チョコレートコスモス2

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この小説は、

「死んだ人と、せめて電話で話すことだけでもできたらいいのに・・・」

そんな切実な願いをテーマにした、とても不思議な物語・・・。

チョコレートコスモス1




チョコレートコスモス2

僕はすぐに彼女の携帯に電話をかけた。

「この電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていません・・・」

受話器から聞こえたのは、無機質な声だけだった。

待て。それは当たり前じゃないか。

彼女は今、飛行機の中なんだ。

別に電話が繋がらなかったからと言って、何も不思議なことはない。

それが彼女の乗っている飛行機がどうこうなったということに直結するわけではない。




僕は待った。

新しい情報が入るのを、ひたすら待った。

しかしすぐにマスコミが大勢駆けつけ、空港の到着ロビーは大変なことになってしまった。

マスコミには、僕にもマイクを向ける。

「今日は、お迎えにいらっしゃったんですか!?」

「飛行機に乗っていたのは、どういったご関係の方ですか!?」

彼らの目は輝いていた。

家族や友人、恋人を失うかもしれない不安に泣き叫ぶ人々の画をどれだけドラマティックに撮れれるか、そんな思いで興奮しきっているようだった。

僕は、ひとまず空港を離れることにした。

別の場所で情報を待ったほうが落ち着いて彼女の無事を願う。

電車に乗りこもうとしているところに、友人の優介から電話がかかってきた。

「もしもし・・!お前、ニュース見たかよ・・・。あ、あれって・・・早季ちゃんの乗った飛行機だよな・・・?」




優介は大学時代の友人で、早季とも共通の友人で3人でよく遊んだりもしていた。

優介は、その名の通りとても優しくて友達思いの男だ。

真面目一筋で奥手だった僕が、早季に好意を寄せているのを感じ取って、仲を取り持ってくれたのも優介だった。

そして、今回早季へ渡す婚約指輪を選ぶために、何をどう選んでいいのかわからないと僕が相談すると、優介は自分の彼女がお気に入りだというブランドの店を紹介して、買い物にも付き合ってくれたのだ。

和也「空港、行ってきたけど、まだ何がなんだかわからない状態で・・・。いやでも、まだ飛行機の交信が途絶えただけで、本当に何かあったかどうかはわからないし・・・」

僕は、ただひたすら自分の願望を話した。

優介「お前、ニュースまだ見てないのか?」

和也「え?いや、さっきまでは携帯のニュースで・・・」

携帯のニュースは逐一チェックしていたが、空港からここまで抜け出してくるのに、かなりの人ごみをすり抜けてきたため、携帯を見る余裕がなかった。

まさかその間に、状況が変化したのか・・・?

優介「飛行機、墜落してたの見つかったって。生存者は・・・絶望的な状態だって・・・」

嘘だ。

嘘だ、嘘に決まってる。

墜落・・・?

早季の乗った飛行機が・・・?

じゃぁ、早季は?

早季はどうなってしまったのだ?

僕たちは、今日3年ぶりにやっと再会できるはずだったのに・・・?




僕は呆然とその場に立ち尽くした。

受話器からの友人の声も、周りの雑踏も何も聞こえなくなっていた。

何本もそのまま電車を見送った。

やっと僕は、携帯に目をやる。

いつのまにか優介との電話は切れていた。

その代わり、メールが入っていた。

「また続報がわかったら連絡する」

この携帯で、いつもビデオ通話を使って早季と話をしていた。

今はいい時代になって、声だけじゃなくて顔を見ながら話をすることもできる。

しかし

「やっぱり会うのとは全然違うね」

なんて、いつも不満を漏らしていた。

だけど、電話で声が聞ける。

それが、どんなに幸せなことだったのか。

どんなに離れてたって、遠くのどこかで早季が元気でいてくれれば、それで十分だったんじゃないか。

僕は、どれだけ強欲だったんだろう。

多くを望みすぎていた。

神様、どうか時間を戻してください。

もう会えなくてもいい。

せめて、この携帯でだけ繋がれる、そんな関係で十分です。

だから、僕から早季を奪わないでください。

つい昨日まで、このボタンを押せば、簡単に早季と繋がることができたのに・・・。

僕は、もう一度早季に電話をかける。

トゥルルルル・・・・

この呼び出し音の後に、またあの無機質な声が聞こえてくるのだろう。

再び早季の声を聞くことはできないのか・・・。




「もしもし」

え・・・・?

受話器から聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。

甘ったれたような、ちょっと舌足らずな喋り方。

それは、紛れもなく早季の声だった・・・!

チョコレートコスモス3

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