命と同じくらい大事だ。
その脅しは強力だった。
俺は、仲間を守りたかった。
だけど、そんな脅しを受けて俺が残留を決めたことを知ったら、中居は怒り狂うだろう。
俺に守られて、素直に「ありがとう」なんて言うようなヤツじゃないしな。
「そんなの話が違います!!それになんで吾郎たちをそんな・・・!」
「だって、一度は事務所を裏切ろうとした人間をそう簡単に許せると思う~?自分のやったことへの責任はとってもらわなくちゃね。どうしてあなたに最初に残留話を持ちかけたかわかる?」
得意げに話すそいつは、勝ち誇ったような憎たらしい笑みを浮かべる。
「家族持ちだったから落としやすいって理由もそりゃあるけどね~。でも、本当の理由はそこじゃないのよ?ふふっ。もし、中居を先に落としたらどうなってたと思う?中居なら、きっと自分だけが犠牲になってあとの4人だけでも自由にさせてやろうとするんじゃない?」
そうだ。
きっとそうする。
中居にすがろうとする俺たちを怒って威嚇して蹴り飛ばしてでも、自分が嫌われるような下手な芝居をうってでも、自分から俺たちを引き離そうとするだろう。
「そして、4人を先に外に出してしまえば、中居の弱みはなくなってしまうでしょ?そしたら、あの人は何をしでかすかわからない。どんな手を使っても、4人の後を追うかもしれないじゃない?だけど、あなたを先に人質にとったら?中居はあなたを捨てられる?捨てられるわけないわよね~.」
俺はハッとする。
上の本当の狙いは、中居だったのだ。
メインMCの冠番組を持つ中居は、圧倒的にSMAPの中で一番多くの金を稼ぎ出す。
中居が稼ぎ出す莫大な金を、こいつは手放したくなかったのだ。
こいつの言った通り、俺の弱みが家族だったように、中居の弱みはSMAPだ。
他の4人のメンバーの名前を出せばいくらでも言うことをきくだろう。
でも、自分が犠牲になることをあいつは厭わない。
俺たちを自由にした後なら、あとは自分の身の保証も考えずに何をするかわからないようなやつだ。
中居をつなぎとめるために、一番確実な方法。
それは、俺を人質にとること・・・。
そうゆうことだったのか。
俺は愕然とする。
誰にも言わずにみんなを救えたヒーロー気取りだった自分が恥ずかしくなる。
中居をまたこの牢獄に閉じ込めてしまっただけではなく、吾郎と剛と慎吾の仕事まで奪われそうになっている。
「でもね~、私だって鬼じゃないのよ~?一生お仕置きをするなんて言ってないの。あなたと中居が奴隷のように私の言う通りに働いてくれたら、いつかは3人にも仕事を戻してあげてもいいのよ~?」
その憎たらしい顔を、踏みつけてやりたい気持ちになる。
俺は昔から喧嘩っぱやくて、すぐに熱くなる。
中居だったら、どうやってこの場を切り抜ける?
中居だったら、もっとうまく・・・。
いや、でもダメだ。
今度中居が辛いときには、俺が救うと誓ったじゃないか。
頼っちゃダメだ。
今こそ、俺があいつを救うときだ・・・!
しかし結局俺は、中居に全てを話し相談した。
「ちくしょー。なんて汚いんだ・・・」
中居は顔をしかめた。
「中居、お前は3人を連れて事務所を出ろ。こんなところに残るのは俺だけでいい。事務所は嫌がらせの記事を出してくるだろうけど、お前が一緒に行けばなんとか3人を守れるかもしれない」
イメージを悪くされる記事を出されたとしても、ここにいて全ての仕事を断わられるよりはまだマシだ。
険しい道かもしれないが、中居の力をもってすればなんとか生き残れるはずだ。
中居は険しい顔で俺を見上げる。
「・・・お前を置いてはいけない」
「大丈夫だ。俺は残れば身の安全を保証すると言われている。干されはしない」
嘘をついた。
そんな約束をされたわけではない。
俺だって、どうなるかはわからない。
でも、こうでも言わなければこいつは俺一人だけを置いてはいけないのはわかっている。
だけど、中居がそんなことで納得するはずもなかった。
「事務所の言うことなんか、信用できねー!こんな危険な場所に、お前一人を置いてはいけない!」
確かに一人になるのは怖かった。
一人になった俺に、一体どれだけの力がある?
