【SMAP × King & Prince】歌詞小説「君と僕の6ヶ月」 3話「ヴィーナス」 (SMAP「オレンジ」恋愛三部作)

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このお話は、SMAP「オレンジ」恋愛三部作をモデルにした音楽小説です。

SMAPの名曲の数々を今の若い子に布教するため、主役はキンプリの岸くんです!

 

私の小説は、曲の歌詞からストーリーを考えている“音楽小説“となっています。

今回は、SMAPの隠れた名曲「君と僕の6ヶ月」の歌詞に沿ったストーリーです。

 

 

 




 

金星。
英語で言うとヴィーナス。
ギリシャ神話で言うところの「愛と美の女神」。

その美しさから全ての男を虜にしていた。

夜空イラスト流星SMAP「君と僕の6ヶ月」

 

 

 

「えっ!それ、まさに私のことじゃん!愛と美の女神!
どれどれ?金星って」

 

彼女はワクワクしながら身を乗り出す。

 

 

 

藍沢美華。
彼女は俺より3つ年上の23歳。
OL兼キャバ嬢。

 

 

清楚で整った顔立ちと、笑うと途端にちょっと幼くて人懐っこくなるところ、すらりと伸びた華奢で白い手足、そのどれもが男たちを惹きつけてやまない。

 

 

そんな高嶺の花と、二人で会える時間を俺は奇跡的にゲットした。

あれから、彼女のキャバクラのバイトの帰り、そして俺の深夜のバイトの休憩時間20分だけ、いつもこの公園のベンチで会うようになった。

 

 

OKしてくれたのはどういう風の吹き回しなのかさっぱり分からないが、たぶん「なんか面白そう」とでも思ってくれたのだろう。

 

 

「楽しい時間をあげる」と豪語した以上、何かしらの話のネタを持って行かなければと、俺は彼女と公園で会う前日の夜には、大学の授業の勉強もそこそこに、ちょっとした雑学を予習して仕入れていくのが日課となっていた。

今日は夜空を見上げながら、星にまつわるギリシャ神話の雑学を披露している。

 

 

 

 

「探すまでもないよ。ほら、あそこにひときわ明るい星があるでしょ?」

 

金星は、 他の星の追従を全く許さないほどに、圧倒的な光を放っている。
周りとの差は歴然。
確かにその美しさは、彼女の美しさに例えられる。

 

「だけどね、愛と美の女神、ギリシャ神話で言うとアフロディーテという名前なんだけど、アフロディーテにはその美しさとは裏腹に、知られざるとんでもない一面があったんだよ」

 

 

彼女が「はて?」と首をかしげる。

 


 

アフロディーテはその見た目の美しさとは裏腹に、かなりの性悪女だったらしく、結婚してからも浮気グセが治らなかった。
あらゆる美しい男に手を出していた。

 

アフロディーテがむりやり結婚させられたのはヘパイストスという醜い男。
その容姿を嫌悪するように、美しい男とばかり浮気を繰り返していたアフロディーテ。
中でも一番のイケメン、アレスをひどく気に入ったアフロディーテは、ヘパイストスの留守中に家に連れ込み情事に及んでいた。

 

 

ヘパイストスはある日、アフロディーテの 浮気現場を押さえるため、ベッドに見えない網を仕掛ける。
アフロディーテとアレスが裸でベッドで抱き合っているところを、縛り付けて動けないようにしてしまった。
そしてそんな二人の姿をたくさんの神に見せつけ、愛するアフロディーテを辱めたのだ。

 


 

「なにそれ〜! その男めちゃくちゃ陰険じゃん! さいってー!キッモ!いくら浮気されたからって、本当に愛している人にそんなひどい仕打ちできなくない!?」

 

「そうかな、 逆に本当に愛していたからこそ解放してあげたんだったりして」

 

 

最初にこの話を図書館で読んだ時、俺も子供ながらにヘパイストスのやり口は最低だと思った。
悪いのはもちろんアフロディーテだが、こんなやり方で懲らしめなくてもいいではないか。
それにこんなやり方をしてしまったら、絶対にアフロディーテの心はヘパイストスに戻っては来ないだろう。

 

 

しかし、結局その事件の後、ヘパイストスはアフロディーテに離婚を突きつけ追放する。
どうせ別れるなら、どうしてそんなことをしたのか?

