どうして木村は一人だけ事務所に残留することを決めたのか。
そしてそれを受けた中居は・・・?
中居と木村、それぞれの大切なもの。
中居サイドストーリー
俺は、普段あまり木村と二人で話をすることはない。
それを“不仲”だと面白がって書く週刊誌はたくさんあるが、もう仲がいいとか悪いとかそうゆう関係ではないのだ。
だって、学生の頃からずっと一緒にいる。学校が終わってもずっと一緒だ。
長年連れ添った夫婦は、「ああ」とか「ん」とかでなんでも通じ合っちゃうって言うだろ?
それと同じだ。
よく俺と木村がSMAPの父親と母親に例えられることがあるが、そうゆう意味ではあながち嘘ではないのかもな。
もう言葉を交わさなくても、あいつの考えていることはわかる。
だから、俺はわかってしまう。
今、あいつが何かを胸に秘めて苦しんでいることを。
「もしもし・・・俺だけど」
「はぁっ!?中居!?なんだよ、突然電話なんかしてきて」
木村はちょっと不機嫌そうな、でもどこか弾んでいるような声で答える。
木村に電話なんかしたのはいつ以来だろう。
仕事の連絡だってマネージャーを通すから、直接電話なんてすることはないのだ。
だけど、今こいつにとって何か非常事態が起こっている。
直接話さなければいけないと思った。
俺は木村を呼び出した。
やってきたのは焼肉屋だ。
個室で、落ち着いて話ができる。
それに、この店は大切なことを話すときに何度も使っている俺たちの思い出の店でもある。
「お前、俺に何か隠してることあんだろ?」
「は?何が?別に、何もねーけど・・・」
全く俺の目を見ない。
嘘をついている証拠だ。
「おい、ちゃんとこっち見ろって。何だよ?何悩んでる?」
木村は肉をつついていたが、トングを持った手が止まる。
肉が焦げていく。
「俺、SMAPのこと、本当に家族みたいに思ってっから・・・」
「何?どうゆう意味だよ?」
「でも、俺にはもう一つの家族がある」
「あぁ、そりゃな。もう一つってゆうか、そっちが本当の家族だからな?」
そう言って、ハッとする。
木村は、うちで唯一の妻子持ちだ。
狙うなら、大切なものを持っている人間。そういった人間が、一番弱いから。
「もしかして、家族のことで脅されてるのか?」
上は、家族持ちの木村に目をつけた。
もし本当に事務所を出るのなら、家族が世間で生きていけないようにしてやると。
簡単なことだ。
マスコミを使えばいい。
あることないこと書くのはマスコミの得意技だ。
家族にとって悪い記事を書けば、世間は簡単にそれを信じてしまう。
そしてそのやり方は、どんなに人を傷つけようとも犯罪ではない。
そうやって、人の心をズタズタにする方法などいくらでもあるのだ。
上は、うちのエースが稼ぎ出す金を、どうしても手放したくなかったのだ。
そのために、こいつを脅して事務所に引き止める作戦に出た。
「娘たちのことを思うと、俺どうしたらいいか・・・。でも、今さらメンバーみんなで決めたことを覆せないし・・・。もうどん詰まりだ・・・」
自由になる宣言をする日まで、あと何日というところだった。
でも、俺はメンバー全員の笑顔を守るためにその道を行くと決めたんだ。
こいつにこんな顔をさせるなら、その道を行くのは間違いだ。
「止めよう、独立」
「えっ・・・?」
木村が驚いて顔を上げる。
「前にも言ったよな?お前が大切に思うものは、俺も一緒に守るって」
それは、10年以上も前のことだ。
木村から「結婚したいと思っている」と相談を受けたときに俺が言った言葉だった。
何度でも言ってやるよ。
「俺が絶対にお前を守る。お前が大切と思うものを、一緒に守るから」
「でも・・・」
「気にすんなって!お前に辛い顔させてまで、外でやったって面白くも何ともねーよ!」
「ごめん・・・本当にごめん・・・」
こんな木村の素直な言葉、なかなか聞けねえな。
自由になる宣言まであと数日だったのに、俺たちの華麗なる逆襲は、こうして阻まれた。
あとちょっとで、ずっと俺たちを苦しめてきた憎きやつの驚いて悔しがる顔が見られたんだけどな。
まぁ、いいか。
もっと貴重なもん見られたからな。
いつも自信満々のこいつの、こんな弱った顔も、他の誰も見たことねえんだろうな。
俺、今役得かも。
こいつ、普段見せてないけど、本当にいい父親なんだな。
まぁ、ちょっと寂しいってゆうか、妬ける気持ちがあるのは正直なところ。
こいつには、俺たちと同じくらい、いや俺たちよりもか?大切なものがあるんだな。
俺には、お前らが一番、お前ら以上に守りたいものなんて何もないってゆうのに。
悔しいからぜってーそんなこと言ってやんねーけどな!
こうして水面下で画策していた独立作戦は、日の目を浴びることなく消滅したはずだった。
しかしその矢先、週刊誌にすっぱ抜かれてしまう。
「SMAP独立か!?」
2話のモデルとなった中居くんが木村さんを電話で呼び出し、木村さんが普段携帯に出ない名前を見てびっくりしてしまうというエピソードはこちら!
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