だけどみんなでここに残れば、吾郎たち3人の未来はない。
中居が決められないのはわかる。
3人を取るのか、俺を取るのか。
そんな残酷な選択を俺は迫っている。
しかし、その決断ができずにいる間に、先手を打たれた。
2016年1月。
SMAP解散・独立騒動が流れた。
リークしたのは、他でもない事務所だった。
そして、大騒ぎになった世間に直接の言葉で説明をするため、謝罪会見を行うことが決まった。
こうして、俺たちに身動きを取れないようにしようとしているのだ。
筋書きはこうだ。
残留を最初に決めたのは俺と中居。
あとの3人が最後まで会社に反旗を翻していた。
しかし、俺と中居の説得により改心したと。
3人のイメージを落とし、テレビから消していく準備を着々と始めようというのだ。
当然、中居はこれに同意しなかった。
俺と中居は、会見の直前、もう一度上に直談判しに行った。
俺が一緒に来てほしいと中居に頼み込んだのだ。
「せめて、3人だけは自由にしてください!俺たち2人が残ればそれでいいんでしょう!?」
「だから~、わかってないわね。3人がいなくなったら、あなたたちは怖いもんなしでしょ?3人を瀕死の状態で生かせておくことに意味があるんじゃない。3つの金の卵を封印してしまうのは惜しいとは思うわよ?でも、それによって大きな金の卵2つが私の思い通りに動くんだったらおつりが来るじゃない?」
何度考えても八方塞がりだ。
生放送の時間は刻一刻と迫る。
楽屋には、事務所が用意した衣装のネクタイと、俺たちに喋らせる予定のコメントが用意されていた。
俺と中居には白いネクタイ。
あとの3人は黒いネクタイ。
わかりやすく“善”と“悪”を視聴者に印象づけようとしている。
なんともやることが稚拙だ。
そして、コメントは俺と中居が
「事務所への恩義を思いだし、やり直すことに思い直した。これからは生涯をかけて事務所に恩を返していく。そして、解散も独立も絶対にありえない」
といった内容だ。
そして、あとの3人には反省と謝罪の言葉が用意されていた。
「俺は、ぜってー上の思い通りになんかやんねーからな」
楽屋で、まだ中居はふてくされている。
「お前だって、あいつらの言いなりになるつもりじゃないだろ?」
中居が俺に問いかけるが、俺は黙って白いネクタイを締める。
「なぁっ!?何とか言えよ!木村!!」
俺は答えない。
「ねぇ。俺、ファンに嘘はつけないよ」
慎吾が言った。
この先も、ずっと事務所にいる勇気が持てないでいるのはみんな同じ気持ちだった。
「大丈夫だよ、慎吾。俺だって、ファンに嘘はつかない」
中居が慎吾をなだめる。
きっと中居は、用意されたコメントをその通りには喋らないだろう。
“独立しない”という断言した言い方は避けると思う。
今はダメでも、何か突破口があるはずだ。
ここで心中なんてまっぴらごめんだ。
みんなが生き残れる道がどこかに・・・。
「もうすぐ時間だ。とりあえず行くしかないだろ」
俺は、そう言って一人先に楽屋を出ようとする。
自分たちに降りかかろうとしている残酷な運命を何も知らない吾郎、剛、慎吾は、俺と中居が醸し出すピリピリムードを全ては理解できていない困惑顔で、とにかく用意された黒ネクタイを締めて俺の後に続く。
一番最後にスタジオ入りした中居は、黒いネクタイを締めていた。
急遽マネージャーに言って調達してもらったようだ。
「俺はこっち側でいーや。これで俺も干されるかもな。だけど、あいつら3人を見捨ててまで、自分だけ助かりたいとは思わない。俺たちはずっと一緒にここまで戦ってきた戦友だ。なら、死ぬときも一緒だ。なぁ木村、お前はどう考えてんだよ?おいっ木村っ!!」
中居には、俺が一人だけ助かろうとしている裏切り者に見えているだろうか。
「これでいい。これで、いいんだ」
俺は中居を振り切りセンターに立つ。
顔を真っ直ぐに上げて。
自信満々に堂々と。
「本番いきまーす!5、4、3、2・・・」
会見の口火を切ったのは、シナリオ通り俺だ。
「今日は、2016年1月18日です。・・・」
緊迫した中で、それぞれがコメントを発した。
しかし、メンバーの誰ひとりとして“独立しない”という断言した言葉は、最後まで使わなかった。
事務所の用意したコメントから、その言葉だけは削除した。
ささやかな抵抗だ。
「ファンに嘘はつけない」。
その慎吾の言葉が、みんなの脳裏に浮かんだからだろう。
「これから何があっても、ただ前だけを見て・・・」
5人が見ている方向は同じだ。
もう、一緒にはいられなくても・・・。
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