 

 

もしかしたらヘパイストスは、自分とはかけ離れたあまりにお似合いな美しい二人の姿を見せつけられ、アフロディーテの心がもう自分にはないことを悟った。

二人の関係をみんなに見せつけることで、自分の気持ちへの区切りとしたのではないか?

なんとか彼女をモノにしたが、ずっと自分に自信が持てなくて。

 

 

彼は本当に彼女のことを愛していたのではないか?

 

 

だから、彼女とアレスの姿をわざと目の当たりにすることで、彼女の事を諦めようとした。

いや、もっと深読みするならば、卑劣な方法で完全に自分を嫌わせることで、彼女を解放することを決意したのではないか?

 

 

自分だったらどうするだろうか?と俺は考えた。

 

 

自分と会っている時間の前に、キャバクラで客の男たちに媚びて笑う彼女の姿を想像すると、やはり複雑だ。

 

 

でもだからといって、それを咎めて嫌われるのも怖いし 、ヘパイストスのようにスパン!と見切りをつける潔さもない。

いいんだ、アレスとは遊びだろ?毎晩俺のところに戻ってきてくれるのなら、それでいいんだ。

 

 

 

 

「相手を幸せにするために、自分が嫌われるように仕向けるなんて、私だったら絶対ありえなーい!自分の好きな人が他の誰かと幸せになるなんて、絶対嫌!どうして”自分が幸せにしてやる、何が何でも離さない!”って思わないのよ!その時点で愛が足りないのよ!」

 

 

美華は鼻息荒く怒っている。

 

 

「だけど、あーんなに綺麗なのに、もったいなーい。ヴィーナス、愛と美の女神ってところまでしか知りたくなかったなぁ~。夢が壊れちゃった~」

 

 

その言葉、本当にそっくりそのまま君にお返ししたい。

俺は、彼女が見上げている金星を一緒に見上げた。

 




その時二人の視線の先に、ピューン!と明るい光が伸びていった。

 

美華「あ?!あ、あ、あ、あぁーーっ…」

 

二人「…流れ星!!」

 

二人の声がシンクロした。

二人は思わず手を取り合って、飛び上がるように立ち上がった。

 

「み、見た今!?」

 

「見た見た!すごかった…!!」

 

「私、あんな長いの初めて見た!しかもめっちゃ長かった!」

 

「お、俺だって!す、すげーっ!」

 

 

俺たちははあまりの興奮に、かわるがわるしゃべった。

 

はたと我に返ると、きつく握られた両手と、あまりに近くにあった彼女の顔に、驚いて俺は飛び退いた。

 

「わわっ!ごめん…っ!ちょっと取り乱しました…!」

 

両手をバタバタさせてアワアワする。

 

 

「そりゃ取り乱すでしょ今のは!」

 

彼女のほうは全くドキドキしていなかったらしい。

男との至近距離は慣れているってことか。

 

 

「あ〜ぁ、あんまりびっくりしたから願い事言うの忘れちゃったー。あの長さだったら絶対願い事3回言えたよね!?

優太は何か願い事した?」

 

「 願い事?いやぁ…。今落ち着いて考えても、特に思いつかないっす」

 

「そっかー、医大に合格している時点で、もう医者になるっていう夢は叶うんだもんね。なにも星に願わなくてもいいってことか」

 

「いや、別に俺は医者になるのが夢ってわけじゃないっす。前に話したと思うけど…」

 

「私の夢はねー…歌手になること!」

 

彼女は俺の話も聞かずに唐突に言った。

まさかそんな現実感のない夢が飛び出すとは思ってなかったので、俺はしばらく絶句した。

 

「ねぇ!今、23歳で歌手とかもう遅いだろ、とか思ったでしょー!」

 

「え、あ、いや…」

 

う、うん…ちょっと思った。

 

 

「あのねー、私はちょっと顔がかわいいからってアイドル歌手目指してるわけじゃないのよ!?私がなりたいのは、もっとちゃんとした本物の歌手なんだから!

お金貯めて東京行って、絶対夢叶えるんだから!」

 

俺がまだ本気で聞いていないようで不満だったのか、美華は突然ジャングルジムに登り始めた。

頂上に立つと、手を挙げて高らかに宣言した。

 

 

 

「藍沢美華、歌いまーす!」

 

 

そう言って、美華はエアギターで歌いだした。

そのブッ飛んだ行動に呆れる間もなく、俺は思った。

 

 

あ…、また見つけてしまった。

彼女を好きな理由。

 

 

 

公園の静寂の中に、美華の通る声がどこまでも伸びていく。

それは、本当に本格的な歌手を目指せるほどの歌声だった。

 

 

勉強なんかで手に入るものではなくて、彼女にしかない才能。

そして、「これが私の夢です!」と言える確固たるものを持っている輝き。

 

 

やっぱり彼女は自分とは違う。

だから惹かれるんだ。

 

 

見た目の美しさを武器に、男たちを翻弄する、ワガママで気が強くて自分勝手な、だけど、最高に魅力的な俺の女神だ。

 

 

 


 

帰り道。

 

「でもほんとすごかったよねー!あの流れ星!

私思ったんだけどさ、さっきはちょうど空を見上げていたときに流れたから気付いたけどさ、今こうやって普通に前見て話しているときに頭の上で星が流れてても気付かないわけでしょ?だから、本当は普段気付かないだけで、すぐ頭の上をいっぱい流れ星が流れてるかもしれないってことだよねー」

 

「いいところに気付きましたね。実は流れ星というのは、24時間で言うと数億個発生していて、でも肉眼で見えるものは限られていて、1時間に3~7個ほど…」

 

「あ~!またそうやって理屈っぽく正解言っちゃうと夢がなくなるから!私が言いたいのは、普段気付かないだけで、すぐ近くに幸せが転がってるかもねーってことでぇー」

 

美華は呆れたように言う。

 

 

またやってしまった…。

こういうところが「女心がわかってない」と言われるところなのだ。

 

 

「俺ってさぁ…、ほんっとに知識は無駄にあるんだけどさぁ、口下手っていうか、言うことズレてるっていうか、女心がわかってないっていうか…」

「あはは!確かに!モテないのわかるわぁ~」

 

 

「モテない」とは別に言ってないんですけど…。なぜにモテない前提…?

 

 

「でも、最近はそういうところもなんか面白いなって思えてきてるけど」

 

ん?今褒められたかな?

さらりと言って前を歩き始めた美華の背中に、思いを込めてその一言を投げかける。

 

「美華」

 

 

「え?」という表情で美華が振り向く。

 

「…って呼んでいい?」

 

 

実は、それは一度挑戦して断られている。

自己紹介をした直後から、美華は自然と俺のことを「優太」と呼び始めた。

あまりの急な距離感の詰め方に戸惑ったが、嬉しかった。

そこで、俺もさりげなく「美華」と呼んでみようとしたが

「彼氏でもないくせに、100年早い!」

と怒られた。

 

では、なぜ自分は彼女でもないくせに馴れ馴れしく「優太」と呼ぶのか…。

もちろんそんな理屈は自分至上主義な彼女には通用しないから、「私は特別だからいーの!」でふっ飛ばされてしまったのだが…。

 

 

だけど、今ならそんな彼女にもう一歩近づけるのではないか。

さっきの流れ星にそんな願いをこめて。

 

 

「だから~!呼び捨てで呼んでいいのは彼氏だけって言ったでしょー!優太のくせに生意気~~!」

 

美華は俺の口を両手で掴みビヨビヨする。

 

「は、はから〜、はれひ(彼氏)になるっていう、はのうへい(可能性)は…?」

 

「ないよ!」

 

食い気味で美華が答える。

 

 

「だって私、彼氏いるもん!一緒に住んでるし!」

 

美華はマンションを指差す。

 

 

俺は、美華の言葉を頭の中で反芻し、数秒かけてやっと言葉の意味を理解する。

 

 

「えぇーーーーっ!!?か、彼氏いんのーーーっ!!?」

「うん、言ってなかったっけ?」

 

 

美華がキョトンとして答える。

 

ない、ない!!

言ってないって!そんな大事なこと!!

 

 

それで、やっと理解する。

美華がいつも買っていたのは、彼氏の分の食料や酒やタバコだったのではないか?

どうりで随分量が多いと思ったが、大食いの大酒飲みだったのではなくて、単に二人分だったのだ。

 

マ、マジかぁ~~~~・・・・!!

 

 

「えっと…、じゃあ俺と会ってくれてたのは、なんで…?」

 

実は、美華が自分といる時、けっこう楽しそうにしてくれていると自負していた。

自分は貢ぎ物を餌に会ってもらっているキャバクラの客の男たちとは別格なんだと。

 

 

「う〜ん?友達…だから?」

「友…達?」

「うん!そういや私、友達って優太しかいないんだよね。男友達はみんな私のこと好きになっちゃうから友達でいられないし、女友達は私がモテ過ぎるから、みんなからひがまれて嫌われるし」

 

美華に女友達も男友達もできない理由は妙に納得できた。

 

でも、待て待て。

俺も美華のことを好きになっちゃってる男の一人なんだけど。

子供扱いされているのか、なぜだか勝手に俺は友達枠に振り分けられているようだ。

 

 

「優太は初めてできた友達!優太といると楽しい!」

 

ニコニコと美華が言う。

 

彼氏がいるって事実を聞く前なら、半ば告白と受け取って勘違いしてしまうぞ。

これは天然で言っているのか、それともこれこそが男を手玉に取る彼女のテクニックなのか。

 

でも、この前まで”ペット”扱いだったのだから、友達に昇格しただけでも喜ぶべきか?

一応人間になれたわけだし。

いやいや、そんなわけないだろ!好きな女に彼氏がいたんだぞ!?「友達」って言われて喜んでる場合かよ!

 

 

 

「おんなじなんだよね、ゆうた」

彼女がはふふっと笑う。

 

「同じって、何が…」

「ゆうた。彼もね、ゆうたって名前なの。彼は勇ましい方の勇太」

「え…」

 

 

…そうだったのか。

なぜ彼女が俺と会うことを了承してくれたのか。

何かしら俺に興味を抱いてくれたからだと、少しだけ期待していた。

 

 

あの時、彼女は俺の名札を見て、彼氏と同じ名前だと気付いた。だからほんの少しだけ興味を抱いた。

ほんの悪戯心のような、それっぽっちの興味だったんだ…。

 

 

 

「じゃあね!今日もありがと!おやすみ優太!」

 

美華は手を振り、マンションに入っていく。

 

 

今までこんな簡単なことにも気づかないほど浮かれていた。

もし彼女が一人暮らしなら、彼女がマンションに入っていったすぐ後に、どこか暗かった部屋に灯りがつくはずじゃないか。

その日、こんな時間に窓から灯りがこぼれている部屋は一つだった。

そして、彼女が消えていった後、しばらく呆然とマンションを見つめていた俺は、その他の部屋に灯りがつくことはなかったことに気づいていた。

 

 

 

 

 

自分がへパイストスだったら美華の浮気を許せるか?なんて、真剣に考えていたことに笑ってしまう。

俺は浮気を糾弾する夫のヘパイストスの立場なんかじゃなかった。

じゃあ浮気相手のアレス?

いや、友達枠なんだからアレスにも及ばない存在だったということか…。

 

 

恋人になった気でいた

君は今 誰かの腕の中…

SMAP「ひとりぼっちのHappy Birthday」作詞作曲:久保田洋二

 


 

 

 

そして彼女は、その日を境に、なぜだか僕の前に現れなくなった。

夜の公園にも、朝のバス停にも…。

 

 

 

続く

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